Galaxy Express 18
「・・・・・サム・・?・・・」



夜中

正確には列車内時間としては朝方だが、気を失うようにして眠っていたディーンはボンヤリと覚醒した

そして直ぐ伸ばした手でベッドの隣のサムが居る筈のスペースが空いていて、シーツも冷えているのに気付く

「・・・・どこ・・に・・・」

だがいくら待ってもサムがこの寝台車に戻ってくる気配は無く、だからといって酷くだるい今の体を起こして彼を探す為に歩き回る気にもなれなかったディーンは、仕方無しに再びベッドに突っ伏す

数時間前までは、激しくサムに抱かれていた

迷いや躊躇いのようなものを振り切ったサムは、あれから執拗にディーンの肉体に快楽を叩き込んだ

まるで、自分という存在を刻み付けるかのように

何度も

そんな熱い時間を過ごした場所なのに、今はたった一人、冷えたシーツの上だ




「・・・サム・・」

ディーンは再び闇に落ちてゆく意識の中で、寂しく冷えた体に自分の腕を回して、必死に暖めた










































「っ・・クレア」

「・・ディーンさん・・」

二度寝の結果昼過ぎまで起きれなくなったディーンは、サムを探しもうランチタイムも終わった食堂車に入ろうとして、その列車の連結部でクレアとばったり出会った

彼女の手にはエネルギーカプセルが有り、ウェイトレスという仕事の合間の忙しない食事だと分かる

「ぁ・・ああ、飯か・・・・・君は便利だよな、ソレで済む・・」

何時かサムとの事を目撃されたクレアだから、なんとも気不味くてディーンは急いで話題を逸らした

「・・・・ええ・・そうですね・・でも本物の舌で料理を味わう方が・・
 特にディーンさんが美味しそうに食べていらっしゃるのを見ると・・そう思います」

些か失礼な物言いだったと内心反省するディーンにも、クレアは気にも留めていない様子で青い炎が光るカプセルを見つめた

そしてそれを飲み込めば、ガラスの体の喉元から胸にかけて光が通過して行くのが外からでも分かる

「・・それ・・不味いのか?」

「機械の体では味は感じないから・・・ちょっと体が暖かくなるだけ・・」

「・・そうか・・」



やがてぎこちなく背を向けたディーンが立ち去ろうとすると、クレアはそっと後ろから呼び止めて来た

「ディーンさん」

「?・・なんだ」

「・・私・・大丈夫です」

「え?」

「サムさんとの事・・・お二人がお互いを想っていたのは知ってました・・・だから」

「ぇっ・・・あ・・・ぁぁ、そ・・そう・・か」

焦って赤くなったディーンに対して、クレアは静かに不思議な事を呟いた




「お二人とも優しい人・・・だから、少し・・悲しいだけ・・・」









































「・・サムっ、ここに居たのか」

クレアの言葉を不思議に思いながらも食堂車に入れば、そこに探していたサムは居た

近づけば自分を見上げた彼の手にはこんな時間から酒らしき琥珀色の液体が入ったグラスが握られていて、ディーンは訳も分からず悲しくなる

「・・・・ごめん・・ディーン・・・眠れなくて、ここでずっと・・」

「っ・・どうしてだよ?・・・もしかして・・・後悔してるのかっ?、俺との事」

女のように情事の後、優しい睦言を欲しいとは言わない

だが直後ベッドを出てずっと戻らないなんて、いくらなんでもサムの言い訳では納得出来ない

「・・違うっ・・・後悔なんか、してないよ・・」

「だったら・・っ」

身を乗り出すようにしてサムの前に座ったディーンは、グラスを離れた彼の手が自分の手首を強く掴むのを感じた

そしてもう片方の手は、優しく頬を撫でてくる

「・・・サム・・?・・」

「・・ディーンを愛してる・・・これは本当だ、だからそれ以外の事は・・聞かないで・・」

熱くて大きなサムの手

ディーンは、一夜にして覚え込まされてしまった感覚が蘇り、ゾクリと背中を震わせた

そして首の後ろまで滑った手で引き寄せられれば、公共の場にも関わらず激しく唇を屠られる

「・・んっ・・・・っ・・サム・・」

誤魔化されてる、流されていると分かっても、ディーンはサムを信じていたかった

このまま残り少ないかもしれない時間、サムの笑顔を見て過ごしたい

彼が自分を愛しているという気持ちが嘘ではないのなら、他の事後で聞けばいいとディーンは思った


全てが終わった、その後で


















やがて食堂車を出て返る途中ディーンがふと窓の外を見ると、不意に黒く大きな影が走った

「っ!・・なっ・・・なんだ?!」

まだ海賊船かと窓にへばり付いたディーンだが、後ろからサムは落ち着いて教えてくれる

「あれは・・黒騎士の幽霊列車だよ、ディーン・・地球にも停車してる」


「・・あれが?
 スラムの上を飛んでるのは見たことあるけど・・地面からじゃ光の線にしか見えなかった」

こうして直ぐ近くで見るとGEと全く同じサイズのその漆黒の列車は、スラムの仲間内では幽霊が乗っているのだと噂されていた

そして黒騎士という男が幽霊達の親玉だと

ディーンはそんな話を全く信じなかったが、人一人の気配も感じずただ黒い車体が疾走する様は、確かに乗客が幽霊だと言う話が広まるのも無理は無いものだった

「あれは一体何を運んでるんだ、サム?
 旅行者じゃないよな?・・じゃ、荷物か?・・・それに、黒騎士って何者だ?」

「・・・・・・」

「・・サム??」

無言を不思議感じて振り返れば、酷く悲しそうなサムの顔

「どうしたんだっ?、あの列車が何か・」

「っ・・・何でもないよ・・・・・・あれが・・何を運んでいるのかは、誰にも分からないんだ・・」

「・・・・・・・・そう・・か」

ディーンはその不気味な幽霊列車なんかより余程サムの顔色の方が気に掛かったが、何も言わずいつもの車両に戻って行った















































「・・・ディーン・・・」

列車に着くなり、疲れているのかディーンは又眠ってしまった

サムはその力の抜けた体を自分に寄り掛からせて、手に取るように感じられる彼の不安を掻き消そうと優しく背中を撫でている



もう何も言葉は掛けられない

全ては、次の星で、決まる

絶望も希望も、生も死も

宿命も運命も










「え〜・・・・次の停車駅は終点〜・・機械・」

シィィーっと、サムは入ってきた車掌に向けて人差し指を口に当ててその名を口に出す事を制した

何も知らない人が見れば眠っているディーンを起こしたくないからだと思っただろうが、何故か車掌は悲しそうに顔を歪めて俯いて二人の横を通り過ぎる

そして車両の端で振り返ると、子供のように無邪気な顔で眠るディーンを見て遣る瀬無げに一つ、小さな溜息を落した






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