Automatism 7
冗談じゃない

冗談じゃない、としか、咄嗟にディーンの頭の中に言葉は浮かんで来なかった

暫くずっと、ボビーとアッシュ以外の人間とは口をきいていなかった

なのにこの数日、急に近づいて来た新人、サム

みんな能力を見せれば怖がって気味悪がって、前科が有る犯罪者だと知れば軽蔑の眼差しで離れて行ったのに

なのに

サムはそれどろか、好きだと言ってきた



好き




そんな感情は忘れていた

ずっと






ずっと

























はぁはぁと、検死室から懸命に離れながらディーンは居た堪れず、今日はもうこのまま帰ってしまおうかと考えていた

「ディーン、そんなに慌ててどうしたんだ?」

だがこんな時に限って廊下でばったりボビーと出会い、呼び止められてしまう

「っ・・・・ボビー・・どうも・・しない・・・・・ただ、ちょっと・・」

「とても何でもないというふうには見えないがな」

「・・・・・・」

そしてボビーはその取り乱した様子を心配したのか、近くの部屋にディーンを連れ込み尋ねてきた

「そういえば・・さっき廊下で会った時、サムはお前に連絡を取ってみると言ってたが・・話せたのか?
 ・・・まさか・・・・お前、そのサムから逃げてるんじゃないだろうな?」

「・・っ」

グッっと痛いところを突かれ誤魔化すために睨みつけるが、目敏いボビーはその頬が染まっているのに気付いたようだ

「・・・・・初めて見る表情だな、今のお前はまるで・・・・・告白された直後の女子高生だぞ、ディ−ン」

「そっ・・そんな訳無いだろっ!!
 告白なんか俺は絶対にされてないっ!、サムに告白なんかっ・・サムにっ・・・サム・・・・」

「ふぅん」

にやりと笑うボビーに、不味い、とディーンは口を噤んだがもう遅い

「なるほど、やっぱり告白されたのか・・思ったより早かったな、あいつの動きは」

ボビ−の冗談にムキなって答を返してしまったがために、結果認める事になった

だがボビーは大して驚くことも無く、納得している様子だ

「・・・やっぱりって・・」

「なんで分かったかって?
 サムがお前を見る目や態度から判断すれば、誰だって間違いなくそうゆう結論が出るぞ
 まったく・・・・若いってのはいいもんだな、何事にも真っ直ぐだ」

「・・ボビ−・・笑い事じゃないだろ?、俺なんかにそんな気持ちを持つなんて・・」


ディーンはこれはこんなふうに微笑ましいという表情で話す話題ではないと、まるで応援してやるとでも言い出しそうなボビーに釘を刺した

若くて将来有望の刑事であるサムが前科者の霊能力者に熱を上げるなど、ボビーが所長という立場なら一時の気の迷いだと諌めてくれてもいいくらいだと思ったからだ

しかしボビーは真面目な顔つきで、その小さく優しい目でディーンを見つめる

「俺は笑っても茶化してもいない・・・真面目に考えてるさ、ディ−ン
 それに誰にだって自由に愛する権利が有る、愛される資格もだ」

ディーンはそれに俯き、緩く首を振った

「・・・・・・・俺には・・無い、有る筈ないだろっ?」

「ディ−ン」

「サムが望むなら、コンビは継続する
 だけど・・あいつとの関係はそれだけだ、仕事上の付き合い・・・そうじゃないと・」

ボビ−はポンポンと、ディーンの肩を優しく叩いた

「誰にでも幸せになる権利が有るんだ・・怖がるな、ディ−ン・・・・もうあの償いは済んでるんだぞ」

「・・・・」

「・・俺も・・昔みたいなお前の笑顔をそろそろ見たい
 何も付き合えと言ってるんじゃない・・サムと楽しくやれと言ってるだけだ、ディーン」

そう言うとボビーはその部屋にディーンを残し出て行って、後には心に迷いを抱えた者が一人、ポツンと取り残された





































次の日、結局ディ−ンの告白への答はうやむやになったまま二人はボビーの計らいで元のように仕事上のコンビに戻ることになり、サムは一旦刑事課の部屋に出勤した

しかし故意か偶然かは分からないが、サムの机の上は乱雑に誰の物とも言えない資料やファイル、書類が山積みされそれらを片付けないと何も出来ない状態にされていて、これまで親しく挨拶をしてくれた他の刑事達もどこか余所余所しく時折窺うように視線を寄越すだけだ

「・・・・」

確かに長年追い続けて来た犯人検挙の手柄をディ−ンの科学では説明出来ない力で横取りされて不愉快だという気持ちも、困難な事件に立ち向かう為刑事達の団結が重要だという事も分からないでもないかから、不満の矛先が自分だけに向くのなら上手くやり過ごしてやって行こうと思いサムはどうにかデスクを整えて席に着く

「・・・・・・」

だがふと、自分の前に有った筈の内線電話が無くなっているのに気付き、周囲を見回した

「・・悪いなぁ、新入り
 故障したから暫く借りるぞ、どうせお前は使わないだろ?・・この部屋に居ないしな」

「・・・・・・そうですね・・」

ゴ−ドンがわざとらしく声を掛けて来るのに平然と応え、立ち上がったサムの足は自然と地下に向いた

もうこの刑事課の部屋に自分の居場所は無いと感じたが、不思議と少しも不安は無かった

































「ぁっ、ディ−ン」

「・・・なんだよ・・こんなとこに」

こんなに早くには誰も居ないと思って何気なく検死室の奥のスペースを覗いたサムは、そこに携帯を握って立ち尽くすディ−ンを見た

それはまるで誰かからの連絡を待っている風情で、嬉しくなったサムはもしかしてと彼の手元を指差す

「ディ−ン、もしかして待ってた?・・僕からのメール・・」

「俺は確かに待ってたが・・それはお前からの、業務連絡の、メールだ」

暗に仕事の話だけしろとディーンに睨まれて、サムは仕方なく頷き、持ってきた荷物を横の棚に置かせてもらう

「・・・なんだよ、サム・・刑事課のデスクはどうした?」

「あそこにはもう顔を出したくない、これからはここに出勤するよ」

「っ・・馬鹿言うなっ・・何言ってるんだ、お前っ」

「・・ディーン?」

からかわれるか邪魔だと言われるかは覚悟していたが、ディーンはサムの予想もしない表情で問い詰めてきた

「あいつ等に何かされたのかっ?、俺と居るから・・・お前の立場まで・・?」

「ディ−ン・・そんなこといいんだ」

「よくないだろっ!」

ディーンはサムの両腕をきつく掴んだ

「・・・・・サム・・・頼むから仲間とは上手くやれ・・・必要なんだ、これから
 お前だって分かってるだろ?・・・俺とは短い間だけだ、この後はお前はちゃんとこの署の刑事として・・」

「僕は短い間だけの相棒だなんて思ってないよ・・だからディーンも、僕をちゃんと認めて」

「・・・サム・・」

サムはまだ何か言いたそうなディーンを押し退けて、今迄よく見たことが無かった彼の部屋を見て回る

薄暗い部屋に粗末なデスクと棚、一人分のロッカー

そして恐らく所長室からだけ直通の、内線電話

「・・別に狭いここに、僕のデスクを置いてとは言わないからさ」

「当たり前だろ・・お前みたいにデカイ奴が居たら、息苦しい・・」

ディーンはその部屋に他人が存在する事に慣れないのか、居心地悪そうに塩のラインギリギリのところに立って見ている

だがサムは、ディーンがそうしながらも自分を追い出そうとしないのに、密かに感動していた

最初は指一本入っただけで、思い切り踏まれたのに

「あ・・その・・塩のラインはさ、霊避けなの?」

「・・・ああ、そうだ・・勝手に呼んでもいない霊が入ってこないように
 別に無くても大丈夫だと思うが・・・念の為にだ」

サムはうんうんと頷きながら、ふと彼の机の上に飾れている一枚の写真をに気付きそれを手にした

それはとても警察署の中の机に飾るのには相応しくない物

何故ならそこに写っているのは、血塗れの銃

赤く染まって、濡れている銃



「・・・・これ・・は・・?」

「・・・・・」

聞かれる事を予期していたのか、目を逸らしたディーンはサムの手から写真を取り上げ、元の位置に戻して言った






「話すよ、サム・・・・昔の事を・・」







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