鬼ごっこ 1
その日



ポルタ−ガイストの事件を解決して次の街に向っていたカナダの国境近くで、道の端にインパラを停めたディ−ンは突然運転席の横のドアを開け、木立の中に走り出した

昨日からずっと黙り込んでいた彼をおかしいと思っていた僕は別段慌てもせず、車を降りると些か呆れて間延びした声をその後ろ姿に掛ける

「・・ディ−ン・・何処行くの?」

しかし振り返りもせずディ−ンが森の中に消えいつまで経っても戻って来ないという事実は、この行動がトイレや吐き気から来るものではないと示していた

どうしてこんな事をしたのかを考えれば、直ぐに思い当たる

それは数日前僕が、少々彼を殴り過ぎたからだ

顔に残った青黒い痣は、事件の聞き込みに行った先の住人も怪訝に眉を潜める位




だから、ディ−ンは逃げた









「・・馬鹿だね、無駄なのに」

僕はインパラに鍵を掛けてからゆっくりとアスファルトの道を外れ、彼が消えた木々の中に入って行った

はぁはぁ

はぁはぁ




俺は負って来るであろうサムから少しでも距離を取ろうと、所々にまだ雪の残る森の中を走り続けていた

足元には大小の石、木の根、降り積もって腐葉土に変わっている木の葉

頭上は伸びた枝と生い茂る葉で、昼間でも曇り空の微かな光ではここまで届かない

「・・っ!・・・・くそっ・・」

やがて大きく踏み出し後ろに蹴ろうとした土がズルリと滑って、俺は咄嗟に横にあった枝を掴むが細いそれで体重を支えることは出来ず、ぬかるんだ水溜りに見事に膝を付いた

とっくにグチャグチャに汚れていたスニーカー共々、ジーンズも泥水で酷く汚れ染みて来る水は太腿までひんやりと冷やし、掌に刺さった大きな棘を抜く為に暫し動きを止めた俺は、荒く切れた息を必死に整えながら辺りを警戒して見回す

コンパスを車に置いて来てしまったから方角は分からず、もはや自分の視覚と聴覚だけが頼りだ

「・・・・っ!・・」

その時、微かにだが俺の耳が遠くで枝を踏みしめる、足音を捉えた

振り返れば、背後に小さな人影

「・・・っ・・サム・・」

凍りついたように固まった俺はやがてその表情まで判別出来る距離にまで近づかれ、サムが楽しそうにニッっと笑うのを見て弾かれたように再び立ち上がり、反対の方角に一目散に走り出す

鋭い葉や枝で頬を切っても、引っ掛けた上着が切れても、大きな石に躓いてジーンズが破れて血が噴出しても縺れる足を懸命に動かし、走り続けた





「・・っ!!」

そうやがて、強烈な力で締め付ける何かに足元を掬われるまでは

「ディーン・・・馬鹿だとは思ってたけど、ここまで素直に引っ掛かってくれると味気ないね」

のんびり森の中を半日散歩した僕は、設置した罠に掛かって動けなくなっているディーンを夕方近くになって発見した

「・・・サムっ・・こんな・・物、どこから・・・」

かなりのスピードで罠に足を突っ込んだのと無駄な抵抗を何時間も続けたせいで、針金が食い込んだ足首からは血が滲み全身泥と腐った葉に塗れている

だがその弱りきった姿は、傷付いた若い雌鹿のように美しかった

「・・もうゲームオーバーだから教えてあげるよ 
 僕は森に入って直ぐ反対の方角に回って、進路と思われる場所に幾つかのトラップを仕掛けたんだ
 これは猪狩りなどに多用される丸めたステンレスワイヤーを使った単純な構造だけど、
 車に有るガラクタで作れる幾つかの罠の一つ
 ・・・でも、木から逆さに吊るされるタイプに掛かるよりは良かったでしょ?」

「・・っ・・来るなっ・」

下に落ちている小枝を踏みしめ僕が近寄ろうとすると、ディーンは持っていたナイフを抜いてこちらに突きつけて来る

「へぇ・・・そんな物まで持ってたの?
 もしかして森の中でバッタリ出会ってたら、僕を殺してた?」

「・・・違うっ・・でもっ・」

「でも、武器を持って来たんだよね?・・・それってルール違反だよ」

僕は、必死にジリジリと背後に下がるディーンの手に在るナイフを蹴り上げて宙に舞わせると、それを拾って彼の喉元に付きつけた

ゴクリと、白くて細い彼の首の喉仏が上下するのに欲情しながら。冷酷に命令する

「手を出して、ディーン」

そして何度も転んで手を突いたのか、傷だらけのディーンの両手を纏めて縛り上げ横に在った丁度良い太さの木にその体を括りつけると、食い込んで出血する足首のワイヤーはそのまま罠からだけ切り離して、開かせたその脚の間に僕は膝を付く

「・・・・サムっ・・やめてくれっ・・」

ディーンは僕の手にしたナイフが自分の服を切り裂き始めるのを見て、その若葉のような色の瞳を恐怖に潤ませる

「駄目だよ、ディーン
 今日もディーンの負けなんだからお仕置きしないと・・その権利は僕にあるよ」

喉元からシャツを2枚重ねて裂いて肌蹴させ次にドロドロのジーンズと全て取り去れば、日に焼けていない真っ白彼の尻は泥に染まって惨めに形を歪ませた

「・・嫌だっ・・サミー・・こんな・・」

「こんな?・・・こんな所に誘ったのはディーンだよ、観念するんだね」

僕はワイヤーが掛かったままの足首を掴んで、大きくディーンの体を引き寄せた









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