Galaxy Express 10
「・・何なんだよっ、アンタレス?」

苛立ちながらも数秒間だけ我慢した後ディーンが聞くと、アンタレスは悪い夢から覚めたような顔で漸くサムから視線を外した

「・・いや・・・・多分、俺の・・勘違いだ・・」

「・・?・・」

ディーンは隣のサムにも視線で問い掛けるが不自然なほどに静かで反応は返らず、仕方なく聞いておきたかった事を口にする

「・・・・アンタレス・・機械伯爵の居所を知ってれば教えて欲しい
 弟が殺された時に奴が口にした、『時間城』という名前だけは分かっているんだが・・」

「・・時間城の有る星は誰も分からん・・・ただ、たった一人だけ知ってる奴がいると聞いたな」

「だ・・誰だっ・・誰が知ってる?」

アンタレスはグビグビと、ディーンが助けた女の子が持ってきてくれた葡萄酒を一気に飲み干すと声を潜めて言った

「それは、女海賊のジョーだ・・・・・そりゃ、恐ろしい女だぞ・・あんな女はいねぇ
 向こうの気分次第、こっちの口の利き方次第で何時首が飛ぶかわからねぇんだからな」

「・・女海賊のジョー・・・・・・なぁ、何処に行けば彼女に会えるっ?」

思わずディーンが身を乗り出すと、アンタレスはニヤリと笑った

「心配するな・・ジョーには会える、向こう様からやって来るよ」

「・?・・そう・・なのか・・?」

「ああ」

そしてGEの発車時刻が迫ってきたとサムに促されてディーンが立ち上がると、最後にアンタレスは忠告をくれた

「いいか?、コレだけは覚えておけ、ディーン・・機械伯爵に出会ったら、迷わずに撃て」

「・・・・」

「相手が涙を流して許しを請うても、容赦なく撃て
 たじろいだり、怯んだりしたらお前の負けだ・・・それが宇宙で生き延びる唯一の道だぞ」































「・・よくまぁ・・無事に帰って来れたねぇ・・」

ディーンはサムを連れ、葡萄谷からの帰り道にコスモ・ガンを貸してくれた恩人の家に立ち寄った

「ありがとう、婆さん・・この銃のお陰だ」

銃を返そうとしたディーンだが、おばあさんはそれを押しやって来る

「・・その銃はこれから先お前さんに必要だ・・持ってお行き」

「っ・・いいのか?・・これは戦士の銃だと聞いた、貴重品だろ?」

「お前さんにあげるよ・・・・・これはね、私のたった一人の息子の物なんだ
 何度も死線を超え危険を潜り抜けてきた・・そしてね、息子はそれを置いたまま行っちまった・・」

おばあさんはディーンの頬を、まるで実の息子にするように優しく撫でた

「不思議だね・・あんたは私の息子によく似てる、最初川から拾い上げた時は吃驚したよ・・」

「・・俺が・・?」

「息子の名前はジェンセンと言うんだ・・もし・・宇宙の何処かで会ったら・」

「ああ、会ったらお母さんが待ってるって伝える・・必ず」

ディーンは即座に答え、その可愛い小屋を後にした










残ったのはこれまでと同じ、日向ぼっこをするお婆さんと膝の上に乗る一匹の猫だけ


「でも・・私には分かってるんだ
 あの子はもう二度と生きて家に返って来ることはないって
 それでも行くなとは言えないんだよ・・分かってるのにね
 ・・男の子だもんね・・・男の子を産んだんだから仕方が無いよね・・」






















































「次の停車駅は冥王星〜・・停車時間は6.39日〜」

タイタンを出発してからサムと禄に話もしないまま、ディーンが窓ガラスに付き始めたなにやら白い物をじっと眺めていると、車掌さんが次の停車駅の案内に回って来た

「・・冥王星って・・どんな所だ?、サム」

大柄な男二人で座るには狭いシートのために、通路を挟んで並んでいるディーンは離れた所にいるサムに言った

ただの好奇心だけでなく、最初の停車星のタイタンでは暢気に降り立った途端驚くような事ばかりが起こったから、少しでもサムに話を聞いて心構えをしておこうという戦士としてのディーンの習性からでも有る

「冥王星はね・・迷いの星って呼ばれてるんだよ」

「迷いの星?」

「寒さで永久に溶けない氷でに包まれた最果ての惑星
 あの星で凍りついている旅人の魂が・・そうさせていると言う人もいる・・」

「・・ぁ〜畜生っ、だからかぁぁ〜!・・」

「ディーン?・・」

ディーンは凍りつくと言うキーワードで急に寒さを実感し、自分の体を摩擦しながら忙しなく足踏みを始めた

「もぅ・・さっきからどんどん寒くなってきてるだろ?
 列車の中全体がデカイ冷蔵庫みたいじゃないか、俺は寒いのは大嫌いなんだよっ」

いっそ列車の中を運動不足解消のトレーニングも兼ねて走り回ろうかと考えていると、サムは突然立ち上がりディーンの手を引いて座らせ、隣にぴったりと寄り添って来た

「・・っ、サム?」

そして黒いスーツの上に纏っていたマントの前を開けると、ディーンの体をその中に包み込みギュっと抱きしめる

「・・っ・・あのっ、なぁ・・」

「じっとして、ディーン・・・動かないで・・」

「・・・・」

直ぐにジワリとサムの体から優しい暖かさが感じられて来て、ディーンは不覚にも体の力を抜き子供のように彼の大きな胸に懐いてしまう

昔よく弟のジャレッドとこうしていた時の、暖かさを思い出して

「どう?・・ディーン・・」

「・・ん・・・平気になった・・
 ・・・・でも・・こんなに寒くちゃ、今夜はベッドでは眠れないよな・・?・・」

列車には寝台車も用意されていたが、大抵は体温調節くらいは可能に肉体を機械化をしている乗客が乗り込んでくるためか、暖房は酷く低めに設定されていた

これまでも生身の体では少し肌寒い程だったあのベッドにこんな状態で一人眠るなど不可能だと、今夜一晩ずっとこうしていて欲しくなったディーンは深く考えずに口に出した

「僕と一緒のベッドに入ればいいよ、ディーン・・そうすれば暖かい、ね?」

「・・へっ??」

「そういえば・・もう遅いね、寝よう」

すると呆然としている間に抱きかかえられるようにしてサムに寝台車に連れて行かれ、ベッドの上にポフンと乗せられる

「・・ちょ・・ちょっと・・・サムっ」

そのままスーツを脱いでシャツ一枚になったサムと同じく最小限まで服を剥かれたディーンは、アワアワしている隙に同じベッドの中で抱き合うまでに至っていた

「ほら・・暖かいよ、思った通りだ」

「・・・サム・・・お・・お前って・・・・・」

「・・?・・」

ディーンはこうする事に少しの躊躇いも恥ずかしさも感じていない様子のサムに溜息を付いて、目の前で肌蹴たシャツの間から見えるサムの肌に視線を止めた

やがてじんわりと二人分の人肌の温度で毛布が温まりもっと密着しろとでも言うようにサムに引き寄せられれば、ディーンの心の中で彼と触れ合いたいという衝動が急激に膨れ上がる

「サム・・・・・・俺が寒いのが嫌いなのは、弟が殺されたあの時を思い出すからなんだ・・・でも・・」

「・・ディーンっ?」

手を伸ばしてサムのシャツの前を弄り出すと、流石に驚いた声が上がったが無視した

「・・サムにこうしてもらうと・・いい事も思い出す・・
 いつもジャレッドが隙間風が入ってくる粗末な小屋の中で・・俺をこうして暖めてくれた・・」

「・・・・・そう・・」

シャツのボタンを全部外して漸くオズオズと顔を上げれば、自らも素肌を晒して改めて抱きついたディーンを責める事無くサムは静かにこちらを見つめていた

だからディーンは、駄目元で彼との距離をもっと縮めようと小さな声で呟いた

「・・サム・・・・・・キス・・・してもいいか?」

「・・・・・」

「・・分かってるけど・・・・お前が・・・・その・・俺のことそんなふうには・・」

だがサムは、拒絶に合うと予感するディーンが言葉をつむぐ前に、その手を伸ばし唇を親指でそっと撫でてくれる

「・・?・・・いい・・のか?・・」

「・・・・」

黙ったままだったが拒む気配も無いサムに、ディーンは恐る恐る唇を重ねる

薄いサムの唇を包み込み、その柔らかさを感じてディーンの鼓動は早くなった

「・・っ・・んっ・・」

やがて少しだけ舌を覗かせて誘うとサムは戸惑いながらもディーンを迎え入れてくれ、これが彼にとってのl ikeなのかloveなのかはまだ分からないが、嫌われてはいないという安堵とずっと傍に居てくれるのだという事の嬉しさがディーンを包む

「誰にも打ち明けた事無かったけど・・・俺、ジャレットのこと愛してた
 ・・・変だろ?・・実の弟なのに・・・・」

だからディーンは、これまでの人生で最も秘密にしなければならない事をサムに告げた

「・・・・」

「でも・・今は・・・」

サムを前にすると蘇って来る禁忌とも言える感情に、ディ−ンは暖かな胸に顔を埋めて自らに言い聞かせるように言った

「・・・お前が似てるからじゃないっ・・・・・絶対に・・・違うんだっ・・サム・・」

「・・・ディーン・・・」

「・・もう・・・・愛してるのは・・ジャレッドじゃないっ・・・・ジャレッドじゃ・・・」

「・・・・」








サムはそれに対して何も言わず、ただ寒さと揺れる気持ちに震えるディーンを、暖め続けてくれた





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