Galaxy Express 5
ボビ−は焚火に水をかけ今まで人がいた痕跡を消してから、GEが停車しているという場所へディ−ンとアッシュ、そして精鋭数人を連れて出発した

銃を構え足音を忍ばせ充分辺りを警戒しながら、人間しか知らない狭く暗い道を行き廃材で組んだビルとビルの渡り廊下を通って、ホ−ムの有る建物に背後から回り込んで行く

それは一旦乗り込んでしまえば治外法権の宇宙列車も、駅の表玄関は機械化兵に包囲されその厳重な警備を破るのは不可能と判断したからで、それにホ−ムの裏側は以前の戦闘で投げ込んだ無数の手榴弾や爆弾でコンクリートがボロボロに崩れている筈だった

だから、その箇所からは人一人ならどうにか攻撃をかわし走り出したGEにも飛び乗れるというのが、リーダーであるボビーの計算だ

「あれだ、ディーン・・あそこに停車している筈だ」

「・・ぁぁ・・」

だが、やがて開けた場所に来て目の前に見えた以前より酷く破壊されたその建物に、ディ−ンは本当にこんな所にGEが来ているのかとあの夜サムという男が言った言葉に初めて心からの疑いを抱く

それでももう後戻りは出来ずあのサムが天使でも悪魔でも言われた通りにする以外ないと、そう思ったディーンが顔を上げ再び歩き出したその時、一筋の閃光が背後の仲間の命を一瞬で奪った

「・・っ!!」

「殺られたぜっ!!」

「・・畜生っ・・」

隣で崩れ落ちる体を見ると直ぐ、戦士としての本能がその軌跡の先への反撃を始めさせる

「こっちだ・・走れっ・!」

ボビーの掛け声と共に、銃を撃ち捲くりながらディーンとアッシュは走り、建物の中に滑り込んだ


















「やっぱり・・凄い数の機械化兵が居るぞ・・」

建物の中に入りると雨と降る銃弾の的にされなくなったのはいいが、やばりそこも警戒は緩まなかったのか至る所から人間探索のレーザーが赤いラインになって発せられていて、ボビーは二人に頭を低くして進むように指示した

崩れた瓦礫で埋め尽くされた建物の中の開けた空間は機械化兵が占拠しているため、ディーン達は天井も壁も無くまるで洞窟のようにコンクリートの隙間に出来た小さな空間を進むしかない

そしてやがてその苦しい進軍は、踏みしめた小さな小石が転がる音で居場所を知られて止まるとこになった

聞きつけた機械化兵の手により直ぐ無数の銃弾が光の筋となって暗闇を切り裂いて、ディ−ンもアッシュも反撃しながら横の窪みに身を隠す

「畜生・・奴ら、数が多過ぎるぜ・・」

こんなのは計算外だとアッシュは舌打ちし、ボビーは先程から何事か考え込んでいる

「・・ディ−ン、GE出発までどれくらいある?」

「あと20分・・いや18だ、ボビ−」

普通に歩いてもビルの中のホ−ムまではここから10分以上かかるというのに、こんな所での足止めは全ての可能性を消し去るものだとディーンとアッシュが互いに顔を見合わせるが、その唯一の進路は機械化兵の隊が封鎖していてどうにも突破出来そうに無い数だ

「・・この道以外の行き方は・・・・・無いぜ、どうする?」

改めて小型のコンピューターで呼び出して確認したアッシュが言った次の瞬間、何かを決意した様子のボビーが突然立ち上がると銃を構え前に出た

「いいか、アッシュ・・・俺が突っ込んだら走れ、振り返るなよ」

「・・えっ?」

「ディーン、俺の息子・・幸運を祈ってるぞ」

そして両手に溢れる程の手榴弾を抱え直すと、ボビ−はディーンが止める間も無く機械化兵に突入して行った

「・・っ!、駄目だっ・・ボビ−!!」

「い・・行くなっ、ディ−ン、この隙に走るんだよっ!」

「・・で・・でもっ・」

「来いって!!」

アッシュは瞬時にボビーの意図を汲み、ディ−ンの腕を掴みホームへの道を走りだす

ボビーの的確な射撃の腕に機械化兵も物陰に身を隠し、二人がその場を通過し離れる充分の時間が稼げた

しかしボビーの身を案じて振り返ったディーンが見たのは、機械化兵の中に突込み彼ら一隊を道連れに自爆するボビーの姿だった

「っ・・ボビーーっ!!・・」

「ディーンっ!、止まるなっ!!」

辺り一面を赤く染めた熱と爆風に立ち止まったディーンは後ろからアッシュに背中を突き飛ばされ、裂かれるような痛みを心に覚えながらもボビーの死を無駄にしてはいけないと、その場から懸命に走り去ったのだ



















やがて二人は無言のまま走り続け、ボームの真裏に当たる行き止まりの場所に辿り着いた

だが後ろからは雨霰と銃弾が降り注ぎ、斜め頭上に見える光の先のホームへはとても上って行けそうになく、暫くの間物陰に隠れて敵の攻撃の合間をつくチャンスを窺ったが、やがて無理だと分かるとアッシュは静かに言った

「・・行けよ、ここは俺が食い止める」

諦めたように笑う表情から、ディーンはアッシュもボビーのように死ぬ気なのだと悟った

死んで、命を捧げて自分をGEに乗せる気なのだと

「こんなのは・・・嫌だ、アッシュ・・」

必死に首を振ったディ−ンだが、アッシュは瓦礫の上に無理矢理押し上げ背を向ける

「いいか、ディーン・・ボビーはお前を息子のように思ってた
 他の仲間だって弟のように・・・・お前、死んでいったみんなの気持ちを無駄にする気か?」

「っ・・でも・・行けないっ・・行けるわけないだろっ
 今度ここから先に進むには・・アッシュがっ・・」

「・・そう言うなよ」

ディーンの瞳は見る見る潤み、まるで聞き分けの無い子供に呆れるような顔をして背を向けたアッシュだったが、何かを思い出したように振り返った

「あ〜あ、確かに行けないよなぁ・・・俺との約束がまだだから、だろ?」

「・・!?・」

呆然としたディ−ンに、アッシュは突然抱き寄せるとキスをしてきた

それは、パスを盗む計画に協力する見返りとして約束した熱烈な口付けとは程遠い啄むような軽いものだったが、アッシュは唇を離すと満足そうに笑った

「お礼、頂きっ」

「・・アッシュっ!」

そしてアッシュは手を振って、肩に担いだ機関銃を構え直した

「愛してたぜ、ディ−ン・・・・・・じゃあなっ」

走り去るアッシュとそれと同時に止んだ攻撃に、ディーンは潤んだ視界を手で擦りながら、後ろを振り返らないようにして瓦礫の山を攀じ登っていった

















「・・あれが・・GE?」

瓦礫の隙間から初めてその姿を見たディ−ンは、その古びた外見に驚いた

まるで遥か昔、崩壊したメモリーデ−タ保存施設に忍び込んで見た蒸気機関車そのもので、時折吐き出す白い気体で辺りは霧がかかったようだ

そしてその時、呆然とするディ−ンの前で、出発の時刻を告げる汽笛が2回鳴り響く

「・・っ・・」



車輪がゆっくりと回転を始めその速度は見る見る勢いを増してゆくが、ディ−ンは何故か縫い留められたようにその場から動けない

死んでいった仲間達、犠牲になったボビ−、そして今でも一人機械化兵を食い止めてくれているアッシュ

その皆の顔が脳裏に浮かび、彼等の屍を踏み付けて未来に旅立つ決意を鈍らせていたのだ





「・・ディーン?!」





「・・?・・サム・・・サム!!」

だが、その時、列車の最後尾の鉄柵から身を乗り出し自分を探しているサムがディ−ンの視界を横切り、途端にディーンの呪縛が解けた

「っ・・早くっ、走ってっ!!、ディーンっ・・僕の手を掴むんだっっ」

走り出したディーンだが、列車のスピードも加速してゆく

「・・っ・・・」

やがて二人の指先が触れ合うと、車掌らしき人に乗り出した自らの体を支えてもらったサムはディ−ンの手をしっかりと掴み、渾身の力を込めその体を列車の柵の中に引き上げてくれた

「・・サム・・っ・」

「ディ−ン・・危なかった・・」

間に合ったと安堵の表情を浮かべたサムの隣には制服に身を包んだ車掌が進行方向を確かめていたが、やがて警告のブザーが鳴り響くと情け内悲鳴を上げあたふたし始めた

「あわわ・・このままでは脱線してしまいますぅ!」

「・・?!」

車掌の悲鳴に先を見れば、二股に別れた線路の一方は崩れ落ちたビルの残骸の巨大なコンクリートが行く先を塞いでいて、機械化兵の仕業かGEがそちらに突っ込むようにポイントが切り替えられていた

仲間の命を使って辿り着き、折角乗り込んだGEだというのにこんなふうに終わるのかとディーンが絶望した瞬間、あと分岐点に十数メ−トルに迫った列車の横から一つの影が飛び出し、そのポイントの切り替えバ−を掴んだのが見えた

「っ・・アッシュ・・」

それは、傷つき、血塗れのアッシュだった

強固で重いそれは容易に傾かずその上背後から幾つもの銃弾がアッシュの体を貫いたが、彼は最後まで諦めずバ−の上に倒れ込みその重みでポイントを正規の方向に戻してくれた

ディ−ンはサムの胸に抱き留められたまま、ポイントに寄り掛かったまま血塗れで事切れるアッシュを、無事走り続ける列車の上から見送るしか出来なかったのだ







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