半神 4
「・・ィーン・・」















「・・ディ・・ン・・」



「・・?・・」














「ディーンっ!!」

「っ・・・」



急激に浮上した意識の中目を開けると、そこには必死の形相で俺の頬を叩き、名前を叫ぶサムが居た


「良かったよ、間に合って・・」

「・・?・・ま・・・に合う・・って・・・?・」

俺は不思議に思い、意識を失う前にナイフを刺した腰の辺りを確認する

だが、そこは血で汚れてもいないどころかジーンズに穴も開いてなくて、元から結合していない普通の人間の体みたいだ

「・・・サム・・?・・俺達・・」

「ディーン・・最初見た時は本当に、死んでるのかと思ったよっ」

そしてサムは気を失う前とはまったく違う熱い目で見つめていてくれていて、俺は嬉しくなる

「・・どう・・なったんだ?・・切り離しは成功したんだよな・・?」

「切り離し??・・・・・・ぁ・・ああ、記憶が混乱してるんだね?
 後で話すよ、今ディーンは酷い貧血だから・・早く車に・・」

「・・貧血・・?」

確かにサムに抱えられ周囲を見渡そうとしても、目の前は黒い靄がかかったようでハッキリしない

それでもサムの体だけは心配で、俺は焦って尋ねる

「な・・なぁ、お前怪我は・・・一つだったろ、俺達・・だけど、サム・・」

「ああっ、ディーンっ!!・・もう恥ずかしいからそのうわ言の続き、起きてまで言わないでくれよっ!」

「・・・・うわ言・・??」







「・・・・・・」










「・・・・・・」









段々ぼんやりとしていた視界が明確さを増してきて、漸く俺は全てを理解した

そこは一週間前に一人踏み込んだ、廃墟のビル



「ち・・畜生っ!!・・・ジンの野郎かっ!!」



魔物のジンを追って、俺は確かに一人この場所に入っていった

そしてジンに捕まり、その掌を額に当てられたところまでの記憶が蘇ってくる

「俺はジンの幻覚を見てたのかっ・・・shit!」

余りにも腹が立って、俺はサムに抱えられたまま子供みたいにバタバタ暴れてやった

「ジンはその人が望む世界を見せるって話だ
 僕がこの廃ビルを見つけて踏み込んで・・ジンと戦っている間中ずっと、吊るされた兄貴はさ
 その・・色々・・言ってたよ・・・・・ディーンがどんな状況を望んだのかは知らないけどね・・」

何を言ったのか、サムと結合性双生児になるなんてとんでもない幻覚を見ていた俺が口走りそうな台詞、例えば『一つになりたい』とか『離れたくない』とかは、どうにでも性的な台詞として誤解が出来そうだ

「・・・・・・」

やがて精神的ショックと、一週間にも及ぶ絶食と血を抜かれた事が原因の体力低下にグッタリし、そんな俺をインパラに乗せたサムは赤面した顔を逸らしてエンジンを掛ける

「サム、言っとくけどな・・」

意地でもその誤解は解くと、俺は横に転がったペットボトルの水で喉を湿らせてからスゥゥ〜と息を吸い込み、一気に喋ろうと口を開いた

だがその直後、ずっと照れていたサムがこちらを向く

「わかってるよっ!、ディーン・・僕だって・・・・・・・・そう・・思ってるっ」

「・・・へ?」

それって・・と考えた途端カーっと俺の顔も赤面して、手は勝手にカーステレオのボリュームを上げていた








































「つまり・・僕とディーンが結合性双生児で・・
 女の子を間にして三角関係に陥った挙句、無理矢理ナイフで分離したって物語?」

「・・まあな・・」

暖めたスープから徐々に食事を増やし、柔らかなベッドに横たわり続けて丸2日

漸くサムに全てを打ち明けた俺は、流石にジェシカが出て来たとは言えず見知らぬ美人として話した

幻覚の世界で俺が行った、愚かな行いも

「でも、その世界の僕はさ・・
 ディーンが医者への手紙を偽装して、その女の子のせいにしたって知ってて彼女を追い出したんでしょ?」

「・・そうだよ・・」

「じゃ、それほど彼女は好きじゃなかったってことだね」

話を聞いたサムは、何故か上機嫌だ

「・・・・・」

「でも話の流れでもなんでも、幻覚の中で死んだからこっちの世界に戻って来れたんだ
 ・・ディーンがそうしなかったらと思うと・・ゾッとするよ」

俺は幻覚の中でサムと繋がっていた、腰の部分をそっと撫でる

些かの寂しさも感じながら

「・・ただ俺は・・離れたくて・・でも離れたくなかったのを覚えてる・・それだけだ」

多分あの状態は、永遠にサムが俺から離れて行かないという願望の具現化

分からないのは、その後だ

「でも・・どうして俺は切り離すのに同意したのか・・」

幻覚の中では、俺はもうサムが女と一緒に居るのを見たくないと考えていたし、あの世界のサムだって俺が他の奴に触れられるのさえ我慢出来ないと言ってくれていた

だからあれ以上二人くっついての人生は互いに近づく人間に対して何を仕出かすか分からないし、破滅に向うだけだという判断も理解は出来るのだが

「ぁぁ・・・ディーン、分かったよ」

「・・ん?・・・・・・・ってっっ!?」

サムは突然、俺の上に覆い被さって来た


「なっ!!、何する!!」

突然の豹変に驚く俺を尻目に、サムは俺を抱きしめて得意気に言った

「どうして離れようとしたか、知りたい?」

「・・・・・・どうしてだ・・?」

なんだかとんでもない事になったと思いながら俺が恐る恐る聞いてみると、サムは耳元で呟いた

「腰でくっ付いてたら、出来ないから」

「・・なに・・が・・?」

「ずっと離れたくないって願望は、結合性双生児になって満たしたけど・・それじゃ矛盾が有った」

俺はサムの手がゆっくり伸ばされ、ベッドサイドのスタンドの明かりのスイッチを掴むのを呆然と見つめる

「・・・・ぉ・・おい・・」

「大丈夫だよ、ディーン」

「・・・・・?・・」







「くっつき双子じゃない俺達は、体は離れ離れだけど・・・でも絶対離れない、約束するよ
 それに、こうして時々・・ディーンの『一つになりたい』って願望も叶えられるし・・ね?」

パチンと部屋に暗闇に包まれると同時にサムに言われて、俺は負けを認めたように全身の力を抜いた






end

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