マリア 2
結果、僕は神に忠実であることを選んだ
飛行機を貸し出し陶器のマリア像の内部に麻薬を入れて運ばせるのを認めたフリをして、直前に軍に通報した
そして一人、空港へと向った
「ディーンっ!」
「サムっ・・お前、軍に通報したのかっ?!」
部下に荷物を積み込ませながら遠くに軍の兵士の乗る車を見つけたディーンは、裏切られたと知り僕に叫んだ
「・・そうだよっ、でもディーンは僕とここに残ってっ
その姿なら政府に協力して、麻薬の密輸を通報した神父だと言って逃げ切れるからっ!!」
偽装の為に神父の服に身を包んでいたディーンは、僕の証言が無くても立派に神に仕える青年に見える
美しいディーン
どうしてこんな事になったのか
二人きりになったら話を聞こう
もう彼等の所へは帰さない
僕が彼を守る
彼と二人で生きて行く
そう僕は思っていた
だが
「止まれっ!!、その飛行機離陸を止めろっ!!」
「っ、畜生っ!!」
ディーンの部下の一人が手にしていたマシンガンを応戦し、軍も無差別に発砲を始めてしまった
そしてその一つの銃口が、ディーンに
「っ・・・・やめろっっ!!・・ディーン、危ないっ!」
「サムっ!!」
全てがスローモーションのようになり、僕し胸に熱さを覚えて倒れこむ
それを受け止める、ディーンの腕
そして、それが僕を飛行機へと押し込める
だけど
ディーンは一緒には来られなかった
弟の僕の裏切りを知った部下はディーンを蹴落とし、空港に彼を残したまま飛行機は離陸してしまった
僕は心の中でディーンの名前を叫びながら、ただ小さくなってゆく彼を見つめてるしかなった
「・・ディ・・ン」
ディ−ンを庇って撃たれた僕は血を唇から溢れさせながら、飛び立った飛行機で彼の名前だけを呼び続けた
それに唯一逃げおおせた部下は苛立ったように僕を足蹴にし僕の裏切りを責めただけでなく、ディ−ンとの約束をもう守る必要無いと彼がずっと守って来た秘密を話し始めた
「ふん
お前、記憶が飛んでで知らなかったんだろ?、兄貴がなんで俺達の組織に入ったか
神に仕える自分と違って・・奴が人殺しや男に犯されるのが好きだとでも思ってたか?」
「・・なん・・だって・・?・・」
「あはは、そうなんだろ?
なら教えてやるよ神父様、ディ−ンがああなったのはな・・・お前の代わりだ」
僕は薄れ行く意識を必死で繋ぎと留め、男に聞いた
それはどうゆう意味かと
「知ってるだろ?
俺達が人員補給の為に、たまに子供を見繕って掠うのを
ディ−ンもそうして組織に入った、だが最初のタ−ゲットは奴じゃなかった・・お前さ」
「・・・・ぅそ・・だ・・」
「嘘なもんか、当時ディ−ンは掠って洗脳するには育ち過ぎだと思われてた
だが、吃驚
お前に入会の儀式として銃を握らせ老人を撃たせようとしたら、奴がその銃を奪って撃った
迷わず、顔色も変えず、ものの3秒もかかりゃしない
・・だからボスはディ−ンを気に入り連れて帰った・・・お前は残して」
激しい後悔が、僕の胸の中で渦巻く
思い出した
その話を聞いて漸く、無くしていた二年近くの記憶が甦る
確かにあの時突然やって来たギャング団は、僕に近くに住む親代わりをしてくれていたおじさんを撃てと命令した
撃たなければ殺される、そう思い銃を握る手が震えた事も鮮明に思い出す
「まだ話の続きはあるぜ
ディ−ンはそれから、俺達の慰安係をしながら殺人兵器への教育を受けた
分かるかよ、神父さん・・慰安係ってのは言われるがまま誰でも相手する餓鬼のことさ、夜のな」
「・・・・・」
「最初は痛がってヒィヒィ泣き喚いてたが、直ぐディーンは男の味を覚えたよ
それから後は・・・どっちも奴は優秀だったぜ?
昔散々奴の尻で楽しませて貰ってた俺が、いつの間にか奴の手下にされてたくらいだからな
・・・・って・・・おい、聞いてんのか?!」
僕の意識は絶望と後悔のまま、一旦そこで途切れる
気付けば飛行機は嵐に巻き込まれたのか、この島に墜落していた
それからは誰にも会わず、風と雨と鳥の声だけを聞いてきた
だがずっと随分と一人きりだった僕が、最近複数の人の気配を感じるようになった
遠くから叫び声や、銃声も聞こえて来る
この島はおかしい、この島はどうにかなってるとその人は言ってたけど、そうじゃない
この島に来てきっとみんな全て失ったと思うだろうけど、それは逆だ
ここは、無くしたものを取り戻す島
その証拠に
ほら見て
彼が来た
やっと来てくれた
「・・サム・・サミ−・・?・・まさか・・っ」
伸びてクシャクシャになった髪、汚れた服
だけどあの頃よりずっと綺麗な彼が
「・・サミー・・許して・・・許してくれ・・っ・・」
泣かないで、ディ−ン
悪くない
ディ−ンは悪くないよ
ほら、無くしたものを僕は今取り戻した
この島に来ていたディ−ンが、漸く僕の死体を見つけてくれた
ずっと願い続けた事
最期の僕の望み
『・・ディ−ン、愛してる・・』
僕はディ−ンが泣きながら飛行機と僕の死体に火を放つ前に彼に伝え、立ち上る煙りと共に空へと昇って行く
側に落ちていた陶器のマリアは、全てをただ静かに見つめていた
end