Triple rainbow 1
オーランドから50マイル以上東

大西洋岸中央の遠くに宇宙基地の発射台の見える、ある砂漠地帯の中の刑務所で、その事件は起こった

囚人同士の殺人事件



加害者の名前はジャレッド・パダレッキ、被害者の名前はディーン・ウインチェスター



加害者も被害者も、共に殺人で入所

2人は同日に刑務所入りを果たした

犯した犯罪は、それぞれ別件

同日に刑務所入りしたのは、全くの偶然



「・・僕が、殺りました・・・僕が・・・殺しました」

ジャレッド・パダレッキは、ディーン・ウインチェスターの首を絞めていた現場を発見されて直ぐ、そう刑務官に対して自供










「被害者のウィンチェスターはどんな罪でここに入った?」

「殺人です・・・まあ、それ以前にも酷い前科が数え切れない程」

この不可解な事件の担当となった2人の刑事は、現場となった房の前で話し合う

「加害者は?」

「パダレッキは、事件当時ゲイバーに勤めていました
 ある夜、店の常連に連れ出され、ホテルで性的暴行を受け殺害
 死亡推定時刻の深夜から翌朝の午前8時までの間、執拗に死体損壊を繰り返していました」

「・・それで、初犯なのに正当防衛にならなかったのか」

「そうです」

「・・・・」

「今回も・・そうなんですかね?」

「・・ん?」

「ウィンチェスターに・・・それで・・」

「・・・・違うだろう」

先輩刑事はそう答え、資料を手に部屋を出た

何れにせよ動機の解明が先決と、これから犯行に関わる全ての証言を集め、当日までの様子を明確に脳裏に再現しなければならないからだった
両手が血に染まりシャツも真っ赤に汚れたまま椅子に座らされ、ジャレッドは刑務所の入所手続きを待っていた

何も考えられずただこの汚れた体を洗いたいと、手錠に繋がれた自分の手をじっと見つめる

そんな時、その部屋の扉が開いて罵声が聞こえてきた

のろのろと顔を上げれば、そこに立つ一人の若い男

「・・・・・」

自分と同じように両腕を戒められていて尚、触れる刑務官全てを次々と殴り飛ばし、地に這わせていた

その動きはまるで舞を舞うように、鮮やかで美しい



やがて、その男と目が合った



「っ・・・」

何故か見知らぬ男の筈なのに、ジャレッドの身体に電流のような感覚が走り、思わず立ち上がる

荒い息をつき肩を上下させていた男の目からも、暴力の悦びに滾っていた暗い炎が消えてゆく



2人は対峙した

互いが何者か知らぬまま、不可解な思いに囚われて




だがその一瞬ともいえる静寂は再び彼に背後から殴りかかる刑務官に邪魔をされ、その男は穏やかな目でジャレッドを見たまま後ろに強烈な蹴りを繰り出した

再び、罵声

罵声

罵声








やがて2人は、同じように両脇を刑務官に固められ、長く暗い廊下を進んで行った










































「ディーン、こいつは初めてだ・・教えてやれ」

ある部屋に入ると数人並んでいた刑務官の中の一人が、その若い男に声を掛けた

ディーン、初めて聞く彼の名前ばかりに気を取られ、ジャレッドは初めてと言われたのが自分だと分るのに数秒を要す

目の前には太い鉄の棒が横に渡してあり、足元には一人一つずつの籠

ぼんやりと見ていれば、横でディーンは徐に服を脱ぎだした

「・・・・・・」

身体検査

肛門の中まで見るという噂のあれかと、今更そんなものに屈辱も感じないジャレッドは自分のシャツに手を掛けようとした

だが、その時

「・・っ・・」



不意に視界の端に入ったのは、鮮やかな深い藍色

ディーンの全身を飾る、刺青


それが体温が上がった時にだけ現れる、ネイティブアメリカンソーク族の精霊の紋章だと、ジャレッドは知っていた

よく、知っていた

忌まわしい、義父の記憶で







「・・・何してんだ?、脱げよ」

慣れた様子で下着まで一気に脱ぎ捨てて、ディーンは横に立つジャレッドに言ってきた

「それとも・・・脱がしてやろうか?」

からかうように小さく笑われて、漸くジャレッドの手は動き始める


彼は違う

彼は、ディーン

今日初めて会った男だ

いくらそう自分に言い聞かせても、鮮やかな刺青に体の芯が痺れて、手が震えた






「何、照れてんだよ?」

見れば、既にディーンは目の前の鉄の棒に手を付き、尻を後ろの刑務官達に突き出すようにして立っている

至近距離でこちらを覗き込むその目はヘイゼルグリーンで、男とは思えない程に長い睫毛が縁取っていた

何か言い返そう

そう思っても、途端にジャレッドの喉はカラカラに乾く

彼の少しだけ口角が上がっている肉厚の唇も、余分な脂肪など一切付いていない野生動物のような肉体も、息苦しくなるような存在感で目の前に有った


まるで、フェロモンを撒き散らす、若い雄のクーガー

何時か狩りで仕留めて、残酷な義父に嬲り殺されるのを見た事が有る

狩る側でありながら、狩られた彼を

「・・・・・」





今度こそ自分が狩られるのかそれとも又彼が狩られる側になるのかと、その時のジャレッドは彼のその汗ばんだ筋肉の煌きの齎す恍惚に、いつまでも目を細めていた





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