Automatism 11

そのまま医務室のベッドから起き上がることが出来なくなったディーンに、ずっとサムは付き添った

そして少しずつ真っ青だった彼の顔色も戻りどうにか上半身だけ起き上がれるようになったのは結局次の日の昼近くになってからで、その時一人の刑事が医務室のディーンを訪ねて来た

ゴードンだった








「なっ・・なんですか?」

予期せぬ天敵とも言える人物の訪問に、自然とサムの口調も硬くなる

「・・いいんだ、サム・・中に」

後ろからのディーンの声でゴードンを部屋の中に通し自分の座っていた椅子を譲るが、サムは一言付け加えるのを忘れなかった

「彼は気分が悪いんだ・・用件は手短にお願いします」

「・・分かってる、俺は頼みがあってここに来たんだ・・了承してくれれば直ぐ帰る」

「頼み?」

ゴードンはそう言うと、突然ベッドの上で体を起こしていたディーンに向って頭を下げた

「ディーン、こんな事を言うのは虫が良すぎると怒るだろう
 だが、こうなればどんな手段を使ってもジムを助けたいっ、奴は今容疑者として鉄格子の中なんだっ
 しかも無実の罪で・・・それがどんなに辛いことか、元刑事のお前なら分かるだろう?」

サムはこれまでディーンを化け物呼ばわりしていたゴードンの今更な言い分に反論しかけたが、ディーンが手で制してくるのにぐっと我慢する

「俺はさっき取調室に強引に入り込んで、ほんの短い時間だったがジムと話した
 奴は早番の後のランニングを日課としていて、何時もあの緑色のパーカーを着ていたそうだ
 それで昨夜は途中水を買った店で、不審な酔っ払いにぶつかられたと言っていた
 多分その時ポケットに札束を入れられたんだろう、だから店で盗まれた金が彼のポケットから
 ・・・俺もマイケルもそう推理しているんだ」

「・・・・・」

「それに同時刻に、ジムと背格好がそっくりな男が死んでいたという事件が有った
 その死体の肩からは緑の色素・・・おそらくジムと同じ服を着せられていたんだ
 こいつが実際手を下した殺人犯で、そして誰かがジムを嵌めるためにこの男を操った」

「・・それで、ディーンに何を?」

「もちろん・・俺が頼みたいのはあの能力を使っての証拠探しだ、決まってるだろう」

「決まってる、だってっ!?」

当然だと言わんばかりのゴードンにサムはついに切れ、両手を広げて声を荒げた

「っ・・それが人にものを頼む態度かっ!?
 今まで散々ディーンのことを言ったくせにっ・・
 それに僕だってディーンだって、何もしないでこんな所で夜を過ごした訳じゃないっ! 
 昨夜ディーンはジムの無実を証明しようとバーテンダーの霊を自分の身体に入れようとしたんだ!」

「・・っ・・では・・それで・・」

「それでっ!!、ディーンはこうなったんだよっ!!」

まるでこんな所で寝ていないでお前達も働けと言われたようでサムは苛立ちを隠さずゴードンに背を向け部屋の中を歩き回り、ゴードンもおそらく一睡もしてないであるう真っ赤な目でディーンを見つめていた

「・・・・・」




その時、ずっと黙っていたディーンが口を開く

「ゴードン・・・もう帰れ」

「っ・・ディーン・・頼むっ、お前の力が必要なんだっ
 今までの事を許してくれとは言わない、だが謝る・・だから・・」

怒らせたと思ったのか、ゴードンはディーンに取り縋る

「待てって・・・断るとは言ってない、分かったから帰れと言ってるんだ
 体調が戻ったら、今度は覗き部屋で死んでた薬中の男の死体に話を聞いてみる
 霊体との相性もあるから力になれるかは分からないが、出来る限りの協力はするつもりだ」

「・・・・ディーンっ、すまない・・」

ゴードンは立ち上がり、漸く安堵したように息を吐いた

「それから、ゴードン
 霊の声を聞くのにも、多少の推理をしなくては上手く彼等から話を聞き出せない
 これからこの事件について分かったことがあったら、全部教えてくれ」

「・・ぁぁ、分かった・・」

そしてどうも納得できない気持ちのサムを取り残して二人の話し合いは纏まり、ゴードンはその部屋を出て行った


























その日の夕方になってディーンの体調も本来のものに戻った頃、ゴードンから新たな情報が内線電話で入った

それはジムを嵌めるかもしれない人物を洗い出しているうち、最も彼を恨んでいると思われる人物が先月に刑務所を脱獄していたというのだ

それはジムに強盗犯として逮捕されて死刑判決を受け、後に刑務所の中で自殺した実の兄が居るショーン・ケイシーという男で、どうやらそのショーンは兄の無実を未だ信じ復讐しようとしているらしく、バーで店員を射殺という状況もその兄の事件と全く同じなのだと

「それじゃ、そのショーンが覗き部屋で死んでいた男を薬で釣って殺人を犯させ
 奪った金をランニング中のジムのポケットに入れて、罪を被せた?・・復讐の為に」

「ぁぁ・・でもこれはまだ推理に過ぎない
 その男が関係している証拠も無いし、凶器の銃も見つかってないからな」

「だけど、色素と発射残渣で取り合えずジムの起訴は見送りだよね・・?」

ゴードンが齎した情報はもう一つ有り、覗き部屋で死んでいた男の鼻から銃の発射残渣が出たというジムに有利な証拠だった

「多分な
 だがそれは覗き部屋の男が現場に居たという証拠であって、ジムが殺してないという証拠にはならない
 ジムの腕の発射残渣は午前中の署での銃の訓練と説明出来たらしいが、
 まだポケットの金と、目撃者証言という証拠は有る」

「あとは全てを計画した犯人に繋がる証拠・・か・・」

「・・それが必要だ、サム」









そのために必要なのは再び霊と交信することだと分かっていても、サムは検死室に向うディーンを後ろから止めたい衝動と幾度も戦わなくてはならなかった

前回酷く吐いていたディーン、死人のように真っ青な顔色で苦しむあんな彼の姿はもう二度と見たくないと思っていたからだ

だがそれでも、心底ディーンは刑事だった

資格を失っても、仲間から見捨てられていても蔑まれても、彼等に対する気持ちを失っていない

サムはそんなディーンが何があっても仲間を信じ団結して事件に立ち向かえと教えてくれているようで、改めて彼を尊敬し大好きになった

そしていつかこの署の全ての人間が、ディーンを昔と変わらぬ気持ちで受け入れてくれればいいと思った




「やるぞ・・サム、アッシュ」

「ああ」

「・・うん」




再びディーンは検死室で死体の前に立ち、死者と交信を始めた


ジムを救う為に






































「・・指輪?」

翌日、ディーンから話を聞きサムが差し出したビニール袋の中の銀色の物体を見て、ゴードンは怪訝な顔をした

「これが・・『これが全てを解決する』?・・」

「そうディーンに憑いた霊は言ってた
 『接触してきた相手は特徴の有る指輪を鎖に通して首に掛けていた』、と
 それで、さっきもう一度あの覗き部屋の店に行って店長のトムを締め上げたら・・認めたんです」

「これを死体発見時に盗んでいたのか?」

「そうです・・・恐らくあの小部屋での殺害時に揉み合ってショーンが落とした
 おまけにトムは死体の腕に刺さってた注射器も、妙な噂が立つのを恐れて引き抜いて捨てたと
 きっとあの男はショーンが薬の過剰摂取に見せかけて殺したんでしょう」

「・・・そうか、では早くこれを調べなくちゃな」

ゴードンは頷いたディーンを熱い目で見返すと、促されるまま科学捜査課へと階段を急いで上っていった











































結局、その直後逮捕されたショーン・ケイシーは、その指輪からゴードンとマイケルが導き出した真実にショックを受け、洗いざらいジムを嵌めた自らの計画や凶器の場所も自供し、事件は無事解決した

その真実とは、あの指輪がショーンの兄が強盗殺人を犯したとされた被害者の持ち物だったという事

当時の事件を報じる新聞の被害者の写真にも指輪ははっきりとその指に写っていて、つまりそれはショーンの兄は確実に強盗にバーに押し入り金だけでなく店員の指輪も奪いその後殺していたという証拠品だった

逮捕後その指輪は兄の私物と見なされ、兄の自殺後に弟のショーンの手に渡った

皮肉にも実の兄の揺ぎ無い犯行の証拠品をずっと形見だと思い込んで身に着けていたショーンは、ずっと信じていた兄が有罪だったと分かり人生の全てを放棄して、自らも電気椅子へと座ることになったのだ






























「・・お前のお陰で助かった・・・やっぱりお前の力は凄いな・・」

無罪放免となって直ぐ、ジムは地下の検死室までやってきて、ディーンに礼を言った

心なしかジムは痩せてまだ顔色も悪かったが、その目はしっかりとディーンを見ている

「お前に酷い事をしてた俺を助けてくれるなんて・・・・今迄の事を謝らないと・・」

「いいんだ、ジム」

「・・・よくないっ・・・・・きっと・・きっと俺はずっと嫉妬してたんだ
 あの力でだけじゃなく、元から有能で誰からも信頼されてたお前のこと
 だからあの事件があって・・それに仲間も酷い怪我をして・・・・
 みんながお前を悪く言い出したから、一緒になって話を合わせたっ!
 怖かったんだっ・・・同じように言わないと今度は俺が爪弾き物にされるって
 ・・・だけど・・本当は俺はっ、あそこまで・・・・お前こと悪く思ってなかった・・っ」

「・・・いいんだ」

後悔で顔を歪め声を震わせるジムに、ディーンもう一度同じ言葉を繰り返した

そして見つめるサムの前でジムとハグを交わし、その肩をポンポンと叩いてやった





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