Automatism 22
「なんて言うか・・・これはある種、ショック療法だからな、サム」
「・・・・・・」
「容赦無くやれよ」
「・・・・・・」
ディーンは頭にスッポリ麻袋を被せられて視界を奪われたまま、走る車の中2人の会話を聞いていた
どうやら自室の荷物が何一つ無くなっていた事やこれまでのやり取りから、ディーンは自分の逃走計画は全て読まれていたのだと分かったし、2人がそれを周到に準備して阻もうとしているのだと感じる
だが、分からないのはその理由だ
「・・サムっ・・なんで・・?・・なんでこんな・・こと、するんだっ・・」
「・・・・・・」
丁寧にも投網でグルグル巻きにされた体を捩って尋ねても、その袋越しの声にサムは答えてくれない
「・・サム・・??」
「な?、サム・・・ディーンはまるで分かってねぇだろ?
本物の馬鹿だぞ、こいつ・・・やっぱり心底思い知らせなきゃ駄目だ」
ただアッシュの冷たい声が車内に響き、ディーンは益々混乱する
もしかしたら2人は自分を汚い奴だと軽蔑するだけでなく、今回の事件での勝手な行動を酷く怒っているのかもしれないと
昔は愛していると言ってくれたサムも本当は自分を憎み、入院している間は油断させようと優しくする芝居をしていただけなのかと
「・・っ・・サム・・・」
もう会わないと決めていたくせに、いざサムからそんな感情を突き付けられたら今度こそ本当に死にたくなると、ディーンは自分の矛盾した気持ちに気付く
良い思い出には出来なくても、せめて自分を恨んだりはしてほしくない
なぜなら自分はまだ、サムを愛していたから
「・・サム・・・怒ってるなら謝るっ・・・謝るから・・許してくれ・・・っ・・」
すっかり落ち込み呟いたディーンだが、彼の見えない車内ではアッシュとサムは2人顔を見合わせて項垂れ、深く溜息を付いていた
暫くすると車は止まり、ディーンは再びサムに担がれて家の玄関らしきものをくぐり廊下のような狭い空間を進めば、フワフワとした弾力を持つ物の上に下ろされる
そしてアッシュがなにやら言って出てゆく気配がすると、サムはディーンの体の拘束を解き始めた
「・・・っ・・サム・・これから俺を・・どうするんだっ?
殴るのかっ・・?・・そんなに・・そんなに、俺を・・恨んでっ・・・・・・っ!!??」
きっと廃墟の一室だと勝手に最悪の想像を巡らせていたディーンは突然麻袋を取り去られ、プハッっと息を付き周りを見渡して呆然とした
そこに有ったのは、自宅に有った家具そのまま一式
それも綺麗にセッティングされ花まで飾ってあって、今ディーンが横たわっているのは何時もの自分のベッド
違う点といえば、間取りや窓の外に見る景色だけ
「・・・こ・・・ここ・・・・は・・・??・・」
「2DK!!」
「・・は?・・」
訳が分からず混乱しギュと脚を怖がって縮めると、サムはこちらを睨みつけ大きく息を吸った
そして、一気に叫んできた
今まで聞いたことも無いような、大声で
「っ・・・・もう・・・
軽蔑されたとか、嫌われたとかっ!!、殴るのかとかっ、恨んでるのかとかっ!!
いい加減にしろ、このアホディーンっ!!、何時僕がそんな事言ったって言うんだよっ!!
様子が変だって言うなら、僕だってディーンに酷い怪我させて落ち込んでたんだっ!
その上病院で手出すなんて出来ないしっ、ずっと我慢してれば勝手に誤解して逃げ出そうって
酷いだろっ!!、ディーンは僕のこと少しも信じてないっ!・・・こんなに愛してるのにっ・・
だからもう聞くのはやめたっ・・馬鹿相手にはもう勝手にやるっ!
勝手に2人で住む家も借りたし、引越しも済ませたしっ
潤滑剤も2リットル、コンドームだって5ダース買って有るからなっ・・・・・覚悟しろっ!!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
人間は全く予想外の言葉を聞くと動きが止まる
暫く、脳がフリーズする
今のディーンは、まさにその状態
だがサムはベッドの上でちんまり座ったまま動けなくなったディーンの前で服を脱いで全裸になると、そのまま飛び掛って覆いかぶさって来た
「・・っ!!?・・」
バフッっと2人で倒れこみ、咄嗟に防御反応でディーンが肩を掴んで制止しようとすると、サムは動きを止めてじっと見つめている
そして突然それまでの怖い表情をふっと緩めると、笑った
「・・・・ディーン・・・愛してる」
そして何も言えず、ただ金魚のようにパクパクと開閉を繰り返していたディーンの唇を奪った
それはいままでの荒々しく雄々しい宣言とはかけ離れた、優しい口付け
弾力を確かめるように挟み込み、次に顎に宛がった手でそっと開かせると奥に隠れた舌を誘い出して、絡める
「・・・っ・・・んっ・・」
その感触に、ディーンも堰を切ったように押さえ込んでいた気持ちが溢れてゆく
信じてもいいのか
こんな幸福を
もう暗い闇に飲み込まれる今日に一人耐えなくてもいいのかと
「・・っ・・・サム・・」
「・・・・・・・」
息を切らし戸惑うように顔を上げれば、サムはじっと待って居てくれる
ディーンは感じた
サムはあんな過去があった自分を、思いやってくれていると
怯えていないか、怖がらせていないかと考え、決して勝手に奪ったりはしない
こんな強引なことを計画しても、あんな宣言をして自分の欲望に忠実になるフリをしても
今も何時拒まれてもいいように、サムは自らに必死に歯止めを掛けている
「・・でも・・・っ・・当たってるぞ、サム・・・」
泣きたくて笑いたくて、ディーンは顔を歪めた
サムの正直な欲望の形を太腿に感じていることが、この上も無く嬉しい
「・・だから・・愛してるって言ってるだろ、ディーン」
サムもその瞳を潤ませていて、ディーンは思った
さっきまでとは全く反対の意味で、幸せすぎて、もう死んでしまいそうだと
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