Automatism 5
ディーンの言った通り、セントラルパークの東の植え込みを隅から隅まで探すまでもなく、それはあっさり見つかった

現場に着いてから、ディーン曰く軽く交信して、彼女が詳しい場所を再び教えてくれたからだ

それは血の付いた白いストールで、現時点でどのような証拠になるのかは分からないが、サムは言われた通りビニール袋に入れて科学捜査官の鑑識室に届けた

今回のレイプ事件の被害者の物ではないかと言い添えて、DNA鑑定も依頼する




サムは、ディーンを信じたかった


初めて死者を自らの体に入れて喋り出した彼を見た時は、驚いたし慌てもした

未知なる世界にパニックにもなった

でも、サムの感情はそれだけだった







それだけだったのだ








































「おはよう、新人・・昨日は随分皆の注目を集めたらしいなぁ」

激動の一日の仕事を終え精神的疲労感にグッタリしたサムがロッカーで荷物を出していると、ゴ−ドンが乱暴にその扉を叩いて言って来た

「・・注目って・・何の事ですかっ?」

これまでも鋭い視線を寄越していたゴ−ドンだが、今は明らかに敵意を現れにしている

先ほどの余りにショッキングな出来事に静かに心の整理をしたいと思っていたサムは、相手の悪意が滲む口調のせいもあってついつい厳しい表情になって向き直る

「しらばっくれるなよ、サム・・『D』と廊下で仲良くしてたらしいじゃないか、聞いてるぞ」

「・・・・・」

周囲を見れば数人がこちらをチラチラ窺っていたが、止めに入る気配は無い

どうやら彼らはゴ−ドンと同意見か、彼が怖いかのどちらかだ

「それに・・今日は一日何処に行ってた?
 俺の友達の警官が、レイプ殺人の現場でコンビを組んだお前とDを見たって言ってたんだが
 ・・勿論見間違いだよな?」

「・・僕は所長の命令に従っただけで、何も問題無い筈です」

ゴ−ドン達がディ−ンのあの力をどこまで知ってるのか分からない今、懸命に毅然とした態度を崩さないようサムは努めたが、それは虚しい努力だったらしい

「ふん・・確かに所長から直々の話だったろうが、それはただの提案だろ?
・・お前には断る権利が有る、今回に限ってはな・・なにせ相手が相手だ」

「・・・どうゆう意味ですかっ」

「知ってるんだよっ!、昔からここに居る奴らはみんななっ、ただ表向き真相を口にしないだけだっ!」

「っ・・真相ってっ・」

「Dの能力についてだけじゃない・・・奴が危険だって証明した、あの、事件もな」

そう言って顔を近付けて来たゴ−ドンは、全てを知りたいか?と不敵に笑った

「知ればお前だって、奴から離れたくなるぞ・・サム」

「・・・・・」

だがサムは何も言わずゴ−ドンを睨みつけて首を振り、その場を後にした

ディ−ン自身の事は彼の口から話して貰えるまで待つと、もう心に決めていたから









































それから数日後、凶悪連続レイプ殺人犯として、DJ・プラットは遂に逮捕された

常に現場には証拠となる物を一つも残さない、完全犯罪をやり遂げてきた極悪非道なその男を逮捕に追い込んだ動かぬ証拠として最初に突きつけられたのは、ある被害者の持ち物

そう、それはディーンが女の霊を自らに降霊させて教えた、あのストール

その後身辺を探れば、これまでの数々の証拠も家や倉庫から見つかりついにプラットは自供して、これで多くの刑事や科学捜査間を苦しめた事件も無事解決となった










「じゃ・・あのストールには・・
 被害者の血と死体があった廃車の座席シートの繊維
 それとプラットの腕の毛が一緒に付着してたってことか?、サム」

事件が解決したその日、地下の検死室に、サムはアッシュを訪ねていた

だがそこに、ディーンの姿は無い

「・・そうです、アッシュさん
 素手で殴ってなかったから、あんな酷い暴行でも死体から犯人の皮膚組織一つ検出されなかった
 それはプラットが、手に女性がしていたストールを巻いて殴ってたからです・・・・悪賢い奴ですよ・・」

「あのストールは被害者の服とセットで売られていた物らしく、同じ生地だったんだってな
 だから・・その繊維が死体に付着していても、なんら不自然じゃない・・
 それで彼女を殺してから、帰りにセルトラルパークの植え込みの奥にそれを隠すように捨てた」

「・・そうですね・・」

「プラットにしてみれば、まさか被害者の霊が捜査に協力してその場所を教えるとは思わないからな
 今回も完全犯罪だと思ってただろうよ・・・・・今回の事はディーンのお手柄だ・・それとサム、お前も」

「・・・・でも・・」

あの日以来ディーンは警察署に姿を見せず、所長に話しても彼からはちゃんとこの2日ほど休みの届出が来たので契約違反ではないとしか言われなかった

当初はもちろん混乱したサムだが、今はもう気持ちの整理もつけたしディーン話したいと思っていたのだが、その機会は取れないままだ

「アッシュさん・・・あのストールを発見したのは偶然ってことになってるんです
 ・・それもディーンじゃなくて僕が・・・って・・・・」

「そりゃそうだ・・・・お前だって分かるだろ?、どうしてかは」

アッシュは、パーティー用に伸ばしていると行った後ろ髪を手で払って、意味あり気にサムに笑いかけた

もちろんサムだって、その理由くらいは思い当たる

長年みんなが追いかけてきたレイプ犯の逮捕がディーンの特殊能力によって探し出された証拠品によるものだったとすれば、この署内での彼への反感は益々高まるからで、それを知っているディーンだからこそサムの名前であの証拠品を提出させた

あの能力を知って尚特別な態度をとらないのは、今のところ以前からディーンの友人らしい、このアッシュくらいなものだから

だがサムにすればこれでは彼の手柄を横取りしたようで気不味いし、署のみんなにも彼の能力を認め正当に評価して欲しいとさえ思う

「でも・・本当にこの事件を解決したのはディーンなのに・・・」

「・・・・・・・へぇ・・」

ポツリと呟けば、アッシュは関心したようにサムを見た

「・・なんです?」

「・・いや・・・・俺の人を見る目は正しいと確信した瞬間、だよ」

「・・・??」

そう言うとアッシュはサムが腰のホルダーに挿していた携帯をこんこんと叩いて言った

「ディーンと話してもいいって思ってるなら、掛けてみろ
 怖がって巣穴に引っ込んだ子兎ちゃんを、お前が引っ張り出せよ」

「・・?・・・は・・はいっ」

サムはその例えの意味はよく理解出来なかったがアッシュに礼を言い、早速電話するために誰も居ない裏庭へと向った
























「・・・はぁ・・・」

だが息せき切って携帯と向かい合うも虚しくコール音が鳴るだけで、サムは一人ガクリと項垂れる

折角憧れの刑事になり相棒も手に入れたと思ったのに、たった一日でその関係が解消とは悲しすぎる

しかも、自分の気持ちを上手く相手に伝えられないまま


「・・っ?!・・」

だがその時、ディーンしか来ないと思われるその場所に近づく、複数の足音をサムは聞いた








「随分のご活躍だったな、D」


やがて建物の陰から姿を見せたのは刑事のウェザリーと相棒のジムで、彼等に突き飛ばされるようにして歩いてくるのは、なんとディーン本人だ

「お前・・暫く大人しくしてたってのに、またあの不気味な力を使って証拠探しをしたんだろ?
 みんなが必死で追ってたプラットを逮捕したのが自分のお陰だと思って気持ちいいのか?、そうなんだろっ!」

「・・・っ・」

丁度署に出てきたところを捕まったのか、ジムに乱暴に壁に背中を打ち付けられてディーンは顔を歪めている

だがそれだけで一切の抵抗もせず、目を伏せたまま彼等の好きにさせていた

「それとも・・・流石に心苦しいか?
 そうでなきゃこんな所に連れ込んだ俺達を、とっくに病院送りにしてるよなぁ?・・そうだろ?」

「・・・・・」

「それとも言い訳の為の死体が近くに必要か?・・あの時みたいになっ・・この前科者が」

ウェザリーはそう言って、ディーンの前髪を掴んで無理矢理顔を上げさせる

「・・っ・」






「っ・・やめろっ!!」

サムはその瞬間、無意識のうちに飛び出していた

ウェザリーの言葉に何か引っ掛かるものを感じたと思ったが、ディーンのそんな姿に我慢出来なくなったのだ

「・・っ・・・・これはこれはサム君じゃないか・・・なんだってこんな所に居る?   
 まさか・・ここでこのサイコ野郎と密会か?、だったらお前も同類だぞ」

「ディーンはサイコ野郎なんかじゃないっ、手を離せっ!」

「・・ほぉ・・・新米刑事は署内での自分の居場所が無くなっても構わないらしいな、ジム・・」

興味が新しい対象に移ったジムは手荒にディーンを開放し、サムに向き直る

だが、ウィザリーも視線を外すと、漸くディーンが口を開いた



「・・・こいつとは所長命令で組んでただけだっ
 それにもうコンビも解消した・・たからもう、関係無いっ!」





「ディーンっ!」






そしてその場から駆け出したディーンを追って、サムもウェザリー達が止めるのも聞かずに彼の後を全力で追う

もうこんなすれ違いは沢山だと、思いながら






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