かくれんぼ
何が切っ掛けか分からない

だけど、サムは突然豹変する

別に態度や表情、仕草が別人のようになってしまうのとは違う

ただ全身を纏う気配が、全く違うものに変わる


「・・ディーン・・」


ほら

今も一瞬で、サムはソレになった

「・・・やめろ・・サム・・」

「やめろって何を?・・ディーンは変な事言うんだね」

俺は幸いにも飲み干して中身がもう少なかったグラスをモーテルのベッドの上に投げ捨てて、向かい合っているサムが手を伸ばしても届かない所までシーツの上をジリジリと下がった

弟相手に、子供の頃オムツを替えてやったような相手に対して情け無いと思うが、それはサムがサムであるという前提での話だ

「ほら、もっとこっちに来ないと落ちちゃうよ?」

スッっと手を伸ばして、目を細めて微笑んでる

これはもう、サムじゃない

俺の弟じゃない





「ディーン、まさか僕が怖いの?」

「・・・こ・・怖い訳無いだろ・・っ・」
何が切っ掛けか分からない

だけど、ディーンは突然豹変する

別に態度や表情、仕草が別人のようになってしまうのとは違う

ただ全身を纏う気配が、全く違うものに変わる


「・・ディーン・・」


ほら

今も一瞬で、ディーンはソレになった

「・・・やめろ・・サム・・」

「やめろって何を?・・ディーンは変な事言うんだね」

僕は少しでも傾けたら酒がこぼれそうなグラスをゆっくりベッドサイドのテーブルに置いて、シーツの上をジリジリと下がって行くディーンを見つめる

彼は怯えてる

いや、怯えたフリをしている

「ほら、もっとこっちに来ないと落ちちゃうよ?」

スッっと手を伸ばして、目を細めて微笑んでやる

もう、ディーンじゃない男に

僕の兄貴じゃない男に











幼い頃から鍛え上げた肉体で、ディーンは狭い部屋の中を若鹿のように跳ねる

リーチの差も俊敏さとこちらの先を読む直感力で補って、彼が向っているのはバスルームだ

「・・ディーン・・どうして逃げるの?」

「・・っ・・」

ディーンの背後には外に続くドアがあるのに、そしてぶら下がれるテラス付きの窓が在るこの部屋なら2階からでも充分逃走する事が可能だというのに、彼はそうはしない

理由はもう、わかってる

「・・駄目だよ・・そんなとこに入っても」

目の前にグラスごとシーツを広げて投げつけられれば、割れたガラスの破片を避けて走るうちディーンがバスルームに駆け込む隙を与えてしまい、僕は仕方なくそのドアの前に膝を付き中に居る可愛い子兎に話しかけることになる

「・・いつもそんなふうに逃げて・・逃げ回って最後どうなる?、思い出してごらんよ」

「・・・・」

曇りガラスの向こうに、冷たいタイルの床にしゃがんだディーンの影が写っていた


どんな顔をしているか、見なくても分かる

「ディーン、僕がこれ以上怒らないうちに出て来て・・・この前みたいに酷くされたくないでしょう?」




続く沈黙

もちろん、そうだろう




「・・そう、じゃ・・・・いいんだね?」

答えは、YES

僕は部屋に備え付けの椅子を持って来ると中から鍵を掛けられた扉に向って立ち、一気にそれを振り下ろした
俺は捕まえようと伸ばして来るサムの手を逃れ、バスルームに入って冷たい床にしゃがみこんでいた

その脳裏に蘇ってくるのは、一週間前の出来事

同じようにバスルームに篭城し、ピッキングで扉を開けたサムに俺は目茶苦茶にされた

怒りに駆られた勢いのまま関節を逆さにされるような不自然なポーズで縛られ、苦痛と快楽を同時に、そして無限に与えられた俺は朝まで喘ぎと悲鳴を上げ続け、シーツは血と精液や尿にまで塗れてドロドロになった




そして、今夜も、そうなるかもしれない




「・・サミー・・・」

襲い掛かってくるサムを想像しただけで、俺の体が勝手にカタカタ震えだす

恐怖?

期待?

どちらでもない

どちらでもある





「ディーン、僕がこれ以上怒らないうちに出て来て・・・この前みたいに酷くされたくないでしょう?」




黙ったままで居ると、やがて



俺の前でバスルームの扉が、サムの手で粉々に砕かれた


















「やあ、ディーン」





予測よりも数段酷い乱暴さで、サムは笑いながらガラスの破片を浴びた俺の髪を掴むと、その狭い空間から力ずくで引き摺り出した

そして腹部、胸、頭も、硬い靴底で蹴り上げられ踏みつけられる

その圧力で破片は俺の腕に刺さって、ポタポタと滴る血はカーペットを斑に染めた


「・っ・・あっ・・・サミー・・」


俺は惨めに、無様に床を這いながらも自分が上げる悲鳴に興奮して、勃起する自分の肉体を自覚する



もっと

もっと酷くしてくれ、サム

お前は王、俺は下僕

今だけは、肉体も精神も、全てをお前に委ねたい












「今まで顔だけは傷付けないであげてたけど・・・今夜はもういいよね?」

「・・・サミー・・・」

そして見上げた頬を渾身の力を込めて叩かれれば、俺は切れた唇の血の味と限りない幸せを噛み締めて、うっとりと目を閉じた
end

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