Galaxy Express 12
「やめろっ、シャドウっ!!」




飲み込まれそうになっていた闇を蹴飛ばしディーンが懸命に目を開けると、そこには怖い顔をしたサムが立っていた

葡萄谷で見たのと同じ、凄い殺気を発して彼は自分を必死に守ろうとしてくれている

「シャドゥ、お前は自分から進んで機械の体に変えたんだろっ」

「・・・サム・・・やめてっ・・」

そして何故かシャドゥはサムの名前を知っている様子で、しかも恐れたように後ずさった

「寂しいからと言って、彼を道連れにするのは許さないっ
 お前は元の体に戻る勇気が無いっ・・・永遠の命か限り有る命か、選ぶ勇気も無いんだっ!」

「っ・・言わないでっ!・・サム・・」

乱暴に引き剥がされ突き飛ばされたシャドゥは何も無い顔を両手で押さえて走り去り、自らの棺に縋って泣き崩れる

だが今のサムにディーンは、危害を加えようとしたシャドゥに対して純粋に敵対するだけの気持ちではないと感じた

サムの目には、何故だが分からないがシャドゥへの微かな哀れみと同情が、確かに宿っている

その証拠にシャドゥを責めた後で、サムは自らの傷に不意に触れてしまった時のように唇を噛んで俯いたのだ



「・・・・ディーン、大丈夫?」

「・・ぁ・・ああ・・もう平気・・だ・・」

まだ寒さでガタガタと震える肩を抱かれながら、その墓場を離れる前にディーンは一度だけ振り返った

サムが跪いていた、その場所を

だが遠くからでは何も見えず、永遠に溶けない氷が、ただ冷たく光っているだけだった






























「何時か機械の体に飽きた人達が帰って来て・・元の体に戻るかもしれない
 あそこに体が眠っている人達は、機械になって体を失ってしまった人達より幸せかもしれないね・・」

「・・・・・まるでお前まで・・機械人間みたいな言い方するんだな、サム」

発車したGEの窓から何時までも冥王星を眺めていたサムに、ディーンは言った

先程までは歯の根も合わなかったが、借りたサムのコートのフードまですっぽり被ったお陰で漸く震えが治まってきていた

「っ・・シャドゥを見てると、そんな気がするだけだよ」

なんでもないようにニコっと笑ったサムだが、もうディーンには分かっていた

会ったばかりでもない、もう充分な時間彼と一緒に居るディーンには、それが嘘だと

「・・・・・」

サムの体が完全に生身なのは、アンタレスの所で確認している

だがサムは一体、氷の墓場で何を見ていたのか

サムにどんな過去があるのか







「・・・これを・・使えば分かる・・」

やがて珍しく座ったまま眠ってしまったサムの前で、ディーンは以前彼が自分の過去の出来事を見た夢を覗き見た機械を取り出していた

なぜかあの後サムはこの機械を、ディーンに手渡していたからだ

蓋を開け、何故か震えだす指でサムの額に装置を近づける

「・・・・・・」

だがあと数ミリとなったところで、ディーンは自分に問い掛けた

サムの過去を知ってどうする

そんなもの知らなくてもいい

サムは約束してくれた

最後まで一緒に旅をすると

それなら、それだけでいい



「・・・ぅ・・んっ・・?」

「っ!・・・・っ」

こんな事はやめようと決めたその時、突然身動ぎしたサムに慌てたディーンの手からカシャンと音を立てて床に装置が落ち、壊れて辺りに破片が散らばった

「ん・・・僕、眠っちゃったんだね・・・・・?・・どうしたの・・ディーン・・」

サムの瞼が震えて、完全に覚醒するまでの短い間で、ディーンはその破片を椅子の下に踵で押し込み無理矢理笑顔を作る

「な・・なんでもないっ・・サムの寝顔を見てただけだ・・」

「・・・・・・・」





完全に破片を一つ残さず隠したと思っていたディーンは知らなかった

サムの足元にまで転がっていた部品の螺子を一つ、彼がそっと見えないところに押しやってくれた事を

そしてその後、サムが微笑みを噛み殺していた事も























突然、列車に大きな衝撃が走った

まるで巨大な何かからの圧力に、列車全体が揺らいだような 

 《《進路を横切ります、GE号は速度を落としなさい!!》》

「・・なっ・・なんだ?・・」

ディーンが大きめのコートを引き摺り反対側の窓の外を見れば、警告の声と共にそのガラスいっぱいの宇宙船がその姿を現す

「ぁ・・・おいっ、車掌さんっ!・・これはなんの騒ぎだよ?」

やがて慌てふためいて通路を走ってきたクレアと車掌さんを捕まえるが、彼はうろたえてモヤモヤの体からは出る筈の無い冷汗塗れになっていた

「・・も・・申し訳ありませんっ・・正体不明の船が平行して飛んでいますぅ」

「正体不明って・・・もしかして・・」

ディーンは再び外を見て骸骨とクロスした骨のマークを確認すると、身を乗り出して女海賊ジョーの姿を宇宙船の窓に探した

「ジョー・・やっと会えたっ!・・・・・だけど・・・・畜生っ、このままじゃ・・っ」

「なっ・・なにをなさるんですかっ?、ディーン様っ!!」

慌てる車掌とクリアの前で、ディーンは銃を抜くと宇宙の彼方に走り去ろうとしていた海賊船へと発砲した

それは一筋の光を残し、船の胴部分に命中する

「・・あわわ・・・なんという事をぉぉ・・・」

腰を抜かした車掌と震えるクレアを尻目にディーンは海賊船からの威嚇の砲が数発、列車ギリギリの位置を狙って撃ち込まれた衝撃を遣り過ごすと、この列車に乗り込んでくるであろうジョーを待った

海賊船に完全に捕らえられたGEは動きを止められ、列車の乗客全員の命は全てディーンの出方次第

コツコツと近づいてくる靴音にゴクリと唾を飲むディーンだが、何故かサムだけは送った視線に頷いてくれた





「私の船を撃ったのは誰?・・・・誰も居ないとは言わせない、出て来なさいっ!」


やがて若い女が、ディーンの前に現れた

だがその全身から発せられる殺気はこれまでの戦場でも感じたことが無いほどに鋭いもので、いくつもの地獄を潜り抜けてきたオーラが彼女の体から漂って来ている

「俺だ・・俺が撃った」

サムから借りたコートのフードを被ったまま、ディーンは銃を抜き女海賊の前に進み出た

直ぐ殺されるかも知れないが、こうでもしなければジョーと直接話すチャンスは無いからだ

「・・ふん・・・・あんたは賞金稼ぎ?

 言っとくけど、私に銃を向けて生き延びた者は居ない
 命を粗末にする愚か者っ・・・・私に殺される前に、その顔を見せなさいっ!」

流石に若くても歴戦の兵である海賊のジョーは、目の前の男が自分を撃てないと感じているのか至近距離にまで近寄り、ディーンの被っていたフードを自らの銃の銃身で大きく払った

「・・っ!」

それは、ディーンにしてみればほんの偶然

冥王星の寒さにさっきまで震えていたせいで被っていたフードが、偶々顔を隠していたという事

だが、ジョーにとっては、それは酷くショッキングな効果を齎したようだった

「・・ジェンセンっ・・・そんな・・っ」

「・・?・・」

自分を誰かと間違えている様子のジョーにディーンはサムを振り返ると、直ぐ彼は前に進み出て来た

「彼はジェンセンじゃないよ、ジョー・・・彼の名前はディーンだ
 ・・・確かにちょっと似てるね、タイタンのお母さんも言ってた・・」

「・・サムっ・・あなた・・・」

すると何故かジョーはサムの顔も知っているらしく、今度はディーンが驚く番だった












「・・・・・元気なの?、サム・・・あなたが居たとはね・・」

「僕は元気だよ、ジョー」

共通の知人を挟んで二人が抜いていた銃は無事ホルスターに納まり、ディーンはやがて話し始めるジョーとサムに不思議そうな視線を送る

「・・サム・・お前・・こんな美人の女海賊と知り合いだなんて一度も話さなかったじゃないかっ」

「いつかこうして会えると思ってたからだよ、ディーン」

「・・・・・」

そう言われれば返す言葉は無いが、なにやら含みの有るサムとジョーの関係はディーンを酷く不機嫌にさせる

「ジョー・・ディーンは君に聞きたい事が有るんだ」

「・・私に?」

思わず二人の様子に気を取られて忘れそうになっていた話題を、ディーンはサムに切っ掛けを作ってもらった形でジョーに問い掛けた

「・・ぁ・・あんたが知っていると教えられたっ・・・機械伯爵の居場所を・・」

「・・・・・・知ってどうするの?・・・殺そうっていうの?、機械伯爵を?」

ディーンは、それを聞いて車掌が背後でアワワと声にならない声を上げるのを聞いたが、毅然と顔を上げてジョーを見つめた

「・・・本気みたいね・・・」

「教えてあげてくれ、ジョー」

「・・・・・教えてもいいの、サム?・・・本当に・・・・・教えてもいいのね・・?」

真剣な顔でサムを見つめていたジョーは、やがて納得したのか一転表情を変えて悪戯っぽくディーンに微笑みかけた

「・・分かったわ・・・・・・それじゃ、ディーン・・海賊の掟よ
 自分が欲しいものを手に入れるには、その代わりに何かを失うの
 機械伯爵の居場所を教える代わりに、私の言う事を一つきくっていうのは・・どう?」

「分かった、何でも言う事をきいてやる」

ディーンは、その取引を遮るようにサムが身を乗り出してきたのを遮って、即答した

機械伯爵は弟ジャレッドの仇だ

これは、何にも優先してするべき事だから

「機械伯爵は・・コレクションを仲間に披露するために、トレーダー分岐点にやって来るの」

「・・トレーダー分岐点?」

その迷いの無いディーンの答えにジョーは機嫌良く微笑み、背後に控えていた車掌ももう大それた計画の密談に立ち会ったショックから立ち直り腹を括ったのか、後ろから小声で次の停車駅だと教えてくれた

「分かった・・それじゃ・」

「ちょっと待って♪」

「・・・・な・・なんだ?、ジョー・・」

立ち上がってサムに促されて元の車両に戻ろうとしたディーンを、ジョーが鋭く呼び止め凄い力でその腕に取り上げた


「忘れないでディーン、言う事をきくって約束・・・・今夜、私の船に来て」

「・・・へ・・?・・」

しっかりと組まれた腕と熱の篭ったその瞳に、漸くディーンは最初ジョーが自分そっくりな男の名前を愛しげに呼んだ事を思い出す

これはもしかして、もしかしての展開なのだろうか

「・・・・・・・・」

「大丈夫よ、宇宙船はちゃんとGEと平行して飛び続けてあげるから♪」



もうディーンはジョーの言いなりになり、サムも二人の背中を見送るしか出来なかった





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