新・お色気賞金首 7
「・・どうする・・って・・どうゆう意味・・?」

サムは、呆然とディーンを見た

「別に・・そのまんまの意味だぞ」

だがディーンは何時もと変わらない表情で、真意を読み取ることが出来ない

「・・・・・」

どうすると聞かれても、自分の答えは一つだとサムは思った

当然、ディーンと一緒に行く

彼を愛してるから

彼と離れたくないから

だがディーンが尋ねて来るということは、彼はそうは考えてないと示している

「・・な・・なんでそんな事聞くんだよっ
 じゃ、もし僕が・・・これからはディーンと別れて旅するって言っても、いいと思ってるのっ?」

「そりゃあ・・」

サムは、食事を終えたばかりのディーンが行儀悪くベッドに飛び乗り、胡坐をかくのをじっと見つめる

「お前には、そう言う権利があるだろ?」

「権利?・・これが権利って問題っ?、違うよっ!」

「・・何、怒ってんだよぉ・・」

ムカムカするサムの前で、ディーンは火傷の痕が痒いのか包帯の中に手を突っ込んでボリボリ掻いていたが、やがて続く沈黙の中項垂れて言った

「・・・・ぃや、悪い・・サム・・」

「・・・?・・・」

「お前が何に対して怒ってるのかは分かってる
 俺が『黄色い瞳の悪魔』の正体を黙ってた事だ・・・そうなんだろ?、それにお前は腹を立ててるんだ」

「・・・・ちがう・・」

「違わない・・騙してたって、そう思ってる・・だから、昨日からイライラしてるんだろ?
 だから俺はもう一緒に旅なんかしたくないって言い出すのかと・・」

「違うってばっ!!」

サムは耐え切れずにディーンを遮り、叫んだ

「僕はただ、驚いただけだっ
 ディーンのお父さんを・・・殺さなくちゃならないってことにっ」

「・・・」

「・・例え小さい頃のディーンに酷い事したお父さんだって・・・肉親は肉親だよ
 もしこれから先出会って、彼と撃ち合わなくちゃならなくなったら?
 そして息の根を止めるのが、ディーンだったら?・・・・辛いよ・・きっと・・辛い」

そう言うとディーンはサムの前で、何故か驚いたような顔をしてやがてゆっくりとその視線を床に落としていった

「・・・・・・」

「・・それでも僕は・・ずっと傍に、一緒にいたい
 もし、ディーンのお父さんを殺すのが僕だったとしても・・・・許されるなら・・」







暫くして、ふぅ、とディーンが張り詰めていた息を吐き出した音で、サムは顔を上げる

「こっち・・来いよ、サム」

「・・・・」

何時に無く真面目な表情でポンポンとベッドを叩くディーンに、サムも力を抜いて近寄った

「・・馬鹿だな・・サム」

「・・?・・」

「許すも許さないも・・・そうして欲しいのは俺なのに・・」

サムは、まだ微熱の有る体を凭れ掛からせて来たディーンを、そっと抱き止めて顔を覗き込む

「・・ディーン?」

「こうなっても本当に俺と来てくれるなら、エリックにも言ってない事を話すよ
 ・・俺と・・親父の間の・・」

「?・・まだ・・何か・・?」

もう随分と残酷な過去を知ったのにとサムはディーンを窺うが、彼は無表情ともいえる顔で驚くべき事を口にした

「・・俺を・・最初に犯したのは、親父だった
 まだ餓鬼だったのに・・男を欲しがる体に無理矢理仕込んだのは、実の父親だ・・」

「っ!・・そ・・そんなっ・・」

「気色悪いだろ?・・・・信じたくないけど、事実だ・・」

フルフルと、目を閉じたディーンは蘇ってきた記憶を振り払うかのように首を振った

「あれから数え切れないくらい男と寝てきたのに・・俺は時々怖くなる
 正確には記憶の中の親父が怖いんだ・・・・今でも・・思い出すだけで・・
 だから、こんな状態で『黄色い瞳の悪魔』になった奴に出会ったら・・仕留める自信なんか無い」

「・・・・ディーン・・・」

「サム・・・俺は奴を憎んで、同時に酷く恐れてる」

「・・・・それじゃ・・」

そう言うとディーンはサムを見て、寂しそうに笑った

「そうだ・・・・・だから俺は、ずっと奴から逃げてた
 探しているフリをして、奴が確実に居ないと思う街を選んで移動してた
 ・・お前の腕が上がるのを待って、迷いながら・・・」

項垂れてごめんなと呟いたディーンのつむじに、サムはキスした


強さと弱さ

陽気さと気弱さ

奔放さと健気さの二面性

それがディーンの魅力だと、ずっと思っていた

でもそれは、真実の彼じゃないのかもしれない

本来のディーン、それは忌まわしい過去に囚われてもがいている

磨いた銃の腕と賢さで苦難を切り抜けてきたが、まだ誰にも見せていない傷があった


「・・ディーン・・僕に、お父さんを殺して欲しい?・・もし、そうなら・」

それならそれで、命がけで一人でやってもいいとサムは覚悟した

ディーンが怖いなら自分がもっと腕を上げ、いっそ相打ちでもいいと

「っ・・違うっ!、サム」

だがディーンは、慌てて顔を上げ首を振ってしがみ付いて来る

「そうじゃないっ・・そんなこと・・・させたくないっ!」

「・・ディーン」

「奴は俺が仕留めるっ、だけどもう少し・・もう少しだけ時間が必要なんだ、だから・・」

「だから?・・」

「・・・・・」

サムが見つめると漸くディーンも視線をジッと合わせ、やがて彼の方からオズオズと唇を合わせて来た

そして軽く重ねただけで躊躇うように離れ、ディーンは初めて見せる真摯さでサムの手をギュっと握った

「・・だから・・・・一緒にいてほしい
 俺がもっと強くなるまで・・あの悪魔を倒せる自信がつくまで・・・」

「・・・それまで?・・その後は?・・」

「・・・っ・・・・・・許されるなら・・その後も・・・・ずっと・・・」

躊躇いながらも、ディーンは本当の望みを口にしてくれた

「・・・ディーン・・」

「ぅ・・・浮気も・・もうしないっ・・しないからっ・・・だから、サム・・」

「・・・っ・」

サムが我慢出来たのは、そこまでだった

そして最低限残った理性でどうにか彼の傷を庇いつつディーンをベッドへ押し倒しながら、こんなふうに目を潤ませて言われて我慢出来る男がいればお目にかかりたいと、密かに溜息をついていたのだ























次の朝早く

ディーンとサムは、朝靄の中再び馬上にいた

見送りはこの村に到着した時と同じく、エリック一人

「・・世話になったな、エリック」

先住民の服を脱ぎ元の姿に戻ったディーンは、渓谷に出るゲートの前に立って煙草を燻らすエリックに言った

「僕からもお礼を言います、本当にありがとう」

「ぁぁ・・礼はいいさ・・」

エリックはこちらに軽く手を上げて答えると、ニヤリと笑って外界と隔てる門を開けながら聞いてきた

「・・そういゃあ・・・・・これからの事はどうなったんだ?、お二人さん
 昨夜村中に響き渡るようなデカイ声でアンアン言ってたのが聞こえたが・・
 アレで纏まったのか?・・・・まあ、纏まったから二人仲良くここを出て行くんだろうけどな」

「・・・・」

「・・・・」

「あの小屋の壁は特に薄いんだ・・・全く、昨夜は子供の教育上宜しくない一夜だったぞ」

絶句したまま開いたゲートから一歩も出られずに固まった二人を前に、エリックは笑いながら鞭を取り出すとそれぞれの馬の尻をパチンと叩いた

そして突然走り出したせいで手綱を掴むのに夢中のサムと、文句を言ってやろうと振り返ったディーンに向ってエリックは、まるで新婚のカップルに送るような餞の言葉を、大声で叫んだ















































僕はサム

両親の仇である『黄色い目の悪魔』って呼ばれる男を探して、その悪魔の息子であり父の元愛人であり現在は僕の恋人でもあるディ−ンと旅をしている最中だ

ティーンは早撃ちのガンマンで、もの凄く強い

だけど強いだけじゃなく色っぽくて可愛くて、なにより彼は他の人には見せない顔を僕にだけ見せてくれる

過去の悪夢に怯えたり、これから立ち向かう恐ろしい敵に怖気づいている事も、全部僕に話してくれた

その上、もう浮気はしない、お前一筋で生きて行くなんて宣言されれば、僕が有頂天になるのも無理はない

でも

でも、僕は甘く見ていた

ディーンは伊達に、『お色気賞金首』なんて妙な冠名で呼ばれている訳じゃなかった






あの夜の誓いも早々にディーンは次に着いた街の宿の部屋から抜け出し、男女混合4P大会なんてものを夜中に開催してた

だから現場に乗り込んだ僕は、彼等の見ている前でディーンを数時間目茶苦茶に扱って僕のものだって思い知らせてやった

最初はふざけるなとか、ぶっ殺すとか言って怒ってたけど最後はあの夜みたいにアンアン言ってくれたからきっとディーンも悪くはなかった筈で、浮気症だなんて言ってるけどただ彼はこちらの愛情を試したいだけ

だからこの夜を切っ掛けにディーンの悪癖対策を編み出した僕は、これからもっと上手く彼とやっていけると確信した

きっと、もっと、ずっと

復讐が終わっても、一生ディーンと共に歩いて行ける

そんな自信がついたんだ




















僕はサム

僕は最高の恋人と、旅をしている

永遠に



end

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