Automatism 13
「なっ・・なんでですかっ!、そんな筈無いっ
 昨夜ディ−ンと飲んだけど、そんな様子は少しも・」

「落ち着け、サム」

呆然とし直後叫んだサムに、ボビ−は自らに言い聞かせるように言った

「実は辞めるという話は直接彼から聞いたんじゃない・・ついさっきファクスで届いた
 それにディ−ンの居場所は分からない、家に電話しても出ないし、携帯も切られてる
 だが・・・留守電のメッセージは誰かに脅されて喋っているものではなかったんだ」

「暗号が無い?」

「ああ、確かに彼の意思だ」

このニューヨーク署では銃や凶器を突き付けられて電話させられたり、自分の意思に反した言葉を書かされている時に相手にその状況を悟らせる為の暗号の言葉がいくつか有る

サムはいつかディーンがふざけて、ファンキー・タウンという言葉を俺達二人の暗号にしようと言って笑った事を思い出したが、幸か不幸かそのどれもディーンが口にしていないなら辞職は確かに彼の意図した事だ

「っ・・じゃあ!、俺がディーンを捜してきま・」

「何処を捜す?!、彼が姿を消した理由を知るのが先決じゃないのか?!」

慌てて部屋を出て行こうとしていたサムは、ボビ−の言葉で足を止めた

「っ・・理由、分かってるんですか!?」

「焦るなと言いたいところだが、時間は無いかもしれない・・まずは聞け、サム」

「・・・・」

サムは一度大きく呼吸をして、ボビーに向き直った

「実は・・先月の脱獄事件で檻から放たれた凶悪犯は、全部で5人
 3人はすぐ捕まり、今回のジョンの事件で捕まったショーン・ケイシーは拘留中
 だがもう1人が・・・ディ−ンとの因縁があるという男、アルバート・フィッシュという男だった」

「そ・・そのアルバートって奴はっ」

「あの事件以降、ディ−ンに異常な執着をみせていたらしい
 見ろ・・・今朝アルバートを担当していた刑務官が、警告の言葉と共にファックスしてきた」

「・っ・・これは・・」

ボビ−がそう言ってサムの前に差し出したのは、刑務所の中でアルバートが作っていたと思われるコラ−ジュ

そこには何処から集めたのか、ディ−ンの顔写真が何枚も重ねて貼られていて、一目見てゾッと寒気がするほどの執念だ

「もう登録が無いから、刑務官もディーンが刑事だったとは思わなかったらしい
 ただのアルバートの壁の外の恋人か何かだとな
 それに俺達はこの数日ジムの無実の証明の為に走り回っていて、アルバートのことは誰も・・
 あの事件当時この署に居た刑事ももう少なくなったし、気付かなかった・・・迂闊だったよ」

「・・・・」

「サム・・・こいつは児童連続殺害犯だったが、今回のタ−ゲットはディ−ンだろう
 恐らくディーンは、この署やお前に迷惑をかけまいと姿を消した
 昨夜お前と別れてからこれを知ったか、或はアルバートが何らかの形で彼に接触を謀ったか
 ・・・サム、彼を見つけてくれ・・頼む」



サムは頷くと、その言葉が終わるか終わらないかのうちに部屋を飛び出し廊下を走り始めていた

ただ一つ、ディーンの無事を祈って







































サムは一人、車の中に居た

その助手席のシ−トにはアルバート・フィッシュの事件についての資料が置かれ、信号で止まる度に急いでそれに目を通しながら取り合えずディーンのマンションへと急ぐ

ボビーは自宅への電話に誰も出ないと言ったが、サムは何か手掛かりをディーンが残して行ってくれているのではないかと思ったからだ

「・・ディーン、ディーンっ、居る?!」

鉄製の外階段を凄い勢いで上りドンドンと扉を叩くが応答は無く、ドアを蹴破る前に確認するようにドアノブを回せばそれはすんなりと開いた

「・・・・っ・」

そして用心のため銃を構え部屋の中に入って行ったサムは、すぐに机の上に電源が切られたままの彼の携帯電話と、見慣れた文字の一枚のメモを発見する




 『これを読んでいるのは、サムだよな? 

  サム  
  今度お前に会う時は死体置き場かもしれない
  俺は覚悟している
  だから俺を探さないでくれ
  これ以上犠牲者は出せない
  俺のせいで人を傷つけたくない  
  
  今までの事は感謝している
  でも  もうさようならだ      D  』
 



酷く急いで書かれたような、乱れた文字

「・・・っ・・ディーン・・」




ピーピー

その時サムの携帯が鳴り、でると捜査の協力を申し出てくれたマイケルが慌て口調で話し始めた

「サム、マズイぞ・・・ディーンに良く似た男がそこから3ブロック先の銃砲店でコルト1911を買ってる」

「・・じゃ、マイケル・・まさかディーンは、一人でアルバートを?・・」

「ああ・・逮捕か、殺す気か・・・それとも相打ちでもいいと思ってるかだな」

今度会う時は死体置き場と、ディーンのメモの不吉な文面がサムの頭を過ぎる

「・・そんなことさせないっ・・・一人では闘わせない、絶対っ!」

「もちろんだ・・一旦合流しよう、サム・・・・冷静にな」

サムはあの事件依頼協力的になったマイケルを頼もしく思いながら、急いで待ち合わせの交差点に車を回した






































普段サムと一緒の時は一切運転はしないディ−ンだったが、以前から彼を知るマイケル曰く車もバイクの免許もディーンは持っていて、銃の次には移動の為何かをレンタルしたという推理に落ち着いた

24時間営業の店をまずディ−ンの住まい近くから聞き込みすれば、意外にも2ブロック先の店で彼が今朝早く車を借りたという事が分かった

それはサムから姿を消そうとするよりも、より優先して素早く移動を開始する必要が有ったのだと分かる

しかも車は黒のインパラ

彼が目立つ車を避ける余裕も無かったのかとサムは考えたが、ここにきて希望的観測をすれば少しは見つけて欲しいという気持ちもあったと思いたい

「だが、サム・・ニューヨークを離れて隣の州にでも行かれてたらお手上げだ
 俺達の管轄じゃない、手出し出来なくなるぞ・・」

「っ・・そんな・・」

二人はレンタル車両には必ずつけられているGPSを利用して居場所を探ったが、ディーンがそれを取り外したのか彼のインパラの場所は依然として分らない

そしてそのままその日一日、数台の警察車輌がインパラを捜して走り回ったが発見には至らず、やがて夜署に一本の不審な電話が掛かって来た






『殺したぜぇ

 また 一人

 もっともっと殺す

 あいつが俺のところに来るまで

 あいつが俺を見つけるまでだぁ

 そう

 鬼ごっこだよぉ

 ひっひっひっ

 楽しいよなぁ、刑事さん

 最後までルールを守って

 なぁ?

 何人目で俺を止められるかなぁ?

 ひっひっひっ・・・ひっひっひっ・・・・』






受話器の向こうの声は声紋分析の結果、確かに逃亡中のアルバートと判明した

「・・・っ」

マイケルとゴードンと共にその録音をボビーに聞かせてもらったサムは、ギリギリと歯を食いしばって耐えた

児童連続殺害犯だった男が、刑務所から逃げた途端また一人の子供を殺したのだ

それにその遺体は見つかっていないが近郊の住宅地で行方不明の男児の届出が有り、前回同様アルバートが殺害後死体を所有したまま弄んでいる可能性が高い

「サム・・発信源は42ストリートのど真ん中の公衆電話だ
 奴は恐らく車を盗んで、ニューヨーク付近を徘徊している・・・そしてそれを追うディーンもだ」

「・・アルバートはこれを鬼ごっこだと・・つまり、それまで犯行を続ける?・・」

「そうだな、だからディーンは奴を見つけようと必死だろう」

これ以上犠牲者は出せない、俺のせいで人を傷つけたくないと言っていたディーンなのにと、サムは遣り切れない思いで胸が痛んだ

全ての人との関係を断ち切り、アルバートとの決着をつけようと一人この街を彷徨うディーン

「でもっ・・ルールって何です?、何か言ってきましたか?・・条件のような事を・・」

「いや・・・・だがディーンには、奴は何か告げたかもしれん
 アルバートはわざと居場所を知らせる手掛りを、定期的に伝えている可能性も有る」

ギュとこぶしを握り締めもう一度手掛かりはないかとその録音を聞いたサムは、ある事に気付いた

「そうですっ!・・・・奴が遊びだと思っているなら、闇雲に追われるだけではつまらない

 もっとスリリングに、追う者にも情報を与えようとする・・・っ」

はっとしたように、マイケルもゴードンも顔を上げる

サムはそこまで考えて、ディーンの部屋に置かれていたままになっていた彼の携帯電話を思い出した

「っ・・ボビー、ディーンは新しい携帯を契約したかもっ
 それか、アルバートから送られてきた物を持っているか・・そうでないと犯人とのルールを守れないっ」

「・・うむ
 ・・・サム、携帯電話会社をあたってくれ
 もしそうなら、電源が入れば居場所を特定出来るぞっ」











サムは再び走り出した

ディーンを助けるために

そしてそれにはマイケルとゴードンも、他の刑事達も一緒だった





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