Galaxy Express 16
30分後

少しだけ元気を取り戻しどうにか走れるようになったディーンは、アンタレスと一緒に彼の手で纏めて縛られて気を失っているこの牢の番人と剥製職人を跨いで、外に出た

そして通りがかりの召使に、剥製職人に成り切ったアンタレスが呼ばれたと嘘をついて伯爵の居場所を尋ねれば、容易に地下の城の制御室だと判明する

「・・流石だな、アンタレス・・・あんたが居なかったらと思うと・・」

ディーンはアンタレスの巨大の影に隠れて足早に移動しながら、言った

「そう言うな・・・俺も協力出来て嬉しいんだぞ、ディーン」

人気の無い階段を二人は監視カメラを巧みに避けて進み、やがてこれまでの豪華な内装のインテリアとは全く違う無機質で冷たい空間が広がる

最新の機器が壁に埋め込まれ、この巨大な城を動かす膨大な量のコンピューターがそれぞれ判断不可能な数値が、ディーンの前で不愉快な点滅を繰り返す

「・・・っ、ディーン・・見ろ」

やがて、突然物陰で立ち止まり声を顰めたアンタレスは、先に見える男達を指差した

「あれは伯爵のボディーガードだ・・・つまり・」

「伯爵はあの奥の部屋に?」

「・・そうだ・・問題はあそこをどう突破するか、だが・・」

ディーンは、そう言ったアンタレスがポケットから手榴弾を取り出すのを見て、口笛を吹く真似をした

それは小型の電子嵐を起こす機械化人専用の武器で、ほんの一瞬だが彼らの動きを止める効果がある高価な物だ

「それは助かるな・・・その隙に・・」

「ああ、お前は走るんだディーン・・いいな?」

頷いて直ぐ、アンタレスは手榴弾を前の機械化人達に向って投げつけ、ディーンは援護射撃の中その先の部屋へと走りこんだ
























「機械伯爵っ!」

「・・なんだ、お前・・・どうして・・・・・・ぐっ!!」

ディーンの一発目の銃弾は真っ直ぐ振り向きざまの伯爵の肩を貫き、そこからは火花が散って小さな機械部品があたりに散らばった

そしてジィィジィィィという嫌なノイズが、伯爵の顔の部分のモニタを激しく乱す

「ぅっ・・・ぐぉぉぉぉ・・・・わ・・私の・・私の体がっっ!・・」

コスモ・ガンを構えたまま、ディーンはヨロヨロと歩く伯爵を冷たく哂ってやった

「体?・・お前にとって体なんか、傷つけられたってなんでもないだろう?
 知ってるさ、機械化人を本当に殺すには・・・その頭を打ち抜くってな・・」

今こそ弟ジャレッドの仇を討つ時だと、ディーンは今一度劇鉄に掛けた指に力を込めた

「まっ・・・待ってくれっ!・・・頼む、全部話す・・話すからっ!」

だが膝を付いた機械伯爵は懸命に両手を振り、哀れに懇願する

それに何も知りたい事など無い筈なのに秘密を打ち明ける事に同意したような口ぶりで、ついディーンは指の力を緩めてしまう

「・・話って・・・なんなんだ・・?」

「ぉ・・お前の・・お前達兄弟を狙ったのは、ある人物からの命令だった
 だが私はただの人間相手ならと・・・何時もの狩りの手法をとってそれを楽しもうとした
 ・・それだけなんだっ・・許してくれっ、命令に逆らったら私が殺されてたっ!」

「・・ジャレッドを・・俺達を殺そうと?・・・一体誰が・・?」

伯爵は効果的に一呼吸の沈黙を取った後、ディーンに告げた

その冷酷な命令を下した人物の正体を







「それは・・お前達の父親だ」





「・・ぅ・・・嘘だ・・」

その瞬間、伯爵の頭部にしっかりと合わせていた筈の標準が、ショックでグラリと外れた

そしてスローモーションのようにディーンの目は伯爵の手が服の裾の下に隠していた銃に伸びこちらに向けられるのを捉え、脳裏にはアンタレスの忠告が鮮明に蘇ってくる


『いいか?、コレだけは覚えておけ、ディーン・・機械伯爵に出会ったら、迷わずに撃て
 相手が涙を流して許しを請うても、容赦なく撃て
 たじろいだり、怯んだりしたらお前の負けだ・・・それが宇宙で生き延びる唯一の道だぞ』


確かにそうだったと、ディーンは思った

忠告に従わず、嘘か本当か分からない奴の言葉に耳を貸してしまった自分の負けだと














「ディーンっ!!!」




だが、ディーンがその胸を打ち抜かれると覚悟した瞬間、その弾の軌跡に立ち塞がって庇ってくれた影が在った

「・・ぁ・・・アンタレスっ!!」

それは前の部屋で戦っていたアンタレス

伯爵の部下を倒し、合流してくれたのだ

「・・くっ・・ディーン・・・・・こいつは・・俺に任せろっ・・っ」

銃弾が貫通した胸から血を流しながら、アンタレスは不敵に微笑んでいた

「む・・無茶言うなっ、アンタレスっ!・・怪我がっ!」

しかしその隙に伯爵は背後の装置に走りより、透明の分厚いバリアを下ろしてしまう

「ふはははっ・・・馬鹿めっ!、もう手出し出来んぞっ!」

「っ・・・どうかな・・・俺のこの体の中には・・不発弾がぎっしり埋まってるっ・・」

ディーンはアンタレスの手で背後に突き飛ばされ、そのまま何発もの銃弾を受けながらアンタレスが進んで行くのを見ているしか術は無い

「くっ・・・離れろっ・・この薄汚い人間めっ!」






「アンタレスっ!!」

「ディーン・・・・サムには・・サムには気を許すなよっ・・」

「・・っ?・・」



次の瞬間、伯爵が打ち込んだ無数の弾によりアンタレスの体は、彼がしがみ付いた分厚いバリアと共に木っ端微塵に吹き飛んだ



「・・・っ・・・・アンタレス・・・・・」









そしてディーンは、今度は躊躇わずただ一発の弾を、命乞いする伯爵の頭に確実に打ち込むだけだった






































「ディーン・・・早くっ!」

今頃になってズキズキと痛みだした体で、ディーンは既にベルも鳴り止みゆっくりと動き出してしまった列車に沿って、ホームを懸命に走った

GEが吐き出した蒸気で白く立ち込める中、デッキにはサムとクレア、車掌さんも心配そうにこちらを見ているのが分かる

「捕まってっ!」

「・・・・」

サムが伸ばした手を掴もうした時アンタレスの最後の忠告が思い出されたが、ディーンは躊躇わずに手を伸ばしていた

彼が誰でも、自分はするべき事はもう決めた

それにサムなら、それに協力してくれるに違いないと信じていたから

「良かった、ディーンっ!・・本当に・・・無事でっ・・」

「・・ぁぁ、サム・・・奴を倒して・・・戻って来れたよ」

アンタレスを動かし、冥王星のシャドウとも女海賊のジョーとも知り合いだったサム

確かに唯の人間ではなく、心を許すべきではなかったのかもしれない

でも、もう遅い

それに、機械化人達に殴られて切れた唇の端の血をそっと拭ってくれるこの指の優しさや、嬉しさに潤んだ瞳が嘘の筈はない

「・・サム・・・」

広い胸にギュと抱きついて、ディーンはジャレッドの亡骸を燃やす為にシステムを破壊して火を放った時間城の灯火を、眼下に何時までも眺めていた






























「今度の事で、はっきりと決めた・・次の停車駅に・・
 タダで機械の体をくれる星に着いたら・・俺はある事をしようと思ってるんだ、サム」

「・・?・・あること・・」

大した怪我はしていないからまず体を洗いたいと我侭を言い、ディーンはシャワールームに向う途中サムに打ち明けた

「・・ジャレッドは・・俺の弟は伯爵に剥製にされてた・・剥製にされて居間の壁に飾られてた
 ・・・・酷いよな・・・・機械伯爵だって元は人間だった筈なのに・・・・」

「・・・・・」

「人間の時は・・・優しさや思いやりがあっても、機会の体になれば残忍で自分勝手になる
 ずっと仲間もそう言ってたけど、機械の体になろうと思ってた俺は信じたくなかった
 ・・・でも、これまで旅をしてきて事実だと分かったんだ・・・・」

ディーンは、黙って聞いているサムの手を握った

「人は・・限りある命だから懸命に生きる・・人を思いやって、人を愛して・・
 永遠の命っていうのは・・・その生き方が仲間や子供に受け継がれてゆくことだ
 ・・・それが・・永遠に生きるってことなんだ・・・・そう、思わないか?・・サム」

「・・・・・・」

「だから・・俺は機械の体をタダでくれる星を、破壊する
 こんな物は・・・宇宙からなくならなきゃならない筈だ」




やがて静かに、サムは頷いてくれた

「・・・・ぅん・・・・そうだね・・・ディーンが決めたのなら・・・・」

俯いたままで表情は伺い知ることは出来なかったが、ディーンにとってはそれで充分だった

だから、シャワー室に入りドアを閉める寸前、サムに言った

この前みたいな、列車の連結部で忙しなくなんてのは、絶対に嫌だったから








「ベッドで待ってろよ、サム・・・今夜はちゃんと抱け」







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