Automatism 14
『サム、モトローラだっ
 ・・3日前、アルバ−トらしき男が偽のIDでプリペイドの携帯を二つ契約していた』

「やっぱり・・すぐ戻るっ」

サムはゴ−ドンからの連絡を受け、たった今乗り込んだノキア社のエレベーターから回れ右をして降りた

「番号は?、署に連絡して探知を・」

『ああ、もうやってもらった
 だが電源を決められた時間にだけ入れるのがル−ルらしい、アルバ−トも馬鹿じゃない』

「それは、何時?」

『履歴では2日前の朝方と、その後毎回昼12時と夜の0時ジャストに入ってる
 朝方のは最初のコンタクトだとして、後者を通例とするなら次は1時間後だ』

「待つよ、探査出来ればいいけど」

『ああ』

サムは再び車に乗り込み、情報が届くまでニューヨ−クの街を走り始めた







『分かったぞっ!、ブルックリン橋の北とソ−ホ−の南地区だ、サム!』

それから暫くして、科学捜査室のコンピューターの光る三角型が電子地図の中で狭まり、200メ−トル範囲で二人の居場所を特定してくれたと、署のマイケルからサムに連絡が入った

「マイケル、近くに居る車輌を向かわせてくれっ、早くっ!」

『もう向ってる、大丈夫だ』

叫んだがそれより早く既に連絡を入れたと聞き、サムも即座に車の上にサイレンを取り付けると乱暴にハンドルを切り現場に向かう

ブルックリンかソ−ホ−、どちらがディ−ンかは通話記録の送受信の方向で推理するしかなくサムは電話を受けたソーホー側を彼だとしたが、もしアルバ−トがディーンに定時に電話をかけるように命令していたとすれば逆だ

しかしこうなった今、どちらにせよ二人とも確保が必要な人物だという事に変わりは無い

次々赤く変わる信号の度に減速するのももどかしい程、サムは事故を起こさないギリギリまでスピードを上げ5分もせずそのポイントに着いた

周囲を急いで見回るがそこはアーティストが多く集まる一角でも画廊が立ち並ぶ静かな地区で、黒のインパラも見当たらない

やがて集まった警察関係者やマイケル聞き込み等行い付近を捜索したが二人は発見出来ず、サムは壁に描かれた見事な壁画を見上げて虚しく息を吐いた

「・・・マイケルさん、これじゃ駄目だ
 アルバートが最終的なポイントとしている場所を予測して先回りしないと、
 到着した頃には移動してしまっていて・・とても・・」

「ああ・・そうだな」

アルバ−トとディ−ンが交わらない動線を移動している現時点で、ポイントを絞り込んでから駆けつけるこの方法では常に警察関係者は後手に回り、逮捕や保護は幸運な偶然に頼らなければ難しい

「・・・・・・」

もう一度心を落ち着けて、ディ−ンは何処に行くか、とサムは考える

ディーンはアルバ−トを追っている

そして前回は彼が最初に犯人の居場所を見つけた

「・・・前回は・・」

「ん?、なんだ、サム」

考えれば、前回アルバートは子供を欲望のままに嬲り殺し、死体を保管するのが目的だった

だが、今のアルバ−トはディ−ンに執着している

子供ではない

子供を殺したのは、恐らくディーンへの脅しと挑発

彼をおびき出す為のアイテムにすぎない

「っ・・前回のアルバ−トは、何処で捕まったんです?、たしか資料にはハーレム地区だと」

「ああ、イースト・リバー沿いの廃墟ビルの一室に住み着いていた
 ・・誘拐し、車の中で殺した子供の死体と一緒にな・・」

「そっ・・それじゃ今、イースト・リバー沿いで使われてない部屋はいくつ有りますかっ?!」

「・・・・サム
 もしかして前と同じだって言うのかっ?、アルバートは繰り返すと?・・まだ子供を・」

「違うっ! 、今回のターゲットはディーンだっ!
 アルバートは前回子供を運び込んだように、彼もどこかの部屋に誘い込みたい筈だっ
 奴が言う鬼ごっこも、きっと最終地点として部屋を事前に見繕っているっ!」

アルバートはディーンをただ殺そうとしているのではない

恐らくこのニューヨ−クの何処かで会って、彼と二人きりの時間を楽しみたいのだ

前回攫った子供の死体と楽しんだのと同じように

「・・相手が大人の男
 しかも元刑事となれば車の中や路上では無理、ということか・・確かにな」

口にしたくは無い状況を想像したのか、マイケルは顔を歪め無線機を手にした

そして署に前回と同じ条件の廃墟を探すように指示すると、再びニューヨークの街に警察車両は散っていった


































「・・・アッシュさん、どうして」

「どうしてって、お前・・俺は今日の午後はオフなんだよ!」

サムは一時間後、連絡を受けイースト・ハーレムの125丁目の交差点で、両手をブンブンと振り回しているアッシュを拾った

「午前中だって残業にならないように、凄いスピードで死体を切り刻んでたんだぞ
 ディーンがピンチって時に、のんびり検死室なんかに篭ったりお茶したりしてられるかよ」

車にそう言いながら乗り込むなりアッシュは、サムに一枚の紙をヒラヒラと振って見せた

「・・それって・」

「科学捜査班から預かって来た、イースト・リバー沿いハーレム地区の廃墟リストだ
 この中のどれかが、アルバート糞野郎が用意したデートコースの最終地点で・・
 その上目星を付けて張った所が当りじゃないと捕まえられないがな」

50箇所近く挙げられたリストは幾つかに分けられてGやMなどのイニシヤルが書かれており、担当する刑事チームや警官が既に決められていた

S、つまりサムが一人で担当すべき場所は近いブロックとはいえ5箇所も有る

「・・とても同時に見張るのは無理だ・・」

「人手不足なんだよっ・・署は今パニック状態だ
 なにせアルバートは子供をもっと殺すと犯行予告を出してやがる
 そっちの警備にも警官が沢山駆り出されてるんだ・・お陰でこっちは俺まで現場に出れるがな」

サムは改めてリストを見て、その人員配置の薄さに愕然とした

「中には警官が一人なんて場所も有る・・」

「ぁぁ、だが俺達は今やるべきことをするしかないだろ?
 ・・・取り合えず上から潰していこうぜ、サム」

「・・・・」

まるで長い間現場を駆け回っている警官のように落ち着いたアッシュに促され、サムは焦る気持ちを押さえリストの一番上に書かれた住所へと車を走らせた





















「・・そういゃあ・・お前に話しとく事があるんだ」

「?・・何です?」

最初のビルは汚水が天井から滴り落ち、余りに不潔でアルバートがホテル代わりにするのには適さないとアッシュが主張し、リストから外された

そして次のビルに向う途中、アッシュはサムに言って来たのだ

「・・ディーンの子供の頃の話だ
 前回霊に取り付かれて暴走した時の話とも関係が有るんだが・・
 俺は・・これはディーンがいずれお前に話すまでは言わないでおこうと思ってた
 だがこんな事になって・・・・言わなくちゃならない、聞いてくれ・・」

「・・・・」

「・・・サム、ディーンは・・・幼児虐待を受けた過去が有るんだ」

「ぇ・・?」

丁度次の現場に到着し止めた車の中、サムは思わずアッシュを見た

「ディーンに親は彼がまだ乳飲み子だった頃に離婚して、引き取った母親も直ぐ死んだ
 それで里親に出されたらしいんだが・・・そこで随分と殴られたらしい
 だからアルバートの事件があった時、俺はディーンが調査に加わることを止めた
 過去に味わった嫌な思い出が甦って、辛いだろうってな
 だが彼は、どうしても子供を酷い目に遭わせる犯人を逮捕したいと、奴を追ったんだ」

「・・それで、被害者の霊に取り付かれた・・」

「・・そうだ
 アルバートは廃墟のビルの一室に住み着き、そこに全部で4人の子供を連れ込んで嬲り殺していた
 相棒の刑事と一緒にそこに踏み込んだディーンは、その子供の霊に取り付かれて我を失った
 それもサム・・・取り付いた霊は一人じゃない
 殺された子供達、全部がディーンの肉体に入って彼を操った・・・・アルバートに復讐したいと」

サムはいつかディーンが話してくれた、コントロール不能になった時のことを思い返す

無念の想いがとても強い霊だったと、言っていた

だがただ強いだけではなかった

きっと

「・・・・・」

「もう手錠を掛けられていたアルバートにディーンは襲い掛かり、
 それを制止しようとした相棒に、重傷を負わせちまったって事だ・・」

「もしかして・・
 同じような体験をしたディーンの精神も・・シンクロしてた?・・子供達に・・」

「・・ああ・・残念ながらそうなんだろう
 だからこそディーンは苦しんでた・・・意識は全く無かったと言ってたが、多分あれは嘘だ」

「・・・・」

やがて曇天から遂にポツポツと振り出した雨粒をフロンドガラスに見つめながら、アッシュは言った

「・・サム
 俺はまたディーンが同じような状態になるんじゃないかって・・・それが怖いんだよ・・」

































リストの上から2番目の所はデータでは廃墟とあったが実は改装中で、数室有る空き部屋は全て調べた上管理人に鍵を掛けさせた

何よりこの数日は工事の為の人員が絶えず出入りするので、アルバートもここは使用出来ないと判断し捜査は終了する

車に戻り、より酷くなった雨の中、サムはアッシュが言った言葉を思い返していた

まったく同じ事を考えていた故に沈黙しか返せなかった、彼の不吉な予感を

「・・アッシュ
 『俺に何かあったら迷わず撃て、警告は無意味』って・・以前、ディーンに言われたんです
 でも、そんなのは絶対に嫌だ」

「・・もちろんだ、サム
 同じようになるとは限らない、俺が言ったのは一つの可能性だよ・・」

再びエンジンを掛け車を発車させるサムにアッシュも頷いてくれるが、やがて署で聞いたのか憂鬱になる事情を継げる

「だけど警察という組織が下す判断なら、現時点ではディーンも間違いなく危険人物だ
 ましてまたディーンが正気を失って、誰かを傷付けるなんてことになれば、
 もう刑事でも警官でもない彼を内部事情に精通する立場でいさせ続けた、所長の立場も危うくなる
 ディーンがアルバートと接触してしまったとしても・・精神を強く持っていることを願うだけだよ」

「・・・・・・・」
 
それから暫く走り続ける車の中には沈黙が続き、3番目の建物が特に見えた時、アッシュは突然何か閃いたように座席のシートから身を乗り出した

「っ・・・ちょ・・ちょっと待て、サム
 じゃ・・どうしてアルバートは同じ状況を作っているんだ?!」

「えっ?」

「奴は知ってる筈だろっ?、見たんだから・・ディーンの力も、特性もっ
 そうだろっ??・・・前回殺されかけたのに、何故自分を追わせ又子供を・・・」

突然の問いかけに呆然としたが、サムは直ぐ思い立ったある一つの推測にゾっとしてアッシュを見つめた

「・・まさか・・・わざと・・?」

「そのまさかかもしれない・・・・・アルバートの狙いは、ディーンの破滅かも
 また人を傷つけ刑務所送りになればディーンは終わりだ・・それこそ正気じゃいられない
 そして長年アルバートを追い続けた署長のボビーも首が飛ぶ
 警察という機関そのものの信頼性だって揺らいで・・俺達は市民からの罵声を浴びる日々だ、サム」

「・・・・・」







「アルバートは狂ってる
 狂っているからこそ、最後はディーンの手にかかって死にたいのかも
 ・・・そして、それが自分を追い詰めた俺達に対する復讐にもなる・・・」





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