Automatism 18
その時、アルバートの手から銃が離れた事を確認したアッシュが、物陰から姿を現しディーンに声を掛け始めた

「っ・・ディーンっ!!、正気に戻ってくれよっ!
 このままじゃ俺達、お前を殺さなきゃならないんだぞ・・そんなの酷すぎるだろっ!!」

そしてサムもディーンに狙いを定めたまま、震える指に力を込められずにいた

「・・早く・・銃を捨ててくれ
 撃ちたくないんだっ、ディーンっ!・・・・愛してるからっ!!」

頼むから正気に返ってくれと、サムとアッシュは叫び続けた

すると





『・・っ・・・ぅっ・・・く・』







「っ!・・ディーン?」

取り付かれ精神の奥底に押し込められていた彼の意識が表層に現れ始めたのか、ディーンは首を振りやがて周囲を見回し始めた


『・・っ・・・・・?・・俺は・・・』


「・・良かったっ、戻ったんだなっ?!・・・・ほら、ディーンっ」

アッシュは今がチャンスとディーンに手を差し出し進み出て、銃を渡すように促す

だが確かにそれを見ている筈のディーンの手から銃は離れず、少しだけアルバートの米神への距離が離れただけで彼の肉体の支配権がまだ彼自身にはないと示していた


『っ・・・・だめ・・・だ・・・・・っ・・手が・・・・』


「まだ霊が中に居るのか?
 ・・ディーン、頑張れっ・・・頑張って彼等を追い出すんだっ!」


『っ・・・でも・・・・でも俺も・・同じ
 ・・・・こいつを・・殺したくて・・っ・・殺したいんだ・・・・』


「それは違うっ、駄目だっ!!」


『・・?・・どうし・・て・・・・・・・・・・っ・・・ぁぁ・・・・そう・・
 そう・・だ、本当は・・酷く殴って・・それで、逮捕す・・・つもり・・・で・・・』


ゆっくりとその身に溢れていた憎悪を理性で押し殺したディーンが銃を持つ手をアルバートの体から離して行くのを見たサムは、ホッと息を吐き出し自らも構えていた銃を下げた

あとはディーンが霊を鎮め、その体から追い出すのを冷静に待てばいい

そう思った時










「ちょっと待てよぉ、こうなっちゃ面白くない」

「っ・・」



なんとアルバートが、意識が戻った事で痛みにふらつくディーン体を引き倒し、銃を握ったまま震えるディーンの手を抱きこんでしまった

「俺はディーンのこの手で・・
 彼と、俺が嬲り殺した可愛い子供達の魂が混じった体に殺されるって決めたんだ
 ・・だからここ迄きて、やっぱり止めますと言われちゃ・・・俺の計画が狂うんだよ」

「っ・・勝手に死ね、ディーンを巻き込むなっ!」

「・・ふふ、そう言うな・・・・聞いたぞ、サム
 このディーンを愛してるって?・・・餓鬼の頃から精液塗れのこの汚れた男をか?」

「黙れっ!!」

その言葉で過去が甦ったのか再び大きく震えだし、嫌々と首を振って霊と内なる激しい闘いをしている様子のディーンに、更にアルバートは煽り追い詰める言葉を畳み掛ける

「本当はこいつ自身だって、自分が誰かに愛されるにふさわしいなんて思ってない
 そうだろ?、ディーン・・サムに教えてやれよ、お前が刑務所でも同じような事してたってな」

「・・・なん・・だって・・?」

「俺達の仲間のネットワークってのは凄いもんだ
 俺を逮捕した刑事が何処の刑務所に行ったかなんて、直ぐに分かる
 ・・そして警察関係者が刑務所なんかに入ったら、どうなるか・・・知ってるだろ?」

「・・・・・」

サムはショッキングな事実にも、ディーンが手にした銃口の行方を凝視していた

ガクガクと震えるディーンの手は、絶望のまま再び上へ上へと上がってゆく

「大抵は毎日のように刑務官の目を盗んでのリンチだ
 それが怖いなら問題を起こして、独房に自ら行けばいい
 だがディーンは余程男が欲しかったんだな、そうせずにずっと公衆便所やってたらしいぜ」

「・・やめろ・・黙れ!、ディーンを追い詰めるなっ!」

「嘘じゃない、その刑務所に居た俺の友達はみんな世話になったそうだ・・こいつの尻に」

だがアルバートはサムに見せ付けるように苦しむディーンの髪を掴むと、まるで彼の精神に止めを刺すように叫んだ




「・・いくら取り繕ってもお前は餓鬼の頃と変わらねぇっ!
 俺みたいなのに脚開いて、突っ込まれて喘ぐしか能の無い淫乱なんだ!、そうだろっ!!
 撃てよっ、撃たなきゃまた殴って犯すぞっ!!、この餓鬼がぁ!!」













次の瞬間



『っ・・!』















「や・・やめろっ!!!!」










再びカッっと見開いたその瞳がディーンのものか怨霊か、サムに区別はつかなかった

だがスローモーションのようにディーンの銃を持った手が上がるのを見て、サムは咄嗟に撃ってしまった

















ディーンを




















































































「・・・大丈夫か?、サム」

5分後

事件現場を離れ走る車の中、真っ赤な目をしてじっと前の救急車だけを見つめるサムに、マイケルは声を掛けた

「・・・・・」

軽い放心状態のサムとは違い、アッシュは素早く運ばれるディーンに同乗し処置を手伝っている

その緊迫した状況が、救急車の曇りガラスの中で忙しなく動く彼の影からも見て取れた

「彼は・・ディーンは感謝してる筈だ、サム・・・彼だって人殺しには・」

「違う・・」

「?・・何がだ」

覗き込んだマイケルの前で、漸く口を開いたサムの目からはポタポタと目から涙が溢れて落ちた

そしていまだ震えが止まらない右手を、自らギュッと握り込む

「・・あの時・・・・ディーンはアルバートを殺そうとしてなかったんだ
 怨霊になった子供達の霊と闘って・・・彼等に精神を乗っ取られそうになった瞬間
 彼は・・・・自分を・・・・っ・・・ディーンは自殺しようとしてたんだ・・っ」

「自らの頭を・・撃ち抜こうとしたのか・・?」

「・・そう・・だ、そうだった・・・撃つ瞬間に分かった、でもっ・・止まらなくて・・
 っ・・肩を撃つつもりだった・・なのに手元が狂って弾が彼の首にっ・・どうしてっ・・っ!」

マイケルはそう言って耐え切れず俯いたサムの肩を、思わず抱いた

相棒を、そしてサムがディーンを想う特別な気持ちも、もう知っている

だから










「それなら余計に、お前はディーンを助けたってことになる
 ・・・・・・大丈夫だ、サム・・・・ディーンは死なない」

なんの確証も無い言葉を、マイケルは自分でも虚しいと知りつつ言葉にした






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