新・お色気賞金首 6
陽が沈むまで、ディーンは眠り続けていた
やがて、ぼんやりと目を開けて起き上がろうとしたのでそれを止めたサムだが、エリックから聞いた話のせいでどうにもぎこちない対応になってしまい、口を開く気分になれない
だが朦朧と熱に浮かされ、痛みを堪えるディーンはスープを無理矢理胃に流し込むと再び直ぐ目を閉じてしまい、サムは彼の父親についての話をする切っ掛けを失ったまま隣のベッドに潜って眠りに就くしかなかった
次の朝、陽の出と共に働き始める村の人々のリズムで起き出したサムが井戸から水を汲んで戻ると、ディーンは包帯だらけの体に薄い夜着のまま起き出し、小屋の玄関先から顔を覗かせた
「此処・・いい村だろ・・?」
「っ・・ディーン!、起き上がって平気なの?」
まだ柱に手をついて体を支えていたが昨日よりはずっと血色が良く、観察してから安堵の息を吐いたサムだが直後のディーンの言葉に急いで聞き返す
「ぁぁ、平気・・・・だからサム、明日にもここを出よう」
「??・・・どうして?・・駄目だよっ、昨日の今日でまだ熱があるだろ?」
冗談じゃないと呆れて見れば、ディ−ンはニヤリと笑った
「平気だよ、多分な・・俺はタフガイだから♪」
サムはいつもこんなふうに笑って心配事や苦しい事を自分に隠すディ−ンと、またエリックに聞いた仇の正体に対するる複雑な感情が入り乱れ思わず声を荒げてしまう
「・・多分って・・っ・・旅をするのに多分じゃ困るだろっ!
僕は今日御礼にこの村の仕事を手伝うから・・ディ−ンは大人しくしててっ!」
『黄色い瞳の悪魔』は、ディーンの父親
つまり、彼の肉親を自分は殺す為の旅をしているという事だ
これが冷静で居られる訳無い
「・・サム・・?」
滅多に感情に流されて当たるなんてしないサムの突然の変貌にディ−ンは呆気に取られた様子で、そのままずっと睨んでいるとやがてスゴスゴと寝室に引っ込み、大人しくベッドに入った
サムは朝食を済ませると言葉通り村の男達に混ざり少し離れた所にある岩山に僅かに残る薪木を集めに出掛け、ディーンはその隙に夜着からエリックが用意してくれていた服に着替えて自らの体を確かめるように裏庭に出た
その手には、火事の中でも手離さなかった愛用の銃
そして遠くに小さな石を置くと、精神を集中して狙いを定める
銃の腕はほんの少しのブランクでも驚くほど落ちるものなのだと、ディーンは経験で知っていたからだ
「すっかり有名人だな」
「っ・・・・エリック、驚かすなよ」
今まさにという瞬間、気配も無く背後から来たエリックに声をかけられ、ディ−ンは撃鉄から指を外した
「お前が俺達の服を着ているのを見ると、あの頃に戻ったみたいだ
頭に黄色の羽飾りを付けて・・・可愛かったよな、ディーン」
「・・はあ?・・何年前だと思ってるんだ、覚えてないだろ?」
「覚えてるさ・・・俺は14で、餓鬼だったお前の子守をよく頼まれてた
毛色が違って虐められてた所を助けたのだって、一度や二度じゃなかったぞ」
「・・ふん・」
ディ−ンは小さく鼻を鳴らすと構え、標的に向けて射撃を開始する
4回立て続けに撃って、遠くに4つ並んだ小石は全て見事に弾け飛んだ
「・・・凄いな」
「こんなもんだ」
ディ−ンはクルクル銃を回しながら振り返ると、エリックに言った
「そういえば、エリック・・・お前言っただろ?、サムに」
「・・何を?」
「惚けるなよ・・俺の親父の事だ」
あのサムが何か含みのある態度で自分に接するなど余程の事だと、昨夜熱に苦しめられていてもディーンは気付いたのだ
「・・ぁぁ・・」
漸く肩を竦めて見せてエリックは、サムが向った山の方角を見て目を細める
「サムは自称お前の恋人らしいからな・・だからだ」
「・・・?」
「だから、お前の真実を知って欲しかった・・男癖の悪さの理由も
・・そうすれば今後多少の浮気を知っても、離れて行くなんてしないだろう?」
溜息をついたディーンは、呆れてエリックを見た
「・・お節介だな」
「・・サムはずっとお前と一緒にいたいと言ってたからな
だが彼の仇は・・彼の両親の仇がお前の親父だと知って驚いて・・思わず口に出した、悪かった」
「・・まぁ・・・いいさ、本当の事だ・・サムにずっと真実を告げなかった俺も悪い
世の中本当の事がもっとも強く、正しいものだ」
「それに『俺達は嘘をつかない、白人は嘘をつく』か?・・先人の教えだな
しかし・・何だってサムの親殺しの疑いなんか掛けられたんだ?、ディーン
彼は最初お前を仇だと思い込んでいたと・・」
それはな、とディーンはふふふと笑った
「俺がサムの父親のジョンと付き合ってたからだ」
「・・・・・結果、親子丼かよ・・得意気な顔しやがって、呆れるな」
「ふん、呆れるも何も・・・言っとくが俺はお前とお前の親父でも親子丼したぞ、エリック」
「・・・・・・・」
ビシっと突きつけられた指の前にエリックはショックで何も言えなくなり、やがて背を向けると退散のポーズで手をヒラヒラ振った
そしてディーンはその後ろ姿に明日この村から立つ事を告げ、寝ていないと文句を言うであろうサムの為に再び家の中に入りベッドに横たわったのだ
「おかえり、サム」
「・・た・・ただいま・・」
陽が暮れて帰ってきたサムは目を少しも合わせようとせず、ディーンは村の女が持って来てくれていた夕食のシチューを食べながらじっと上着を脱ぐその強張った背中を見つめる
偶然か故意かは分からないが、エリックが告げた真実は何れディーン自身もサムに話さなければならないと思っていた事だったから、肝心な事はさっさと済ませようと空になった皿をテーブルの上に置いた
「サム・・朝も言ったが、明日村を出るぞ
お尋ね者が留まれば、その分この村を危険に晒す・・・分かるだろ?」
「・・・・」
「で、聞きたいんだけど」
ディーンは勤めてさり気なく、次の言葉を発した
「お前は、これからどうする?」
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