Galaxy Express 22
本当に全てが終わり、ディーンの精神は全てを処理しきれずに停止しているようだ
ぼんやりと窓の外を見ている彼の背後からサムが覗き込めば、宇宙空間に埋葬されてゆくクレアの破片が光っている
「・・・・・」
ディーンは最初外に捨てるなんてあんまりだと止めていたが、列車の規則だからと車掌に押し切られ、それにその煌きをずっと近くで見ている悲しみにも耐えられなかったのか、最後には仕方なく頷いていた
キラキラ
キラキラ
漆黒の闇の宇宙空間に流れ去って行くガラスは、まるで彼女の涙のように美しい
「・・・ディーン・・これ見て」
「・・?・・・・それは・・」
やがて一粒のガラス片を見つけたサムは、拾い上げてディーンに差し出してやった
「これ一つだけ集められずに床に残ってた・・・・まるで・・」
「・・ぁぁ・・こんな悲しそうな涙の形・・・見たことないな・・」
ギュと握り締めると、ディーンはそれをポケットに大事そうに仕舞った
絶対に彼女を忘れない、その時心の中で誓うディーンの言葉が、サムにも聞こえてきた
「・・・ふぅ・・」
「・・車掌さん」
流石にガックリと肩落し、表情の窺えないモヤモヤの顔でもどこか悲しそうに、クレアの葬儀を終えた車掌が入ってきた
「・・こんな事は初めてで・・・・はぁ・・全く・・・
しかし・・・列車は無事に運行致します、外装に多少の傷が有りますが問題無いとのことで」
「・・そういえば、これからGEは・・何処に向ってるんだ?、なんだか大きな星が遠くに見えてきたけど」
直ぐプロ意識を取り戻す車掌の姿につられたのか、ディーンも一つ大きく呼吸をして気持ちを切り替えると尋ねている
「はぁ、機関車が言うには決められた軌道からは大きく外れ
これからタイタンへ一旦停車し、地球を目指すと・・ですからタイタンで食料補給をしますです
・・・・予期せぬ多数の乗客で・・このまでは食料庫が空っぽでして・・ハイ・・」
「・・ぁ・・ああ」
そういえば、とディーンはずっと聞こうと思っていた事を思い出いたように顔を上げた
「あの・・前の車両にギュウギュウに乗ってる人たちは何なんだ?、何処に居た?」
「・・その、彼等は黒騎士の幽霊列車で運ばれて来た人達でして・・ぇー・・」
「あの列車で人間を??、どうしてだっ?」
部品用なら強い意志と憎悪を持つ者でなければならないと知っているディーンは、女や子供や老人が混じっていた彼等がとてもがそんな人員だと思えなかった様子で、眉を顰めている
真相を知っているサムは耳を塞ぎたいなる気持ちを抑えて、ただ沈黙を守って彼等の話を聞いていた
自分達がしてきた事
その罪は永遠に消えないのだと、分かっているから
「それが・・・エネルギーカプセルの原料は・・人間だったのです
機械化人の食事の為にもう少しで加工されてしまうところを・・クレアさんが・・」
「・・っ・・・そんな・・・・」
「でも・・もう機械母星が無くなった今カプセルの製造も出来ず、彼等の生命線も絶たれました
・・・もう二度とこんな悲劇は繰り返しませんよ」
「・・っ・・・」
「・・・ディーン」
確かにそう分かっていても、ムーンで捕獲され再び戻ることの無かった仲間達の顔がディーンの脳裏に蘇っているのが、サムにも分かる
そしてこれまで至る所で見た、機械化人のカプセル摂取の光景も
あの一つ一つが人間の命だと思うとサムの心も今更ながら痛むが、ディーンはそれを知りながら黙っていたサムは責めずにいてくれた
「なぁ、サム・・・黒騎士が誰だったとしても、俺は倒した事を後悔してない
・・こんな事をしていた奴には・・・あれは当然の報いの筈だ・・」
「・・・ディーン・・」
ディーンはサムの隣に座ると、その手をきつく握って来る
「考えて見れば・・俺達はこの旅で二人とも父親を失ったんだな・・・
・・・・他にも友達を・・・沢山・・・・」
「・・・・」
「もう、さよならは充分だ・・・・サム、お前とはずっと一緒に居たい・・」
そしてディーンはサムに寄りかかり、彼の答えも聞かぬまま気を失うように眠りについてしまった
だからサムは、ただその安らかな寝顔から目を逸らし、煌く星達を眺める他なかった
タイタンに着いた列車からは、混雑した狭い車両に嫌気がさし空腹だった人々が溢れ出して、一目散に町の市場に散って行った
他にはこの星でGEを降り、故郷の星を目指すという人達も居る
「・・やっぱりこの星はいいな・・・」
ホームからでも見える木々の緑に目を細めたディーンは、サムの傍らで必要物資を積み込む手を一旦休め気持ち良さそうに伸びをしている
「そうですね、ディーンさん・・機械化母星崩壊直後から、各星の彼等の勢力も無効化したようで・・」
「この星も平和になったのか・・?」
「ええ、きっと地球もですよ
・・・ああ〜!・・・こうなったら決まりですねっ、長年ウジウジウジウジと悩んで来ましたがっ!」
「???・・は?・・何がだよ?」
ディーンは突然を何か決意した様子で手を大きく振り回す車掌を、怪訝な顔で見る
「何がって・・そりゃ、生身の体がいいか?、機械の体がいいか?って事に決まってます!」
ほら、と、車掌は制服のボタンを外してその体を初めてディーンに見せた
「・・・うわっ!!」
そこには何も無くポッカリと空いた空間があるだけで、酷く驚いたディーンは後ろに立っていたサムにドンとぶつかって止まる
「そ・・・それで・・結論は・・?・・」
咄嗟に支えてやったサムの手を借りたままのディーンが呆然と問い掛けると、車掌はあはは、と笑った
「もちろん生身に決まってますよっ!、冥王星に行って取って来るつもりです」
「・・・ああ・・そりゃ・・いいな」
嬉しそうにパタパタと上着を動かす車掌につられて、ディーンはサムの前で、何日ぶりかで思い切り声を出して笑った
だが、サムは、そんなディーンから静かに離れた
「サム」
そして遠くで車掌と共に物資の積み込みを手伝うディーンを見つめていたサムの背後から、一人の女が声をかけた
「・・・ジョー・・来たのか・・」
「ええ・・・何の為かは分かっている筈」
美しい自然に包まれ、活気溢れた人々のざわめきに溢れるホームだが、サムとジョーが立つその一角だけは静寂が包んでいる
ホームに高く積まれた荷物に隠れて、ディーンからは死角となった場所でジョーは厳しい表情でサムと向かい合い、サムも覚悟を決めた顔で俯いた
「サム・・・・あなたはディーンと一緒には行けない」
「・・・・・・」
「あなたは私と同じ・・・・時間の旅人」
「・・・・知ってるよ、ジョー・・・・・」
サムはディーンの笑顔を見つめたまま、答えた
「サァーーーム!!、何してんだ、早く乗れよっ!!」
やがて出発を告げる汽笛と共に蒸気がホームを白く染め、ディーンは物資を片手にサムに向けて手を振っている
「今行くよ、ディーンは先に行ってて」
二コリと優しく笑い掛けてやれば、ディーンは安心し切った顔をして頷いて何時もの車両へ一人向った
やがて走り出しても隣にサムが居ない事に不安になり、最後尾のデッキでホームに佇むサムを見ることになるとは思わないまま
「っ・・サム・・・・どうしてっ!」
荷物を持ち寂しげに列車を見送る姿で、ディーンはサムが自分の意思でそこに留まったのだと分かったようだった
そして飛び降りようにも次の瞬間にはGEは大きく宙を舞い、思い留まったディーンに向ってサムも大きく頷いた
それでいいと、サムは目で語りかける
もう、自分の旅は、ここで終わった
「・・・サムっ!!・・っ・」
「・・さよなら・・ディーン・・・」
次に会う時
僕はこの姿をしていない
きっと
君は僕だとは分からない
でも
それでいい
それでいいんだ
「サァァァーーーーーーーーーームっ!!」
ディーンの叫びは木霊となってタイタンの深い渓谷を響き、やがてサムの元に幾重にも重なって、一人立ち尽くすその体を包み込んだ
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