Galaxy Express 23
機械帝国が崩壊し、彼等の活動に必要なエネルギーカプセルの供給が停止してから2年



もはやどの星でも、その勢力地図は書き換えられようとしていた

この地球でも人間は瓦礫を取り払い廃墟から材料を持ち寄って粗末な家を立て、遥か上に聳えていた機械都市が崩れ落ちた僅かな部分を拡げると、そこから降り注ぐ太陽の光りで種を蒔き野菜や穀物を育て始めた

だが少なくなったとは言え機械化人の抵抗が全く無くなった訳ではなく、まだ人々を守る兵士が必要である事に変わりはなかったから、数少ない不自由なく動ける者は今も肩に銃を担ぎ、単発の攻撃に備え交替で見張りに就く毎日が続いていたのだ



























「ほら、ディ−ン」

遥か昔、スタジアムだった場所のバックスクリーン部分だけが残った階段で、ディ−ンはいつかそうしたように仲間と数少ない煙草を燻らせていた

ただ一つ違っていたのはその体の向きで、グラウンドが有った部分にはディーン達が暮らす小さな村のようなものが出来ていたから、ここに上る者が警戒すべきは背後の廃墟郡だけだ

やがて交替に吸っていた煙草を差し出されれば、既に随分と短くなったそれに首を振りつつ空を確認するディーンに、隣に座る男は可笑しそうに笑った

「はは・・・全く相変わらずだな・・もうム−ンなんか来ねぇのに、暇さえ有れば上を見上げてる」

「・・餓鬼の頃からの癖だ、しょうがないだろ・・・それより、そろそろ時間じゃないのか?、マイク」

昔よりずっと短くなった見張りの一回の担当時間のお陰で、ちゃんと空腹になれば食事が出来るようになったのは喜ばしいと、ディ−ンは時計を見て立ち上がった

「うん・・なぁ、今日もまたポテトかな?・・なんだと思う、ディーン・・賭けようぜ」

「賭けない・・どう考えたって芋だからな、他の物が有る訳無い・・
 ・・・・はぁ・・・・一度でいいからステ−キが食べたい、焼き方はミディアムで」

「そりゃあ・・無理だ、ディ−ン
 この前漸く産まれた子牛はまだ小さいし、雌だからミルク用に大事に育てるとエレンは言ってたぜ」

ディ−ンは階段を下りながら、確かにエレンの目を掻い潜り牛を殺して食うのは厳しいな、と冗談を言った

「そうだよ、エレンに逆らったらタマを握り潰されるって話だ
 ・・でも・・・お前よくスラム育ちのくせに、焼き方なんて事まで知ってるな?
 ステーキなんて食べ物はもう、昔の料理本の中だけの代物だと思ってたけどよ・・」

ディーンが昔GEに乗って旅をし、機械帝国の滅亡に関わった知るのはほんの数人でそれも表立って話す事は無かったから、新入りのマイクは不思議そうに呟いた

「・・・・・」




2年前の出来事

それは今やディーンにとっては、もう思い出にしなくてはならない記憶

だが、つい今でも、再びGEが地球に降り立ち『彼』が目の前に現れてくれるのではないかと、ディーンはムーンを警戒するフリをして空を見上げてしまう





「・・・ほら・・大丈夫だよ・・行こうぜ、ディーン」

又頭上を確認してしまったディーンを今度は些か気の毒に感じたのか、アレンはからかいもせずにそっと肩を抱いてきた

そしてその暖かな手のぬくもりに『彼』を思い出したディーンは、一つ、小さな息を吐き出していた































「ご苦労だったねっ、ディーン・・マイクもっ」

食料配給を取り仕切るエレンが、見張りから帰って来た二人を元気な声で出迎えてくれた

この偉大なる母といってもいい存在の前ではどんな男も歯向かう事無く、素直な息子に変わる

「帰ってきて直ぐで悪いけど、材料のジャガイモ・・取ってきて」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

だから二人も、酷い空腹なのにただの蒸したポテトすら今だ出来上がっていない事に不満も言えず、黙ったまま大人しく彼女が指さす食料庫へと踵を返す

だが、その時ディーンの背後、エレンの直ぐ横でこの村では聞き慣れない声の男が言った




「いいですよ、エレンさん・・・今、僕が取ってきます」




「ん?・・・そうかい?・・じゃ、頼むよ
 ほら、お前達!、この真面目でハンサムな新入りが取ってきてくれるってよっ・・・感謝しなっ!!」

「・・・感謝・・かよ・・」

マイクは隣でブツブツ言っていたが、ディーンはその声に背を向けたまま固まっていた

振り返るのが、酷く怖い

「・・・・・・」

「??・・・ディーン、どうしたんだ?」

背中に担いだライフルのベルトをきつく握り締めたまま一点を見つめて立ち尽くすディーンに、マイクは何事かと小屋に行きかけた足を止める

「・・なぁ、どこか痛むのか?・・・いつもの膝か?・・それとも・・」

「・・・なまえ・・は・・・?・・」

「へ??」

自分の前に跪き、古傷の箇所を擦りさえしてくれているマイクに、ディーンは俯いたまま微かな声で尋ねた

「・・名前って、誰の?」



聞きたい

いや、聞きたくない

グルグルとディーンの頭の中を、思い出の『彼』の面影が駆け巡る




「ああ、今声掛けてくれた新入りか?・・・・もしかして知り合いなのかよ?」

「・・いやっ・・やっぱり・」

聞かなくていい、と言おうとしたディーンより一瞬早く、振り返ったマイクは大声で叫んだ

「おーいっ!、その新入りっ・・・・お前、名前何て言うんだ?
 脚が痛くて此処から一歩も動けないこの可愛い先輩が、名前を知りたいってよ!」



すると丁寧にその男は、遠くから自分の名前を叫んだりせずゆっくりと後ろから歩み寄って来た

その足音に緊張するディーンは、自らの虚しい期待を必死で打ち消す




だが













「ディーン・・・そんなに脚が痛むのなら、僕が抱いて行ってあげるよ?」









「・・っ・・!!・・」
















振り返れば、『彼』があの頃と変わらない姿で立っていた


「・・・サム・・・サムっ?・・・本当・・に・・お前か・・?・」














「うん・・僕だよ、ディーン・・」














































「おい、ディーン・・銃が・・・・・・っ!!・・」

ガシャンと乱暴に地面に投げ出されたディーンのライフルを拾ったマイクは、そのまま顔を上げて絶句した


キスしてた

しかも熱烈なのを

男と

あの、ディーンが


「・・・ぅ・・・嘘・・だろ・・?・・」

この村に辿り着いてからというもの実は一目ディーンを見て惚れたマイクは、ソッチ方面の望みが有るか無いかを何気なくみんなに聞いて回っていた

だが誰に聞いてもディーンは無類の女好きで、これといって決まった相手は無く誘いを掛けてくる女を片っ端から相手にしているという話だったのに

それが

「・・お前っ・・・男もOKなら、早くそう言えよぉ〜・・・」









だが、やがてマイクは鼻に掛かった可愛いディーンの声を聞き、もう遅いかと呟いてその場から離れた

何故ならいつも誰かを待っていた様子のディーンの相手が、漸く彼の前に現れてくれたのだと、分かったから









end

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