Galaxy Express 20
「アザゼル様・・部品ナンバー89989982、人間名ディーン参りました」

機械母星の中枢

機械帝国の王、アザゼルという男の前に、ディーンは連れ出されていた

「・・ご苦労だった・・・この男の適性は?」

星影が映るホログラムのマントを纏った長身のアザゼルの脇には、全身白い改造担当の機械化人が並びその無機質な声を合わせて答える

「中央制御室、自動緊急自衛システムの最後の螺子に最適かと」

「理由は?」

「この男の強い意志と人一倍深い我々機械化人への憎悪が、より強靭なパ−ツとなりえると判断致しました」

「螺子にするだと・・?・・っ・・この俺をっ」

ディーンは、目の前の悪魔のような男を睨みつけた

全ての元凶

悪の根源を

「そう・・この惑星を支える、生きた部品にな」

黄色いその不気味な目を細めて、アザゼルは無駄な抵抗を続ける惨めなディーンを嘲笑う

「やめろっ・・螺子になんかされて堪るかっ・・はなせっ!!・・畜生っ!!・・」

手足を限界までバタつかせて暴れても機械化人の力はすさまじくそのまま手術室へと運ばれ、ディーンは寝台の上に手足をきつく金属の枷で固定されてしまった

そして光るメスやドリルが施された不気味な装置が、ゆっくりと隣室から天井のレールを滑りこちらに近づいてくる

「手術の前に一つ良い事を教えてやろう、ディーン・・」

「・・っ・・いい事・・?」

「機械の部品になっても、その意識は残る
 つまり永遠にお前は私を呪い、恨んで生き続ける・・少しも動けぬ体でな
 ・・どうだ?・・・これからの人生が楽しみになっただろう?」

「っ・・・糞っ」

余りの悔しさに切れるほど唇を噛み締めたディーンは、アザゼルから顔を背け目を瞑って犠牲になったみんなに謝った

自分をGEに乗せる為に死んでいった、ボビーやアッシュ

そして最後の望みを掛けて自分を待ち、今も地球で機械化兵と戦っているであろうエレンや仲間達に

タダで機械の体をくれるなどという噂は、こうして人々をこの星に誘い込む罠だった

そしてサムは、その悪魔の手先

「・・俺が馬鹿だった・・・ジャレッとそっくりの男を信じてしまったから・・」

許してくれ、とディーンは頭に浮かぶ笑顔の仲間達に向い呟いていた











するとその時、部屋の鋼鉄扉が開き走って来る何者かの足音が聞こえた

「・・・ディーンっ・・・」

振り返れば息を切らしたサムが、直ぐ側に立っている

「っ・・何しに来たんだよ、サム・・・・間抜けな俺を笑いにか?!」

「私の一人息子に無礼な口をきくなよ・・部品にせずに今すぐ殺すぞ?」

髪が抜けるほどの力で頭を掴まれ睨みつけてくるアザゼルの脅しより、ディーンにとっては聞いた内容の方がショックでその身を震わせる

「っ・・お前の息子?・・サムが?・・」

「そう、驚いたか?
 お前が一緒に旅をしたのは機械帝国を支配するこの王、私の一人息子のサミュエルだ」

「・・・っ・・・・そう・・か・・・・・そうだった・・のか・・・・サム・・」

サムは機械化人だった

どうして見破れなかったのかは分からないが、そんな化け物と一緒に今まで旅をしてた

そして、愛した

とんだ笑い話だ

「ディーン・・・っ」

「・・っ・・もう・・・はやくやれよ・・
 螺子にでも何でも・・すればいい・・っ・・・お前も俺をそうしたいんだろ?、サム・・
 さぞ・・可笑しいだろうな、お前を愛して・・・愛されてると勘違いして舞い上がった俺は・・」

俺は馬鹿だ、とディーンは絶望し体を投げ出した





だが、その時










『いいえ、サムは貴方を愛してしまった・・・それは事実よ、ディーン』






「っ・・その声はっ?、メアリー!!」

何処からか聞こえてきたその女の声に、アザゼルは無様なほどに動揺した

「・・・・・・そうだよ、父さんっ・・これは母さんだっ!」

それは、サムが隠し持っていた小さな四角の通信機からで、それをアザゼルに向けて掲げたサムは拘束されたディーンを守るように前に立ち塞がってくれた

「父さんはずっと・・これを僕に命令する為の唯の通信機だと思っていた筈
 ・・だけど本当は、母さんの魂・・・母さんの体だっ!」

「くっ・・メアリーめっ、反機械化世界を目指した裏切り者っ!」


『そうよ、アザゼル・・・哀れな機械の男
 私の魂はこうして通信機に姿を変えているけど
 そのエネルギーはこの惑星の中心を破壊し、バラバラに砕いてしまう事が可能よ
 ・・もう今日で悪夢は終わりにするの・・諦めなさい・・』


「・・バラバラに、だと?・・・ふっ・・
 人間で作られた部品で成り立つこの星が、破壊出来るわけが無いだろうっ」


『・・サムが歯を食い縛って、部品となる同志を運んできたのは何故だと思うの?
 部品となった同志達が、要所要所の重要部分に配置されているのは何の為だと?』


「っ・・同志だと?!」

「・・僕が連れて来たのは・・皆、志を同じくする人達
 機械帝国を破壊する為、身を犠牲にするのを厭わない勇敢な人
 僕は泣きたいのを我慢して、そうゆう人達を沢山ここに送り込んできた・・」

「・・サム・・」

サムが押してくれたボタンで拘束が解けたディーンは、彼がやろうとしていた事の全貌を漸く理解した

どうしてサムがあんなにも悲しそうにしていたのかも

そしてこの状況がどれだけ困難で絶望に満ちているかも

「サミュエル・・お前まで・・この父を裏切るのか?
 宇宙一美しい体を与えたこの父を・・・永遠の命を授けた・・この父を・・」

だがサムの後ろで、ディーンは不思議と幸せだった

不思議と落ち着いて、うろたえるアザゼルを見下せた

「お前は平気か?、ディーン
 サムが持つカプセルのエネルギーを解き放てば、この星諸共お前も死ぬことになるのだぞっ」

「・・・・・・ああ、いいさ」

ディーンは前に進み出ると、アザゼルに不敵に笑って見せた

「男なら危険を顧みず死ぬと分かっていても、行動しなければならない時がある
 ・・そうボビーが言ってた・・・今がその時だ、サムっ!・・通信機を後ろの炉心に投げろっ!」


「やめろっ!、サミュエルっ」


『投げるのよ、サミュエルっ!』









「・・ぼ・・僕は・・っ・・」





「躊躇うな、サムっ!・・どうして迷うんだっ!?」






投げれば全ての人が死ぬ

機械部品にされていても、その意思はまだ有る

意思が残り動けないままのその人たち全員を、今度は人としてではなく機械として破壊することになる

この星に連れて来た人、全て






震える手を止めてしまったサムに、アザゼルは今がチャンスと言葉を重ねた

「そう・・だ、サミュエル・・・この星はお前の分身、そしてこの父の体でもあるのだぞ・・」

「・・父さん・・・」

「人という人から裏切られ・・石を持って追われてこの小さな星に辿り着いた・・
 自分の力だけでこの星を機械に作り変え・・死の恐怖の無い世界を作り上げた、血の滲むような努力
 ・・・知らぬとは言わせないぞ、サミュエル・・・私の愛しい息子・・」







『ディーン・・・あなたなら出来るわね?、限りある尊い命を守るのよっ』





「・・っ・・・」

ディーンはメアリーの声に促され、サムが持つ通信機を無理矢理取り上げた

そして同時に奪おうと身を乗り出したアザゼルをかわし、止めるように歩を進めたサムからも離れて、背後のこの星の炉心部に続くガラスへと近寄る

そして止めてくれと言いたげなサムに向って、微笑んでやる






「大丈夫だ、サム・・・もしも俺も部品にされていたら・・・こうして欲しいと願ったよ」

次の瞬間にはディーンは迷わず、更に襲い掛かってくるアザゼルの手を避けると、炉心へとその通信機を投げ入れていた





































「サムっ、逃げるんだっ!」

溶けた炉心がメアリーの体となった通信機を飲み込むと直ぐ、アザゼルの断末魔の悲鳴と共に周囲の機械化人の体は機能を停止しボロボロと崩れ始めた

「・・・・・」

「何してんだよっ、早くしろっ!!」

ディーンはその場から立ち去ることを迷うサムの手を掴むと、渾身の力をこめて引っ張りGEが停車するホームを目指して階段を駆け上がり、通路を走る

その間もミシミシと星全体が軋み、内部から崩壊が始まっているのが分かった

そして部品となった人々の無数の声が、二人を包み込んでゆく

悲鳴

懇願

驚愕

憎悪

「・・みんな・・ごめん・・こうするしかっ・・みんなの力を借りるしかなかったっ・・」

「大丈夫だって言っただろう、サム・・ほら、聞けよ・・あの声・・」

耳を澄ませば、微かに自らの役割を自覚していた者達が破滅への指揮をとる声が聞こえた

それぞれの意思でパーツのジョイントを切り離し、四方へと砕けて散って行くのだと

行け

行けと

痛みを堪えて叫んでいる






やがて聞こえていた悲痛な声は止み、機械母星はこの帝国の終わりを望む人々の自決のコールに包まれていった







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