Automatism 21
入院から数週間

喉の傷も抜糸が済み、折れた足のギブスは取れないもののディーンは松葉杖や杖での歩行がどうにか可能となっていた

その頃から、ディーンは漸く自殺は無いと判断されたのか手薄になかった監視の目を潜り、一人密かに身の回りの物を整理しながら逃走の計画について考え始める

歩行訓練と称して病院の中歩き回り、隙を見てこの建物から出てタクシーを拾い、一旦家に戻る

上手く誰も居ない間の時間を使ったとしてもその時点で病室に自分が居ないことが発覚するだろうから、急いで貴重品だけをバッグに詰めて空港に行き、何処行きでもいいから一番出発の速い便に乗り込んで追っ手をまく


その後は、もう誰にも連絡は取らない



サムとも



そしてその計画は、近々実行に移されようとしていた









































「なあ、サム・・多分ウサちゃんは何かを企んでるぞ」

「・・へ??」

その日サムは、ディーンのところからの洗濯物を抱えて帰ろうとして、廊下に立っていたアッシュに呼び止められた

「へ?、じゃねえよ
 なんかディーンの荷物、この前見た時より整理されてて変なんだよ
 それにずっとあいつ塞ぎ込んでて、怪我が治ったってのに元気が無いしな
 ・・だからあいつ・・・そろそろ黙って姿を消す気なんじゃねえかって」

「なっ・・・なんで、そんなこと・・?」

「・・・まあ・・・そりゃ・・恐らく誤解っていうか・・・
 お前のせいっていうか・・・ディーンが馬鹿っていうか・・なんだろうなぁ・・」

サムはアッシュの言う意味がサッパリ分からず、ディーンの病室の扉を一度振り返ってから聞いてみた

「僕が、ディーンに、何かしたって??・・怒らせた?」

「・・いや・・したって言うか・・・・逆にしてないってのが問題なのかな・・
 あいつは愛されることに慣れてないから・・事件以来お前が手を出してこないのは
 過去を全部知って、もう嫌われたからだと思ってるのかもしれない・・」

「き・・嫌うっ!!?」

とんでもない話だと、サムは思わず病院の廊下で大声を張り上げてしまった

そもそも手を出して来ないと言ったって、ディーンは怪我人だ

しかも、一時は命の危険もあった重傷

脚だって折れててついこの前まで吊られたままだったのに、それに襲い掛かったら獣以下ではないか

「冗談じゃないよ、アッシュっ!!
 僕が今までどれだけ我慢して、ここのトイレで何回抜いたと思ってるんだよっ!!
 それに今のディーンを犯したら殺すって言ったのはアッシュだぞっっ!!」

「・・・サ・・サム、落ち着けって・・・
 お前だって重傷負わせたって落ち込んで、あいつと喋るのが気不味いとかいってくせに」

「・・・・」

「・・でもな、俺達は悪くない・・もし逃走を謀るようなら、悪いのは馬鹿ウサのディーンだ」

確かに、とサムは黙り込む

アッシュの言い分だって、自分が理性を必死に保った事だって誉められこそすれ、責められる行為ではない筈だ

「・・・まあ・・取り合えず先手を打っとくか、サム
 都合良くディーンのあの力も、死に掛けて無くなっちまったみたいだしな」

「・・・ぇ・・・ええっっ!!??、嘘・・無くなったって・・ホントに??」

サムは、お前鈍過ぎなどど罵られながら、何か良い計画を思いついたらしいアッシュの後を付いて病院の廊下を出口へと歩いていった





























「まずは、ウサちゃんの巣を撤収っ!」

「・・・・・アッシュ、それはっ・・・酷くない?」

2人がやってきたのは、ダウンタウンのディーンのアパート

アッシュはそこに入るなりそう宣言して、オロオロするサムの前で早速引越し屋の電話番号を携帯で検索している

どうやら本人の居ない間に、全ての荷物を運び出してしまうつもりらしい

「・・酷い?・・・酷い訳ないだろっ?
 お前も愛してるとか言ってる割に、ディーンを分かってないな
 それとも本気じゃないのか?、あいつはもうお前の人生に必要ないのかよ?、ああ?」

「・・痛っ・・」

なにやら手にした携帯で頭をコンコン小突かれながら真剣な目でアッシュに見られ、サムは慌てて首を振った

「っ・・まさかっ・・愛してるし、退院したら一緒に住んでくれないか聞こうと思って・・
 ・・・・・・・・・って・・・・・・まさか、アッシュ・・??」

考えてみればこのディーンの家に有る荷物、何処に運び込むつもりなのか

信じられない目でアッシュを見れば、今度は平手でベシッっと思い切り叩かれる

「まさか、じゃねぇつーの!!・・お前も少しは学べよ、サム
 ディーンみたいな奴は、幸せになるって事が怖いんだっ
 信じられなくて、裏切られる前に逃げ出すんだよっ
 だから、「一緒に住んでくれないか聞こう」じゃ駄目だっ
 聞くなっ!、必要無いっ!・・聞けばノーって答えるに決まってる、怖いんだからなっ」

「・・・・・」

「・・・じゃ・・何だよ?、正解を言え、サム・・・・早ーく!!」

「・・・っ・・」

いくらなんでもそれは強引だ、とサムはもう一人の自分が言うのを聞いていたが、確かにアッシュのいう通りの強引さが無ければまたディーンは野兎みたいにピョンピョン跳ねて、何処かに行ってしまうだろうというのも納得出来る話だった

可哀相なディーン

今までの彼の人生を知ったら、そんなふうになるのも分かる

自分が告白した時だって、彼は慌てて逃げ出した

きっと今回も

グズグズと手を拱いていれば、彼を失う






「・・・アッシュ・・これから僕とディーン・・・2人で住む部屋探し、付き合ってくれ」






今度はもうあの素早い彼を逃がさないと決意したサムに、アッシュは親指を立てて、漸く満足気に笑ってくれた

「サム、大正解っ!!」









































2人が兎捕獲の計画を着々と進めて数日後

なぜかその日に限って病院に見舞いに来れないとアッシュとサム、2人から態々連絡を貰っていたディーンは、少し不自然に思いながらも唐突に訪れた逃走のチャンスを逃してはならないと、傍らに置いておいた保険証と財布を掴んでいた

そしてもう既に自宅が空き家状態になっているなど考えもせずに、早速病院を抜け出してタクシーに飛び乗ったのだ







































「でも・・杖を付いてここまで階段上がらせるなんて・・可哀相じゃないかな・・」

「馬鹿っ!
 退路を断つ、これが捕獲成功の最大の条件だぞサム・・何せ相手は素早い兎だ」

いや兎じゃなくてディーンですけど、と言いたいところを我慢して、サムはアッシュに言われたとおりディーンの部屋のクローゼットに息を潜めて隠れていた

彼がこの部屋に戻ってきて、呆然と立ち尽くしたところを取り押さえて連れ去る、という計画なのだ

そして遂に鍵を開けている音がして、クローゼットの僅かの隙間から部屋を見回し驚いているディーンの姿が見えた

「いいかっ?、サム・・ゴーーー!!!」

ゴーゴーと、まるでスワットの突入の掛け声のように2人は同時にディーンに飛び掛り、片足が不自由で背後も階段という彼はなすすべなく捕獲され悲鳴を上げた

「・・サ・・サムっ!・・アッシュもっ・・何っ・・なんなんだよっ!・・やめろっ」

「ディーン・・ごめんねっ、これは・・その・・・」

暴れるディーンに思わず謝っていたサムは、アッシュにまた叩かれる

「いいからさっさとこれ被せろっ、そんで担げっ!」

「・・・・・」

丁寧に投網や麻袋まで用意していたアッシュは、ディーンの頭にすっぽりそれを被せ視界を奪っている

仕方なくサムは哀れな状態になったディーンを担ぎ上げ、心の中で謝罪しながら運び出した








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