Galaxy Express 14
トレーダー分岐点

それはあらゆる空間軌道が一点に集まる所

旅するものが一度は必ず通り過ぎる、自由と無法の渦巻く大フロンティア

多くの男達が夢を抱いて此処に来て、ある者はこの星の土となり、ある者はその夢を抱いたまま見知らぬ宇宙の果てに旅立ってゆく

それが、惑星ヘビー・メルダー






























ディ−ンとの関係を修復する間も無く、無情にもトレ−ダ−分岐点の有る惑星は窓の外に小さく見えて来る

サムは、少し離れた席でそれを確認した背後でディ−ンが立ち上がり自らを落ち着かせるように通路を歩き始めても、何も言葉を掛けられずただチラリと視線をやっただけだった

先日の嫉妬に駆られてした行為は自分が一方的に悪いと感じていたから、もし時間が許すならディ−ンから許してくれる迄待つつもりだったのだがもう彼の弟の仇が居る星は目前で、しかも彼がやろうとしている事は命を落とす可能性も有る途方もなく危険なものだ

「・・ディ−ン・・」

だからサムは、彼を守る為の出来る限りの手段は講じたがこのままの状態では何かあってからでは後悔すると感じ、下車に備え銃の手入れをしているディ−ンに近寄る

「・・何だよ?」

すると彼はすぐ目を上げて、こちらを見てくれた

「・・・・昨日の事は・・ごめん、僕は・」

「あれは・・・・・もういい、サム
 それより今は・・頭を空にしたい、これから命のやり取りをしに行くんだからな」

「・・止めても行くよね、当然・・・」

「ああ、本気でお前が止めるならタマを蹴飛ばして昏倒させる・・その覚悟が有るなら止めろ」

そう言って緊張を隠して笑ってくれたディ−ンが少しは自分を許してくれていると、サムは漸く表情を和らげて御免だと両手を上げた

そして、ディ−ンの許しを得てから彼を強く抱きしめる

「気を付けて、ディ−ン・・本当に」

「・・行ってくるよ、サム・・お前は祈りながら待っててくれ」

予想通りディ−ンは一人で時間城に乗り込むつもりで、やがてトレ−ダ−分岐点のホ−ムに滑り込んだ列車からディ−ンは立ち去り、その後ろ姿はサムと事の顛末を知る車掌とクレアが心配そうに見送っていた
































サムをGEに残したった一人で惑星ヘビー・メルダーに降り立ったディ−ンは、分岐点という名前通りここが広い宇宙の交通の要所なのだと知ると同時に、この混沌とした印象が少し前の地球に似ていて安堵する

身の置き所の無い近未来的なビル群を足早に通過して一歩裏道に入れば、そこには古びた小さな家が隙間無く建ち野良犬がウロつきどこからか懐かしい流行歌まで聞こえて来て、ディ−ンは隣にサムが居ない心細さを紛らわすように薄暗く汚い街角で一人呟いた

「・・やっぱりこうゆう所が俺の性に合ってるな・・」

そして先ずは機械伯爵が居る時間城の場所を聞く事が先決だと、出来るだけ場末の世間からはみ出した者達が集まりそうな酒場を探して、最も奥まった場所に有る店に狙いを定める

「・・・・」

当たりだと、その軋む扉を押した瞬間ディーンはスラム育ちの勘で分かった

酒場に入って来た他所者を見る人々の視線、それはある種の秘密を共有出来る人間かを見極めようとするものだったから

「・・ビール」

友好的かは分からないが背後から自分を観察している感覚をピリピリ感じながら、ディーンはカウンターの前の椅子に腰掛けバーテンにオーダーする

「・・・・」

「?・・・おい、爺さん、ビールくれ」

だがたった一人、目の前の年嵩のバーテンだけは、額に被さった白髪の下酷く驚いて目を見張りディーンを見ていた

「・・ぁ・・あんたっ・・もしかして、ジェン・・」

「?・・・ああ」

その様子と台詞で、ディーンは漸く合点がいく

この人は初対面の時の女海賊ジョーと同じだと

「爺さん、その・・・生憎だが、俺はジェンセンじゃない
 彼の昔からの知り合いにも似てると言われたが、別人だ・・・な?、よく見ろって」

「・・っ・・・・そ・・そうじゃな・・・その筈じゃ・・・」

ふぅ、と胸を撫で下ろし、バーテンは寿命が縮んだと言ってカウンターに脱力して寄り掛かった

「悪かったよ・・驚かせて」


ディーンはさり気なく背後を窺って他にも自分をジェンセンと間違えている人間が居るか観察したが、もう皆表面的には余所者への興味を失い酒を飲んでいるように見えるだけだ

「ふむ・・・考えてみれば、彼はトレードマークの分厚い眼鏡と帽子を欠かさなかった
 ・・じゃが、本当によく似てる・・・・・・・・旅の途中なのか?、若いの」

「・・まあ、そんなところだ」

「なら、一つだけ忠告してやろう・・・・これからジェンセンやハーロックの名前は出さん方がいい
 機械化人に逆らう彼等の名を、何処で伯爵の息の掛かった者が聞いているかも分からんからな・・」

バーテンは声を一際潜めて告げたが、ディーンはいきなり核心に触れたと目を見開き体を乗り出した

「っ・・伯爵ってっ?、機械伯爵かっ!!」

「若いの、声が大きいっ・・」

「奴は俺の弟の仇だっ・・教えてくれ爺さん、時間城の場所をっ!」

必死にバーテンが袖を引いて声の音量を落せとアドバイスしてくれたのも、もう後の祭り

背後の客がその言葉を聞き咎め、一斉にこちらに注目しざわめいたのが分かった

「っ・・馬鹿を言うなっっ!!、お前なんかが歯の立つ相手じゃないっ!」

「・・っ・・ぇ?・・」

するとバーテンは突然ディーンを怒鳴りつけ、襟首を掴み引き摺って行くと酒場の外に摘み出した

「なっ・・なにすんだ、爺さんっ」

咄嗟に年寄りに抵抗出来ずされるがまま地面に膝を付いたディーンだが、彼の突然の豹変には理由が有ったらしく直ぐバーテンは耳元に口を寄せ小声で囁く

「いいか、よく聞けっ・・西のガンフロンティア山を越えて行け
 機械伯爵の時間城は今夜そこに来るっ」

「・・?・・爺さん・・」

礼を言おうとした瞬間、彼が押さえている背後のドアが凄い力で中から叩かれた

どうやら機械伯爵に内通した機械化人が客の中に混じっていたらしく、暗殺を企むディーンを逃がすまいと追って店の外に出ようとしているのだ

「早く行けっ」

「っ・・すまない・・」

ディーンは後ろを振り返らずに走り出し、直ぐ側に停めてあったバイクを盗んで西へと走らせた



























丁度教えられた山を越えた辺りでバイクはガス欠になったが、その頃には遠くに機械伯爵の根城が見えていた

「・・・あれが・・時間城・・」

夕闇の中に浮かぶそれは、無数のモニターと点滅する光のせいでまるで一つの巨大な機械空母のようだ

それでも物心付いてからというもの、機械化人の物を盗み機械化人の裏をかき生きて来たディーンにとってみれば、その厳重な警備の突破もそう難しい事ではなかった

「・・機械になっちまうと、創意工夫ってものが無くなるな・・」

ワンパターンに天井付近を行き来する警備センサーの赤いライトの死角をついて進み倉庫らしき場所に出て、運搬用の浮上ロボッドにタイミングを合わせてぶら下がり上のフロアを目指す

どこも警備は手薄で、一度だけどうにも破れなかった警備網に引っ掛かってヒヤリとしたが機械化人がやって来ることは無く、やがて中世の城のような嫌味な程に懐古調のインテリアに変われば、遂に伯爵のプライベートな空間に入り込めたのだと分かった

そしてディーンは甲冑やタペストリーが幾つも飾られた廊下を進み、大きな扉の前に出る

「・・・・・・」

余りの静かさに罠かもしれないと頭の片隅で警鐘が鳴るが、その時のディーンはジャレッドの死に際の顔ばかりを思い出していて、やはりどこか冷静ではいられなかったようだ

だから、扉を開け目の前の大広間の壁にジャレッドの剥製を見て息を飲んだ瞬間、背後から何者かに後頭部を叩かれて気を失ってしまったのだ

































「チョロチョロと子鼠が城の中を這い回り・・・五月蝿いものだ」




「・・っ・・?・・」




ゆっくりと取り戻した意識の中で、ディーンは何時か聞いたその声を必死に思い出そうとした

そして肩を蹴られて仰向けにされると、ディーンは薄く開いた目と完全に覚醒した頭で沢山の機械化人の中からジャレッドの仇の姿をしっかりと捉える

「気が付いたか?」

「・・っ・・・お前が・・機械伯爵っ!・・・・っ・・くっ・・」

起き上がろうとしたところを再び踏み付けられ、後ろ手に縛られていた腕が酷く捩れる

「確かに、私が機械伯爵と呼ばれる男だが・・・・・人間ごときが、私になんの用だ?」

「・・ジャレッドを・・っ・・俺の弟を殺したっ!・・・お前を殺してやるっ、それが用だっ!!」

「・・・ふぅん、これはこれは・・」

機械伯爵がディーンを馬鹿にしたように頷き、周りの取り巻きを見回すと男達は一瞬の後爆笑した

「ふぁはっはっ・・・こりゃいい、人間が伯爵様を殺すって?」

「殺すもなにも・・もう縛られて転がってるのに」

だがディーンは、視線だけで人が殺せるものならと燃えるような瞳で伯爵を睨みつける

「黙れっ!、殺しただけじゃない・・・ジャレッドを・・・あんな・・あんな姿に・・っ」

「?・・・ジャレッド・・・・・おお、そうか・・あの居間の剥製の兄か
 ・・あれは若く逞しく・・私の長い狩りの獲物としては最高だった
 思い出しても、あれを仕留めた時の事は心が躍る・・
 だから、折角私がああやってその美を永遠に留めてやったというのに・・・何が不満だ?」

「・・っ・・・」

すると男の一人が、悔しさで歯をギリギリと食い縛るディーンの髪を掴み無理矢理顔を上げさせて言った

「そういえばこいつも・・弟に負けず、なかなか上物じゃありませんか?、伯爵」

周囲も頷き、伯爵自身も身を屈めディーンの顎に指を添える

「うむ・・・私もさっきから見惚れていたわ、この男の美しさにな
 ・・弟とはまた違って、歪む顔が素晴らしい・・・ゾクゾクするぞ」

「では、伯爵・・こいつも剥製に?」

復讐も果たせずそれはごめんだとディーンは必死になって暴れるが、伯爵は予想に反した言葉を口にする

「・・いや・・少し楽しんでからでもいいだろう」

そして伯爵は部下に命じ、ディーンの服を剥ぎ取った






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