Galaxy Express 4
覚醒したディーンは自分の頬が涙で濡れているのに驚き、慌てて手でゴシゴシ擦った

そして消えた夢の代わりにこれまでの出来事が蘇って、急いで部屋の中を見回す

「・・・なん・・で・?・・」

ジーンズを傷の手当てをして貰う為に脱いだ記憶は有るが、ベッドに横たわった自分の上半身までもが薄いシャツだけに剥かれているのに気付いて体を起こせば、シャワールームからは水音がして前の壁のフックに自分の服の横に黒のスーツも掛かっているのが目に入る

「・・・・こんなの・・・・盗んでくれって言ってるようなもんだぞ・・」

盗んだ事を咎めずその上傷の手当てまでしてくれたサムには悪いが、どうしてもあのパスが必要なディーンはそろそろとベッドを降り、右のポットに入れたと言っていたサムのズボンを探る

「っ・・fuck」

だがそこにパスは無く、自分の銃もどこにも見当たらない






「そんな所にディーンの欲しがってる物は無いよ」

「っ!!」

突然後ろから声を掛けられて驚いたディーンが振り返ると、腰にタオルを巻いただけのサムが手に銃とパスを持って立っていた

冷静に考えれば当たり前だなのだがサムが最も大切なそれを手放す訳無く、全ての運命をサムに握られている事に諦めを覚えたディーンは再び大人しくベッドに戻り腰を下ろす

「・・・・どうするつもりなんだよ・・俺を眠らせて、のんびりシャワーなんか浴びて・・」

「どうするって・・僕はGEの出発までここに居るよ」

シャワールームからの湯気に浮かぶその肉体は同性から見ても羨ましいくらいに逞しくて美しくて、ディーンは側のテーブルに銃とパスを置き体の水滴を拭い始めるサムをじっと見てしまう

「・・・・じゃ、俺は?・・それまでここに監禁して・・出発の直前に兵士に通報するのか?」

「まさか・・そんなことしないよ」

じゃあ何をする気なんだと言いかけて、ディーンは今サムと二人どちらも半裸の状態で密室に居るのだと思い直し、パスローブを着たサムがベッドに近づいてくるのに思わず落ち着かない気持ちになる

パスも銃もこの部屋の鍵も全てが目の前の男の手の内に有るし、自分より一回り大柄な体は見るからに鍛えられていて抵抗しても組み伏せられそうなのだ

「ディーン」

弟そっくりな顔の男にビクつく自分を惨めに感じるディーンに対して、サムは不思議な程に落ち着いている

「・・な・・なんだよっ?」

「パスが欲しい?」

「・・・・・当たり前だろっ」

「なら、あげるよ」

ディーンは絶句し、自分の耳を疑った

そんな旨い話、有るわけが無い

「ただし、条件が有るんだ 
 それは、旅の間ずっと僕と一緒にいてくれる事・・・一人旅は何かと無用心だし、寂しいからね」

「・・・っ・・・はぁ??」

どんな厳しい事を要求されるのかと身構えていたディーンは、それを聞いてポカンっと口を開けてしまった

「そ・・それだけ??・・・それだけで・・あの高額なパスを俺にくれるって・・??」

「うん」

「・・・・・」

ディーンはこのサムと名乗った男は頭がおかしいのか、それとも他に何か意味を含んでの言葉なのか、と考えた

そして、思い当たる

スラムに来てからも、そんな誘いをディーンが仲間の男達から受けることは多々有ったから

「・・・・・・・ぁぁ・・・そうか・・・」

「?」

ディーンは、多分このサムはスマートでスタイリストな男なのだと納得する

全てを言わなくても、この状況で察しろという事なのだろうと

だがスラム育ちのディーンにしてみれば例え下品な言葉でも、取引の条件ははっきりと口に出してもらわなければ落ち着かない

「つまり、これから・・旅の間も、俺に・・・お前の相手をしろって言うんだな?、サム」

「・・相手っていうか・・・まあ、そうだよ」

「・・・・・・」

ディーンは自分の体にそれ程の価値は無いと思ったが、サムが気に入ったのならとやかく文句を言う筋合いは無いと思った

それどころか同性相手の行為は初めてでもないし、殴られるわけでもないし手足をもぎ取られる訳でもないから、パスを貰えるなら安いものだ

「わかった・・・犯れよ」

さっさと一回目を済ませて気持ちを楽にさせてくれと、ディーンはさっそくコトに及ぼうとシャツを脱ぎ捨てる

すると、何故か今まで不思議そうな顔で見ていたサムの手が急に胸に伸びて来て、肌を優しく撫でられたディーンはビクリと震えた

その大きな手は鎖骨から右の小さな突起の横、そして腹筋、臍の左へと滑る

全て古傷の縫い目や、引き攣れが残った箇所だ

「・・あぁ・・・・お前・・傷痕フェチか・・どうりで・・」

ディーンは、自分を眠らせて服を剥いで確認したサムがこの無数に残る醜い傷痕で自分を気に入ったのかと、理由が分かってホッとしたような恐ろしいような複雑な気持ちになる

「・・ふぇち?」

「いや・・俺に文句を言う権利が無いのは分かってるけど・・
 ・・まさか・・その若さで、切ったり刺したり焼いたりのプレイが好きなのか?」

「・・・・ディーンの言う事はよく分からないけど・・
 僕はただこの体の傷痕が・・痛々しいと思って悲しくなっただけだよ?」

サムは心底分からないといった表情を浮かべた

「?・・悲しい・・??」

「うん・・ディーンの家族や、愛してくれてる女が悲しんだだろうって」

「・・・・・・そんなの・・・もう居ない・・」

サムは呆然とするディーンに背を向け、何もしないままベッドから離れると服を着てから、ある物をこちらに投げた

「っ・・サム・・これ・・」

思わず手を差し出した受け取れば、それはGEのパス

「一緒に来てくれるんでしょう?、ディーン」

「・・・・ぁぁ・・行くよ・・・行くけど・・・」

「GEは今日の夕方、17時00分に出発する
 でも昨日パスが人間に盗まれた事で、機械化兵達の駅の警戒は厳しさを増してる
 だから・・・絶対に死なないで、必ず乗って・・いいね?」

そう言うとサムは、服と銃もベッドに座るディーンの傍らに置き、アタッシュケースを持つと先に部屋のドアを開けた

「・・・あっ!、あと、パスには直ぐディーンの名前を書いておいて
 もし無記名で盗まれたら、その人の物になるよ・・・・・じゃGEで、ディーン」

「・・・・・・・」

そしてサムが立ち去った後には狐につままれた顔のディーンが一人、ポツンと残されていた






























「・・そんな男を、本気で信じる気かっ?!」

一旦のアジトに戻ったディーンと、無事逃げおおせて彼を待っていたアッシュに事情を聞いた仲間達は声を荒げた

「そうだぜっ・・くれたパスは偽物かもっ」

「騙してお前をつき出して、機械化兵から金を貰う気だっ!」

「ちょ・・ちょっと・・まて・・待てってっ!!、みんなっ」

興奮する仲間に、アッシュが割って入って言った

「パスは磁気センサーも使って確かめたが、目の前で発券機から出てきた物だ・・間違いない
 ・・それにディーンが、相手も生身の体だったと確認してんだ」

「・・・・」

「・・・・・・」

「みんながディーンを心配するのは分かる
 でもこれはチャンスだ・・・頼むからディーンを無事にGEまで送り届けやってくれっ」

「・・・アッシュ・・いいんだ」

そのまで黙って聞いていたディーンだが、遂に居た堪れず前に出た

何故ならアッシュが呼びかけている内容が、どれだけ危険か良く分かっていたから

「・・確かに・・皆の協力が無いと、GEのホームまで辿り着くのは難しい
 でも・・俺はそれを頼む気は無い・・危険すぎる、罠に飛び込むのと同じなんだ」

「・・だけど、もし・・そのパスが本物なら・・」

一人の男が、顔を上げた

「そうだよ・・本物だってんなら、ディーンは乗れるんだろ?」

「やってやるぜ・・ホームに着きゃいいんだろ?」

「俺達だって機械化人に家族を殺されたんだっ・・ディーンの気持ちは嫌って程分かるぜっ」

仲間は手にした銃を掲げ、口々に協力を申し出た

そしてこみ上げる熱いものに唇を噛み締めたディーンの肩に、そっとリーダーのボビーが手を乗せて言った

「・・・決まりだな」







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