Automatism 12
その日から、ディ−ンに対する刑事達の態度は掌を返したように良くなった
相棒を救われたマイケルなどは早速サムを通じて二人のデスクを刑事課の部屋に用意させるからと言って来た程で、これはディ−ンが丁重に断ったがそのやりとりは和やかでサムは嬉しくなる
こうなってみればジム同様彼等の中にも本当はディ−ンを嫌ったりしていなかった者も多いのだと分かり、また少し過ぎた仲間との団結意識の矛先が彼一人に向いてしまっだけだとディ−ン自身も知っていたのだと感じる
「・・仲間っていいかも・・」
「かもじゅなくて、いいものなんだよ・・・当たり前だろ、サム」
思わず思い出し呟くサムに、ディーンは笑った
「・・ぅん」
ジムの事件が無事解決しその日大きな事件も無かった二人は、格安でのVIP待遇に期待して何時ものゲイバ−に飲みに来ていた
今夜は仕事のシフトで抜けられないアッシュは居ないから二人だけで、そのまま良い気分でサムは杯を重ねたが酒に弱いディ−ンは隣でビ−ルを舐めるように飲み、再び後輩に抱き抱えられて店を出るなんて醜態は避ける体勢だ
「なあ、サム・・フロアに踊りに行こう」
「えっ?」
やがて曇り硝子越しに煌めくライトをじっと見ていたかと思えばディ−ンは立ち上がり、サムの腕を掴んだ
「前にもアッシュと恋人のフリでフロアに行ったんだ、面白かったぞ」
「・・・・」
逆らう暇も無くグイグイ引っ張られ、サムは男しか居ない空間に連れ出される
その多くが誰かと向かい合って、そうでない男は周囲にさりげなく視線を配り相手を探しているようだ
「・・凄い、ほんとに男ばっかりだ」
「ん?、なんだって??」
大音響で鳴り響くダンスナンバ−に互いの言葉も聞き取れず、名前を呼んでもフロアの真ん中へと一人ズンズン進むディ−ンを何人もの男が熱い視線で見つめているのに、サムは急にここが彼にとって危険極まりない場所だと気付く
「っ・・待って、ディ−ン!」
「どうしたんだ、サム?」
人を掻き分け必死になってディ−ンの手を掴み唇の動きで言葉を読み取る前に彼を胸の中に納めれば、途端に獲物を逃した狩人の溜息が辺りから聞こえる気がした
「危ないから離れないで、ディ−ン・・ここは・・」
「大丈夫だ、この店は質の悪い奴は入れないから」
「・・いや・・そうじゃなくて・・」
今だって後ろに立つ男がスリムなジ−ンズを履いたディ−ンの下半身を舐め回すように見ているのが、サムの位置からは分かる
だからサムは、やがて曲調が変わるとそれを言い訳に離れかけたディ−ンをきつく抱きしめて拘束した
「っ・・サム?!」
「静かにして、スロ−ダンスの時間だよ」
「・・・・」
ディ−ンが自分と踊りたがったのがこうゆうタイプのもではないと分かっていたが、もうサムは自分の腕に篭る力を制御出来なかった
誰にも渡したくない
彼を愛してる
同性に恋をしたなんてテキサスの両親が知ったら卒倒するかも知れないが、もうこの感情は止まらない
ライトが反射してキラキラ光る、ディーンの綺麗な瞳に吸い込まれる
「・・ディ−ン」
「・・サム・・」
見上げて来るディ−ンの頬に触れればそのままゆっくり目を閉じた彼に許しを貰ったようで、サムは今度は安心して唇を奪った
ここなら隠れる必要も、人目を気にする心配も無い
二人は何時しか互いに互いを求め、周囲の男達が見惚れる程の熱い抱擁をフロアの真ん中で交わしていた
「・・んっ・・」
今回は苦しそうにディ−ンが首を振るのにサムは意識して度々腕の力を緩めてやり、顔を離して潤んだ美しい瞳にも見惚れた
やがてサムは曲調が変わっても腕の力を緩めなかったが、ディーンは弾かれたように周囲を見て今更ながら自分達がしていた事を照れたように頬を赤らめた
「・・っ・・・戻ろう・・サム」
「・・・ぅん・・」
もちろんいつまでもこうしていたかっただが、同時にこれからの事も期待してしまうのが男の性
だから手を繋いだまま抱き合う男達を掻き分け元のVIPル−ムへの廊下を行けばもう理性は限界で、サムはディ−ンを問答無用で抱き上げ乱暴にドアを蹴る
「っ・・今日は酔ってないぞっ」
「知ってる・・」
直ぐに部屋のソファに下ろすと、覆い被さってディーンのジ−ンズに手を掛けた
「っ・・サム!・・ちょっ・」
「・・っ・・」
ベルトを外し強引に手を入れれば、ディ−ンはサムの腕を掴み首を振る
「待て・・・待てってっ、ここじゃ・・・・ゃ・・だっ」
頭に血が上ってはいたがサムは自分達が今居る場所をちゃんと認識出来ていて、だが突然服を乱されたディ−ンは焦った様子で制止してくる
恐らくVIPルームといっても監視カメラは設置されているだろうから、第三者に見られている可能性が高いのだ
「・・分かってる・・分かってるからっ、最後までしないから・・・・お願いだよ、ディ−ン」
「って・・何を・・・・っ」
もちろん今すぐディーンと一つになれるものならなりたいが、嫌がる彼を無理強いするのも誰かにそんな彼を見せるのも絶対に嫌だからと、サムはス−ツのズボンの前を緩めディ−ンと重ね合わせた
そして自分の体の影で二つの性を一緒に握り締めれば、二人の体は同時に震える
「気持ち良くなろう、それだけなら・・・いいよね・・?」
「・・・っ・・・ぁっ・・・・」
頬を薔薇色に染めて恥ずかしそうに、必死に声を殺すディーンをサムは上から観賞しながらその手を動かす
最初はゆっくり、優しく
徐々に強く、激しく
呼吸を合わせて
一つに
「・・あっ・・サムっ・・・っ」
「・・愛してる・・ディーン・・っ・・」
そして目を潤ませ、反り返り目の前に差し出された彼の喉元と鎖骨に、サムは軽く噛み付いた
全ての思いをぶつけるように、ディーンを追い詰めながら
「・・これ・・・・今拭くから・・」
やがて二人はほぼ同時に頂点を極め、二人分の体液はディーンのシャツをベッタリ汚していた
「・・・・」
テーブルに有ったお絞りでサムがゴシゴシとシャツの生地を擦る間も、ディーンは恥ずかしそうに口を噤みされるがままでいる
「・・ぁの・・これ・・クリーニング代・・僕が・」
「もういい・・サム・・・・出よう」
「・・ぇ・・」
照れ臭くなると逃げ出すのが癖のディーンはサムの前で突然立ち上がり扉を目指したのだが、体の力がまだ抜けていたのかふらついて壁に手を付く
「ディーンっ!、危ないよっ・・僕と一緒に行こう」
「っ・・いいって・・・」
こんな時ディーンは怒っているのではなく恥ずかしいだけだともう分っていたから、サムは遠慮無く彼を抱き寄せて出口へと向う
幸せだった
ディーンと他人ではなくなった気がして
許された気がして
だからサムはまだ真っ赤な顔で身を捩って暴れるディーンを、この前彼が酔った晩のように無理矢理抱き上げてやった
だが甘い気持ちで一夜を過ごしたサムが次の日遅番で午後から検死室に出勤すると、そこにディーンの姿は無かった
ガラス張りの部屋の中から数対の死体を掛け持ちさせられ酷く忙しい様子のアッシュが、なにやら慌てた様子で目配せしてくるだけだ
「・・え?・・・所長室?」
唇の動きでアッシュの伝えたいメッセージを読み取ると、サムはそのまま所長室でディーンが自分を待っているという意味に受け取り廊下を急いだ
「・・サム、来たか」
しかし所長室に入ってもボビーが難しい顔をして机の前に立っているだけで、そこにディーンの姿は見えない
それに早番で一人先に出勤する時には必ず連絡のメールが入るのだが、今日はまだ一通もディーンからのものは届いてない
「・・あの・・お呼びでしょうか・・?」
「・・・ぁぁ・・」
言い難そうなボビーの様子に嫌な予感がするも、まさかサムはそんな事を言われるとは少しも思っていなかった
だって昨日、あんな事があったから
なのに突然そんな決断するなんて、有り得ないから
「ディーンはこの警察署での勤務を辞める・・・だから君とのコンビも解消だと、そう言ってきた」
だがボビーはサムに、静かにそう告げたのだ
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