「これはウィンチェスター様、このような古びた教会にようこそお越しくださいました」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」




4人が城壁を潜り街の教会へ入れば、慌てて正装を着込んだと思われる司祭や見習いの神父などがずらりと並んで出迎えていた

教皇訪問の噂を聞きつけた街の人、そして多額の寄付をしているのであろう街の有力者らしき者も、欲に塗れ脂ぎった顔を並べている

「・・なんだよ・・聞いてはいたがお前って、そんなに偉いわけぇ?」

何度かその恩恵を受けた癖に、何処か面白くない顔でルゴシが隣を歩くディーンの肩に肘を置く

「っ・・触るな」

するとものの1秒も立たずにバシッと音を立てて払われるが、接触嫌悪症であるディーンにわざとベタベタ触って叩かれるのは何時もの事だから、ボビーもルゴシの襟首を小さく掴んで止めるだけだ

「ディ−ンがと言うより・・彼が今就いている地位だろう、ルゴシ
 小さな御神体が納められた5つの聖櫃
 つまりはあの胸の十字架を守る者に与えられられる『教皇』は、宗徒の間では最高位だからな」

「・・ふん・・あいつが咥え煙草でコルトぶっばなすとこ、信者に見せてやりてぇぜ」

自分の年齢の半分以上も若い教皇を取り囲み媚びへつらう態度の神父達に、ルゴシはディーンより一足先に部屋へ案内される前に密かに中指を立ててやった

「でも、ディ−ン・・不機嫌そうだよ」

「教会に泊まると、必ずあの夜の記憶を思い出さされるからだろう
 だがあればかりは俺達でもどうにも出来ん・・・行くぞ、サム」

そしてそのボビ−の言葉通り、心配するサムの背を押し3人と一匹が礼拝堂から出て行く時、ディ−ンを捕まえた司祭と彼の会話は最も思い出したくない出来事に及んでいた



















「実はジョン・ウィンチェスター様も十数年前この教会にお立ち寄り下さって
 あの荘厳で威厳に満ちたお姿が今も目に焼き付いております、ディ−ン様は本当によく似てらっしゃる」

「・・・・・」

隙有らば5世教皇に取り入ろうとする気が見え見栄の司祭は、揉み手しながらその時に使用したというカリスや香炉を見せた

だがディーンが不機嫌そうな顔を隠しもせず少しも金や権力に執着を見せないとみると、途端に好色そうな顔に変わる

「しかし・・貴方様が5世を継がれた経緯は信じ難い
 それ以前も色々な噂がこのような田舎街にまで流れてきましたがね・・」

まだ子供で教皇という地位を先代の遺言のみで継いだディーンには、羨望や嫉妬、蔑みという感情が、教会に泊まる時には何時も取り巻くのだ

神に近い者を自称する癖に、どの教会の司祭も不遠慮で無神経

地位と金しか興味が無く、ジョンが幼いディーンを性愛の対象にして寵愛していたなどという、下世話な噂話を信じている

「貴方様が悪魔に殺されかけたのをジョン教皇が庇い、虫の息で後を託したと言うのは真の話ですかな?
 随分と可愛がられたと見える・・・羨ましい限りですなぁ」

「そんな事よりっ・・・俺は『対話』を始めたい
 ここに留まれば普通の人間は目を潰されるが、いいのかっ?」

今夜のディ−ンの我慢も、遂には尽きた

これで儀式を押し留め、街の有力者の子供の洗礼の儀式でも依頼して来ようものなら眉間に銃口を突き付けてやるつもりだったが、司祭は残念そうな表情を浮かべながらもその濁った目が惜しいのか、あっさりと引き下がる

そしてぞろぞろと礼拝堂から出て行く連中全員に、ディーンはルゴシと同じく、心の中で中指を立てていた





































「Princeps gloriosissime calestis militia, sancte Michael Archangele, defende nos in praelio
 rsus principes et potestates, adversus mundi rectores tenebrarum harum、contra spiritualia
 nequitia, in calestibus. Veni in auxilium hominum;quos Deus ad imaginem  similitudinis sua
 fecit, et a ・・・・・・・・・」

誰一人居なくなった礼拝堂で、ディーンの祈りの声だけが響いた

すると

『・・・で?、見つかったの?』

閃光と共に宙に現れたそれは、大天使ミカエル

何故か小さな翼を持つ可愛い子供の姿で現れるが、真の姿は悪魔と戦う荒ぶる天使

だからなのか、兎に角性格は最悪

そのせいでこの対話と呼ばれる神への定期報告も、ディーンにとっては憂鬱極まりない

「いえ・・・まだ見つかっておりません」

『私の性格は最悪だって?・・そんな事考える暇が有ったら、

 さっさとジョンから譲り受けた十字架の1つ、悪魔から取り戻して来い!』

「・・・・」

そうだった、コイツは心を読めるんだったと、跪いたディーンは悔しげに唇を噛む

『見かけただのロザリオでも、貴重な御神体が納められた聖櫃なんだ
 万が一の為に複数に別けといたけど、全部サタンの手に渡ったらどうするんだ!
 全部揃ったらこの世の終わりだぞっ!!
 それにこの悪魔達を狂わせてる負の波動の出所も、分らないままだ』

「・・はい」

確かに言ってる内容は頷けるのだが、頭の上をわざとふざけてクリスマスの飾りを真似た姿でヒラヒラ飛ばれると、叩き落としたくなる

『別に私はこの世、なんて物はどうなったっていいけど、お前等は困るんだろ?・・・ん?』

するとその心も読んだのか、ミカエルは叩き落される前にディーンの前の地面に降り立ち、その髪をグイっと掴んだ

ブチブチと数本抜けたと分る、強烈な力で

「・・・っ」

『・・だろ?』

死ね

ディーンははっきり聞こえるように心の中で呟きながらその言葉を肯定し、わざとらしく深々と頭を下げてやった

全てはお前達の為じゃない

心の師、ジョン・ウィンチェスターの為だと付け加えて

















































こんな夜は、必ずあの時の夢を見る

人生の師とも言える、心の父、ジョンの最期の

だが覚悟して床に就こうと礼拝堂を出て暗い廊下を歩き自室へ戻ろうとすると、扉の前に気配を感じた

「・・・・・」

それは、よく慣れ親しんだ気配

ディーンは困ったような嬉しいような溜息をつき、ドアの前で丸くなる黒い塊に近づきバシッと叩いた

「何してるんだよっ・・サム」

「・・あっ・・ディーンっ・・・・・やっと帰ってきた」

そこにはサム

毛布に包まり、ディーンの部屋の前で帰りを待っていたらしい

「・・あの・・あのさ・・・・今夜、一緒に寝てもいい?」

「・・・またかよ・・」

旅で教会に泊まれない夜は宿を取るのだが、その時はディーンとサムが一緒の部屋になるのが常だった


そしてまだまだ子供のサムは、今でも時々ディーンのベッドに入って来る

「・・しょうがねぇな、ほら」

仕方なく部屋に入れて毛布を捲り、ディーンは横にサムを寝かせる

すると、微かな違和感

「・・・・・なんかお前・・最近デカクなってないか?
 ずっと子供の姿の筈じゃなかったのか?、聞いてないぞ」

「・・そうかな?・・僕、大きくなってる?」

気のせいかとも思ったが、横に寝そべってみても明らかだ

「そういえば・・・夜骨が痛いって言ったら、ボビーが成長期によくなるって」

「400年生きてて、お前・・今更成長期かよ!」

呆れてそう言えば、サムは嬉しそうにえへへと笑った

「大人っていいよな・・・僕、大人に成りたいんだ」

「・・・変な奴」

なんだかとても嬉しそうなサムの笑顔に全てが馬鹿馬鹿しくなって、ディーンは早々に一人の時よりずっと暖かいベッドに入る



他の人間は耐えられなかったが、不思議とサムにだけは触れられるのは平気だった

それはきっとこいつが子犬みたいだからだな、とディーンはその感情を理由付け、もうこんな夜は悪夢は見ないと安心して呟いた








「・・おやすみ、サミー」







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