マリア 3
俺はディーン・ウインチェスター
オーシャニック航空815便が真っ二つに裂けてこの島に墜落し、もう二ヶ月近く
後部座席側に乗っていた俺は幸運にも生き残った人々と共に海辺で生活を始めたが、その間正体不明の者達に何人もが浚われ殺された者もいる
そして漸く数日前にもう片方の飛行機の前方に乗っていた乗客たちと合流出来、その場所の十分な湧き水と果物や魚、そして何かが起こっても反撃可能な彼等の人数にほんの少しだが心の平安を得た
もちろんその間も妙な事は起こっていたが、最近俺はその現象の一部は恐れる必要は無いと考えるようになっていた
皆が言った
森の中で襲い掛かって来る黒い煙とこの島に居る筈の無い動物、そしてもうこの世に居ない人を見たと
前者の一つは俺も遭遇したが危険を感じず、動物も白熊などの肉食獣ならともかくケイトが出会ったと言う黒い馬なら別段問題は無いどころか、捕まえられれば今後の役にも立つ
だから俺が引っ掛かっているのは、最後のもの
もしかしたら、俺も彼に会えるのではないかと
幻でも幻覚でもいいから、一目彼に会いたかった
それが、ここのところ俺が密かに一人森をうろつき回っている理由だった
「まだか?・・確かなんだろうな、この方角は」
「・・ぁぁ・・ちょっと待って、ディーン
前回来た時は頭を打ってたし・・サイードを追いかけてたから・・んー・・」
元ジャンキーのチャーリーが内部に麻薬の詰まったマリア像を密かに隠し持っていたのを知った俺は、今それを拾った場所へ案内しろと森の中でしきりに彼の背中を押しているところだ
考えが正しければそのマリア像は、俺が期待していた彼の幻ではなく真の意味で、ずっと探していた答えにたどり着く鍵だ
「はっきりしろっ、チャーリー」
「う・・ん・・・・・・・・・そ・・そうだ、ここだよ・・ここ!・・ここで拾った!」
俺は、直ぐ横の木の根元を指差す明らかなチャーリーの嘘に、持っていた鉈で脅すように近くの枝を乱暴に落としてやった
「・・嘘はやめろ
マリア像が落ちていたのはここじゃないっ、小さなプロペラ機の近くだ」
アフリカの小国から隣国に向けて飛び立った飛行機がこんな場所に有る筈はないのだが、この島ならそれも有り得ると俺はチャーリーを問い詰める
「・・ぁ・・あんた、知ってんのか??・・あのマリア像の側にプロペラ機が有ったって・・」
「・・・・・・」
やはりだ
やはり、あの飛行機がこの島に有る
彼も
「・・さっさと案内しろ・・」
俺は渋々歩き出すチャーリーの後ろを付いて、再び森の中を進んだ
俺には弟がいた
だが、共に暮らせた時間は僅か7年
両親が殺されてからなら、1年足らずだ
それでも俺は、あの時の自分の行動を後悔したことは無い
俺がああしなければ、サムが人を殺した
そして出来なければ、サムが奴等に殺されていた
どちらも地獄だ
どちらもが地獄なら、俺は第三の道を自分で選ぶ
その道も地獄には変わりなかったのだが
あの時
浚った子供達を乗せる車で俺が連れて来られたのは、この国を裏で支配していると言ってもいい組織の末端の者達が住む一角だった
だが、入会の儀式で躊躇いもせず人を殺した俺はいたく気に入られ、直ぐボスの部屋が有るという大きな建物に一人だけ通された
本当はその頃になってサムを助けたい一心で夢中になって引き金を引いた手が震えてきていたのだが、ボスと周囲の男達は感心したように幼い俺を褒める
「お前には素質が有るな、ディーン・・ああすんなり引き金を引ける子供は珍しい」
「・・・・」
何の素質かなど聞きたくなかった
ただ、サムが心配だった
たった一人、村に置いてきたサムが
「それに・・お前みたいな餓鬼は貴重だ
この国の奴らとは毛色も違う上に、殺しも出来るとなりゃ・・・将来役に立つだろうよ」
「・・・・」
「いいか?、俺達の仲間になれ、逃げようなんて思ったら・・・お前を殺すぞ」
ボスは俺の顎を掴んで脅したが、少しも怖くなかった
脅しの焦点がズレでる
俺が恐れるのはそんな事じゃない
こいつらはみんな馬鹿だと、俺は思った
「・・俺は逃げたりしない
お前の言う通り、人をいくらでも殺してやる・・・だけど、見返りが欲しい」
しっかりとボスの目を睨み付けてそう言い返せば、周囲からは口笛が鳴りボスは嬉しそうに微笑んだ
「何が欲しい、可愛い子ちゃん・・・金か?、組織で出世すりゃたんまり手に入るぞ?」
やはり馬鹿だ
金など欲しいものか
こいつらはこの世で最も大切なものが何なのか、まるで分かってない
「違う、俺が欲しいのは・・・・お前との約束、だ」
ここまでくると、周囲の男達も自分達の首領に無礼な物言いの子供を面白がる余裕が無くなったのかざわめきを増すが、流石にボスと言われる男は表情も変えずに俺に尋ねてくる
「・・ほぉ、何だ?・・何を俺に約束して欲しい?」
「弟・・弟のサムの無事をっ・・・今後部下にも一切手出しさせないと、誓って欲しい」
ボスの細めた目の中に恐ろしい光を読み取り俺は震えていたが、これだけは肝心だと毅然として言い切った
サムの為なら、何でもする
だからどうか頷いてくれと、心の中で願いながら
「・・・いいだろう、ディーン・・・ただし」
やがてボスは笑って、周囲の男達に目配せした
「今夜一晩奴等と過ごせ、人殺し以外にもお前には仕事をくれてやる
そして明日の朝まで俺に助けを求めなければ・・約束してやるさ、お前の弟の永遠の無事を・・な」
「・・・・・」
幼かった俺にはボスの言葉の意味はよく分からず、最後の部分だけを理解して安堵した
あんな事が自分に身に降り掛かるとは、知らなかったから
「ほぅら、ボスを呼ぶかぁ?・・・助けてくださいって、言ってもいいんだぞ?」
「・・っ・ひ・・・・いっ・・」
それから数十分後には、俺の口からは掠れた悲鳴しか漏れなくなっていた
男達は俺を一室に閉じ込め、順番に犯していった
最初慣らすこともされなかった尻は大きく裂けて俺は激痛の余り絶叫し、気を失ってもすぐ次の男の挿入で意識を無理矢理取り戻させられる
大きく開かれた脚の間には自分の腕程太い真っ黒なペニスが出入りし、その相手は気が付く度に違っている
「餓鬼の体は柔らかいな・・こんな小さな体のくせに、ほとんど入るぜ」
「どうだ、ディーン・・感じるか?」
また新たに男を受け入れれば、血塗れの尻から注ぎ込まれた大量の精液を飲み込めずボタボタと垂らす俺に、そんな筈はないと知って尚男は面白がって聞いて来る
だから俺は必死にサムの顔だけを思い浮かべ、意識と痛みで呼吸もままならないこの肉体を切り離した
人を殺し、こんなふうに夜彼等を相手していれば、約束は守るとボスは言った
それなら、サムは普通に暮らしてゆける
そして、何時か必ず会える
そう俺は軋むテーブルの上で揺す振られ続ける無様な自分に、必死になって言い聞かせていた
サムと会えたのはそれから3年経ってからだった
比較的設備の整った孤児院に入れてもらい金を送るのと手紙を書くことは許されたが、面会は一人前に仕事をこなせるようになるまで組織から許されていなかったからだ
「・・よお、サミ−・・元気か?」
俺は沢山の人を殺し夜は男達に身を任せたそうして汚れた身体で漸くサムの前に立つと、出来る限りの笑顔を作りあの頃から比べるとずっと成長した弟に両手を拡げて見せる
「っ・・・ディ−ン!!・・」
途端に顔をクシャクシャにして俺の胸に飛び込んで来るサム
可哀相に
余りのショックに記憶を無くし、最近では兄が居るのに何故自分は孤児院を出て一緒に暮らせないのか聞くと言う
だが俺が組織から貰う金の多くを寄附しているお陰で孤児院の職員は俺の仕事を秘密にし、子供が騙されそうな嘘で固めて今日も笑顔で俺達を出迎えてくれていた
「ディ−ン・・ディ−ン!、なんでずっと会いに来てくれなかったんだよっ?!」
「・・・・ごめんな・・」
それでも、これからサムはどんどん大人になる
既に学校での成績も良く、将来は父と同じく神父になりたいと言っていると聞いた
何時かサムが俺の仕事を知り、罪人だと責めるのだろう
「・・・サム、また来るから・・」
その日俺は自分の事は全く語らず、サムが嬉しそうに話す他愛もない事を数時間聞いて帰った
今度はいつ来るのかというサムの言葉には何も答えられないまま、何度も後ろを振り返って
→