Galaxy Express 19
『ギャラクシィ・エクスプレス終着駅〜  機械母星サミュエル〜 機械母星サミュエル〜』







銀色に光るプラットフォームに降り立ったディーンは、駅のアナウンスでその星の名前を初めて知り茫然と立ち尽くした

「・・サミュエルって・・サム?・・・・ど・・どうしてこの星が、お前と同じ名前なんだ?!」

「・・・・・・」

だが固く強張った表情のサムは無言でディーンから逃げるように足早に駅の緩やかな階段を上り、慌てて後に続けばその先にはなんと銃を手にした機械化兵達が二人を待ち構えていた

咄嗟にコスモ・ガンに手を伸ばしサムを庇うように前に出たディーンだが、直後その中から進み出て敬礼した機械化兵の隊長らしき者から信じられない言葉を聞く

「お帰りなさいませ、サミュエル様・・・よくご無事で
 しかもお連れになったこの男の勇猛果敢さ、責任感の強さは
 全て通信機を通し、コントロールセンターのコンピューターへ送られて来ておりました
 ・・・機械帝国王アザゼル様におきましては、事の他お喜びでございます」

「・・・?・・サム・・これは・・・どうゆう事なんだ・・?・・」

いくら問い掛けても、サムは全く視線を合わさないまま何も言わずに俯くだけで、一人機械化兵の無機質な声が響く

「この星はあらゆる物全てが、人間で出来た部品で組み立てられている
 お前は全てのテストに合格し、しかも我々の英雄機械伯爵まで抹殺した重罪人だ
 その罪の償いとして、この星を構成する部品の一部になって惑星サミュエルを永遠に支え続けるのだ」

「・・・・・・・」

残酷な事実を突き付ける兵士の声も、ディ−ンにとってはまるで悪い夢を見ているようにしか感じない

「・・ぅ・・嘘だろ?・・なあ?、嘘だって言えよっ・・・・こんな事、お前がするわけ・・」

振り返り揺れる瞳の先に居る、サムに早く冗談だと笑って欲しかった

びっくりした?と、悪戯が成功した子供のような顔で、抱きしめて欲しかった

だがサムは、肯定を意味する沈黙を守ったままだ

「っ・・・・まさか、ずっと・・・・俺を騙してたのかっ?
 ・・・優しくするフリをして・・お前を好きになった俺に応えた芝居をして?・・」

「黙れっ、薄汚い人間めがっ!
 サミュエル様はこの星の重要箇所に相応しい人間を捕獲、収集する大事な任務に
 長年就いてこられたお方だぞ・・・お前など下賎な者の相手などする筈も無いっ」

「・・・・・・」

続くサムの沈黙に、ブルブルとディーンの拳が震える



あの愛を囁いた優しい声も

熱く注ぎ込まれた情熱も

全てが嘘

最初から











「・・このっ・・馬鹿野郎っ!!!」

「っ!!」







ディーンは渾身の力でサムの頬を殴り付けたが、その時痛んだのは拳ではなかった

心が痛かった

激しく痛み、血を流していた




「ディ−ン・・抵抗しないで・・」

忽ち機械化兵に周りを囲まれ強か打ち据えられながら、ディーンは聞きたかったサムの小さな声を漸く拾った

それは全く望まぬ、残酷な言葉だった





「・・それが・・俺に言う最後の言葉なのかよっ、サムっ・・・っ・・・・サァーームっ!!」









ディーンは引きずられて行く間もずっと、サムの名前だけを叫んでいた









































「・・ディーンさん・・っ」

グッタリするまで痛めつけられ、引き摺り連れて行かれるディーンを遠くから確認した車掌とクレアは必死でその後を追うが、彼等の乗った光の輪のエレベーターの降下はとても速く追いかけられずに見失ってしまった

しかしどうにかディーンがこの星の部品にされてしまうのを止めようと、クレアは長く続く通路を懸命に走りその星の内部へと潜り込む

「クレアさんっっ・・ちょと・・待ってっ・・ハァ・・ハァ・・」

車掌さんも必死にその後を追いかけ、やがて二人は不思議な空間に辿り着いてしまった

「・・・・ここは・?・・・なんなの・・!」

「クレアさん、こんなに列車から離れては・・・・あっ!!」

後ろからそう言いながら部屋を覗き込んだ車掌も、あまりの光景に言葉を失う



それは、巨大な部屋に稼動する、幾つものベルトコンベアー

轟々と音をたてるその上には、自分の意思とは関係なく運ばれてゆく無数の人間

「・・・・ま・・まさか・・そんなっ・・」

「っ・・・・あれは・・・・」

二人の前で装置の上部にある大きな器からザラザラと多くの人が投げ込まれ、その先の上下する機械で一人一人挟まれ加工されれば、その先から姿を現すのは青い炎を湛えた一つのカプセル

機械化人達が生きる手段としている、あのエネルギーカプセルだった

「・・酷いっ・・・あれは・・・一つ一つが・・人間の命だったのっ・・?・・」

「・・クレアさん・・」

「私が・・・・私・・食べてたっ、沢山・・・・人の命をっ・・そんな・・っ・・いやぁぁー・・」

「・・・・・」



顔を覆い泣き崩れるクレアと呆然と佇むしか出来ない車掌の前で、ベルトコンベアーは今も残酷に稼動し続けていた

そして車掌は、たった今長年の疑問が解けるのを感じた

黒騎士が動かす幽霊列車が何なのか

それこそがエネルギーカプセルの原料として多くの星星でムーンを使って捕獲した人間を、この機械帝国の中心星へと運ぶ死の列車だったのだ








































「黒騎士・・・・・いや、貴方は人間だった時はジョンという名前でしたよね・・」

「・・突然なんの話だ?、サミュエル」

ディーンが連れ去られた通路で、何処からかぼんやりと姿を現した黒い気配とサムは対峙していた

最初薄く透き通ったホログラムだった影はやがてはっきりとした姿でサムの前に現れ、たった今連れて行かれた人間を愉快そうに目を細めて視線で追っている

黒騎士の名の通り、空間を自在に移動する黒い甲冑に包まれた不気味なその姿は、機械帝国の王アザゼルの片腕に相応しい容貌だ

「昔の話など忘れたよ・・・私が人間だった時の事など、とうの昔だ」

だがサムは厳しい表情を緩めず、ジョンと呼んだ男を見つめている

「では家族の事は?・・以前貴方は二人の息子を探させていた筈だ、機械伯爵を使って
 それは息子のことが気に掛かっていたからでしょう?・・今でも・・彼等のことは・・」

「・・・ディーンとジャレッド・・・・顔も見たことが無い私の二人の息子か・・」

「誰にも秘密で貴方はっ・・・・伯爵に二人を探して保護してくれと頼んでいた
 だが機械伯爵は、二人はもう死んでいたと報告した
 ・・でも、本当は伯爵が戯れの狩りの末・・ジャレッドを殺していたとしたら?
 そしてディーンが生きていて・・・今・・この星に居ると言ったら?・・」

「・・・・・・・」

「あなたは・・どうしますか・・?」

サムはじっと呼吸を止め、ジョンが人の心を取り戻す時を待った

この星の、そして宇宙全ての命運が掛かる、その瞬間を

「・・まさか・・今の男がか?・・・・ディーンだと?、私の息子の・・」

だが一瞬柔らかな光を取り戻したように見えた黒騎士の瞳は、直ぐに又元の深い暗闇に変わってしまった

「・・もしそうだとしても・・・私の考えは変わらない
 私はアザゼル様にお使えすると、永遠の忠誠をあの方に誓ったのだからな」

「それが・・・貴方の答えですかっ?
 息子がっ・・・実の息子がこの星の部品にされようとしているのにっ、何ももう感じないっ??!」

「そうだっ!、私はこれからも人間どもを集めてくる・・そして我々の永遠の命の源に変えてゆくのだっ!
 機械帝国の繁栄・・私が考えるのはそれだけでいいと、機械化人の神であるアザゼル様も仰っているっ
 ディーンがこの星の一部になるのなら、こんな嬉しいことはないわっ!
 ・・・・ふ・・ふはは・・ふはははっっ!・・」

「・・・・・」


狂気

笑いの発作に身を震わせる漆黒の闇に似たその姿を、淀んだ狂気がゆっくりと包み込んで運んでゆく

もはやジョンではなく、心全てが黒騎士という化け物に変わってしまった男からは、一欠けらの息子への愛情も無くなってしまっていた








やがて黒騎士が目の前から完全に姿を消すと、直後通信機を握り締めたサムは、一人猛然と走り出した







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