Automatism 15
血に濡れた手
赤く染まった銃
荒い息と痺れた腕
全て俺は覚えていた
鮮明に全部
だから、あれは俺だった
他の誰でもない
分かってた
ずっと
サム達には考えも及ばなかったが、アルバ−トは警察の全ての動きを読んでいた
それはもちろん天才的IQを誇るアルバ−トの頭脳に因るものだと言えたが、もう一つの理由はゲ−ムの対戦相手であるディ−ンの存在だ
この闘いにサムや他の人間を巻き込む事を恐れたディ−ンはアルバ−トを追いながら警察の動きも監視し、また彼等がプロファイリングから前回と同じ条件の廃墟を調べ始めると予測していた
だから邪魔が入るのを防ぎたいと思う気持ちだけは利害が一致していたアルバ−トにそれを伝え、最後まで二人で楽しみたいならイ−ストリバー沿いの建物には逃げ込まないという密約を交わしていたのだ
そしてアルバ−トも次の警察による携帯電話の電波探査を意識してわざと前回の事件現場付近に立ったから、尚のこと警察は自分達の判断が正しいと思い込んでしまった
だが一人電波探査の結果など知らずアルバ−トから定時に伝えられる口答のヒントのみで探していたディ−ンには、彼の言う4つ目の住所を聞き地図上でその地点をマ−クした瞬間に、それがアルバ−トの現在位置を表しているものではないと分かった
ポイントをラインで繋ぐと、地図に浮かび上がったのは書きかけの五芒星
「・・・ここか・・・」
やがて完成するであろうその星型の魔よけの真ん中が、アルバ−トの示すゴ−ルだと
サムがディーンが予測した通りの推理に基づきイースト・リバー沿いの廃墟を捜索し始める随分前、ディーンはコルト1911を構え足音を忍ばせてそれらとは全く反対のハーレム地区のある建物の階段を上っていた
それは五芒星の中央部に有った取り壊し間近の無人のビルで、やがてディーンは割れた窓ガラスの隙間から入り込んだ枯葉を踏みしめる足元に不自然な跡を見つける
「・・・っ・・」
埃に、何か大きな物を引き摺ったような筋と真新しい足跡
ここだ、とディーンは確信する
確かに外観も、この階段の形式も続く廊下も以前アルバートが住み着いていた空き部屋が有った建物に似ている
そのまま誘われるように進み扉が開いたままの部屋を覗き込めば、その窓際の壁付近に布に包まれた物が無造作に置いてあった
その大きさと形状が示す予感に茫然と立ち尽くしたディ−ンは、やがて震える手でその布を剥がす
「っ・・・・畜生っ・・・・・・・本当に・・殺したのかっ・・」
中から顔を出したのは、まだ幼い男の子の死体
アルバ−トが12時間ごとに一人と決めたゲ−ムル−ルに基づいて、不幸にも犠牲にされたのだ
「俺のっ・・俺のせいだ・・・・っ」
ディ−ンは子供の死体の傍らに膝を付き、包み込む毛布を握り絞めて泣いた
もう誰も傷付けたくなかったのに、なんの罪も無い子供を死なせてしまった
そして悲しみは怒りに変わり、ディーンは人知れず吐き捨てた
「っ・・あいつを殺すっ・・絶対だ・・」
そして毛布を元に戻して立ち上がると時計を見て携帯電話の電源を入れ、たった一つ登録された番号に掛ける
これ以上の犠牲者を出さない為にも一刻も速くゴールに到達した事を、憎いアルバートに知らせる為に
だが、次の瞬間
背後からコ−ル音が聞こえ、振り返ろうとした途端後頭部に強烈な衝撃を受けた
そして薄れ行く意識の中、アルバートの声を聞いた
「ゴ−ルおめでとう、ディ−ン」
「・・・っ・・・?・・」
「やっと気付いたか?、待ちくたびれたぞ」
霞む目を開ければ、ディーンは子供の死体が置かれた直ぐ横の薄汚れたマットレスの上に寝かされていた
後ろ手にロープで縛られ、携帯電話と銃は離れた床の上に転がっているのが見える
「・・・アルバート・・・お前っ・・」
薄暗く埃が舞うその部屋でアルバートは壊れかけのソファに深く腰を下ろし、酒を飲んでディーンの覚醒を待っていたようだ
数年ぶりに対面する凶悪犯だが外見はそう老けた印象は無く、相変わらず一見は善良な市民に見える男だ
「・・僕が警察に掛けた、いかれた電話のお陰で動きやすかっただろ?
まだ子供を殺すと思い込ませれば、ほとんどの警察官が子供の誘拐防止の為に動く
僕を追うより、被害者を出さない事を優先させるからな」
「っ・・俺のアドバイスのお陰だろっ・・・」
ディーンは頭の痛みを堪えて必死に身を捩るが、鋭いナイフを握りアルバートが立ち上がるのを見てその動きを止めた
「ああ、それもある・・・確かに助かったよ、君とのデートを邪魔されないで済んだ」
「・・っ・・」
ギシリと壊れかけたスプリングが鳴り、アルバートはディーンに覆い被さるようにして上から縛られたその姿を満足気に鑑賞する
「・・・折角この場所が分かったのに・・・油断したよなぁ、ディーン
ん?・・どんな気分だ?、俺を殺したかったんだろ?・・・なのに縛られてこんな状態に」
「・・ぁぁ、殺してやるっ・・絶対だっ!」
「それもいいな・・ふふふ・・・悪くないよ、でも少し楽しませてくれ」
やがて頬を滑るナイフに息を詰めるが、望んだものを手に入れたアルバートは上機嫌で笑い声さえ立てた
「・・なぁ、ディーン・・・・・覚えてるか?、俺を逮捕した時のことだよ
今と同じように、傍らには餓鬼の死体が転がってた
残念ながら今回1つしか用意してやれなかったが、あの時は4つ・・しかもバラバラ、最高だったろ?」
「・・・・・」
「それで優秀な刑事だったお前は自分も俺にも怪我を負わせることなく逮捕を終えた・・筈だった
・・なのに・・・ふっふっ・・・それからが面白かったよなぁ?」
「・・黙れ・・っ」
唇を噛み締めたディーンの喉下にナイフが近づき、そのシャツのボタンを一つづつ弾き飛ばしてゆく
「・・隠さなくてもいいんだ、ディーン
俺は知ってるんだよ・・・お前が俺に殺された子供と同じだってな
雄に狩られて犯されて、引き裂かれるべき子供だ・・・・いや、そうされるのを待ってる
・・その証拠に・・ほら・・」
アルバートの指が、ディーンの肌蹴たシャツから覗いた胸の突起をきつく抓った
「・・っ・」
「感じるんだろ?、ディーン・・・餓鬼の頃に慣らされた体ってのは忘れないんだよ
刑事なんかやってたって、ずっと俺みたいな雄に滅茶苦茶にされたくて仕方が無かったんだ
・・・そうだろ?・・・ほぅら、こっちも・・・」
「っ・・ゃ・・やめろっ」
ジーンズをズタズタに切り裂いて、アルバートはディーンの小さく縮んだ性器を優しく撫でる
「可哀相に、怖いのか?・・・それともこうゆうのは久しぶりで緊張してる?」
やがてアルバートの吐息を股間に感じたディーンはギュっと目を瞑り、柔らかく濡れた粘膜に包まれる感覚をやり過ごそうとした
だが視覚を閉ざせば殊更にピチャピチャとアルバートが舐め回す音が耳に付き、噛みより少しだけ濃い色の叢さえ口に含んでしゃぶられる感覚も鮮明に感じてしまう
空いた手はコロコロと胸の突起を転がし、嫌々と首を振ってもディーンの肉体は遥か昔の記憶を呼び起こしてゆく
両親が離婚し直後引き取った母親も死んで、預けられた里親
最初の夜にディーンのベッドに入って来た養父
戸惑う子供に巧みな言い訳をして、服を脱がし性器を咥え、無理矢理射精をさせた
あの恐怖
あの嫌悪
あの屈辱
そして、あの悦楽
「っ・・嫌っだっ!・・やめろっ!!」
ディーンは記憶を振り切る気ように暴れ、更に奥を暴こうと指を差し入れたアルバートの体を懇親の力を込めて蹴り飛ばした
そして、少し離れた所に置いてある銃目掛け、床を蹴った
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