Galaxy Express 3
サムの手によって深い眠りに落とされたディーンは、昔の夢を見ていた

それは数年前、このメガロポリスのスラムに辿り着く直前の夜の出来事だった






































「・・寒いな・・ジャレッド」

岩陰に隠れても吹雪が拾った毛布を巻き付けただけの体に容赦無く降り掛かり、ディーンは傍らで休む弟に声を掛けた

メガロポリスの都市の入り口までは、あと数キロ

丁度機械伯爵と呼ばれる残忍な男の領地でもあるこの場所は二人にとっても早く通過したいエリアだったが、激しさを増し分厚く積もった雪に足元を取られて体力を奪われ、一旦の休憩を余儀なくされていた

「ディーン、もっと僕の傍に・・」

優しいジャレッドはもうとっくに体格で追い抜いたディーンを、包み込むように引き寄せてくれる

「・・機械の体なら・・寒さなんか気にしなくてもいいのにな・・」

「メガロポリスに着いたら・・僕がどんな事をしても金を稼いで、GEのパスを手に入れるよ
 それでディーンと一緒に、タダで機械の体をくれる星に行く」

「・・あのパスは・・凄く高いんだぞ、ジャレッド・・」

「平気さ・・なんとかなるっ」

ギュっとディーンを抱きしめて、ジャレッドは太陽にように明るい顔で笑った

その笑顔は、何時もディーンに力を奮い起こさせる

顔も見た事が無い父と、早くに病死した母

二人はずっとこうして、心も体も寄り添って生きてきた

「相変わらず、お前の体は暖かいな・・」

「ディーンが冷え性なだけだろ?、ほら・・氷みたいな手をしてる」

こんな雪塗れの自分手を擦って言うジャレッドにディーンは冷え性とかの問題ではないと思ったが、触れて来る弟の手は不思議と吹雪の中でも暖かい

その温もりはディーンをとても幸せにしたが、これ以上ジャレッドの体温を奪いたくなくて早々に腰を上げた

「もう大丈夫だ、ジャレッド・・・それよりここは危険だ、早く進もう」

「・・うん」

ディーンは今まで通り慎重に周囲を警戒して歩を進めたが、更に激しきを増した数メートル先の視界も奪う雪は迫り来る微かな光を掻き消していた

二人は何も気付かず、裕福な機械化人の乗る、同じように機械化された馬達に囲まれつつあったのだ












「・・・ディーン・・」




「・・?・・・どうした、ジャレッド?」

不意に立ち止まった弟に、ディーンは振り返り何気なく辺りに目をやった

「・・っ!!」

すると見える、無数の赤い光





「っ・・ディーン、危ないっっ!!!」

そして、こちらに伸びて来る一本の光のライン
















「・・っ・・ジャ・・レッド・・・」

気付けばディーンの前には、自分を庇って閃光に胸を射抜かれたジャレッドが倒れていた

「・・・・・ぅ・・うそ・・だ・・っ・・・・」

信じたくないと思っても、その胸元から流れ出す真っ白な雪を染める赤は止まらず、見る見る辺りを染めてゆく

「・・ディー・・ン・・」

震える手を伸ばして来たジャレッドは、苦痛の中でも震えるディーンに微笑みかけている

「・・っ・・・・聞いて・・ディーン・・僕・・はもう・・」

「・・っ・・・そんなっ・・・・」

「だ・・から・・ここからは・・ひとり・・で・・っ」

「っ・・嫌だっ!・・立てよっ・・立って逃げるんだっ、ジャレッドっ!」

ディーンは暖かかったジャレッドの手が、どんどん冷たくなってゆくのを感じていた

だが愛しい弟を置いて行ける筈も無く、ディーンは必死になってその腕を引っ張る

「・・・逃げ・・て、ディー・・ン・・早く・っ!・・」

すると迫り来る馬の足音に、サムは最後の力を振り絞って自分に覆い被さっていたディーンを横の林の草むらに向けて突き飛ばした

ゴロゴロと転がり雪塗れになったディーンは真っ白に染まり、ジャレッドの手が力を失ってパサリと落ちるのを草の影から見る

「・・っ・・ジャレッド・・」








「コレハ・・スバラシイエモノダ」

やがて獲物を仕留めた機械伯爵が手下と共に回りを取り囲み、ジャレッドの身を包む布を剥ぎ取って言うのを聞いた

お付の者も口々に伯爵の狩りの腕を褒め称え、これまで見た事も無い獲物の若々しい美しさに感嘆の声を上げる

「スバラシイ」

「ウム、コレクション二クワエヨウ・・・・デハ『ジカンジョウ』二、モドルゾ」

そして遺体を今夜の成果として嬉々として持ち去るのを、震える手を握り唇を血が出る程に噛み締めて、ディーンは弟が最後まで自分を守ろうとしてくれた気持ちを胸に耐えた

「・・・機械伯爵・・許さないっ・・・・絶対にっ
 時間城・・・何時かっ・・・何時か・・お前を殺してやるっ・・」

白い雪を染めたジャレッドの血を掴んだディーンは、復讐を誓い何時までもその場から離れなかった













































「・・・ジャレ・・ッド・・・」

「・・・ディーン・・・」

眠りについているディーンは、知る由も無かった

額に貼り付けた特殊な装置でその夢の全てを見ていたサムが、ディーンの頬から流れ落ちる涙に辛そうに眉を寄せベッドから離れた事を

そしてシャワー室に篭り、誰かに通信を入れていた事も










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