Exorcismus 4
やがて西の森に着いた一行は2組に分かれ、ルゴシはボビーと組んで森の中へと入った

「悪かった、ルゴシ・・・お前の兄貴の事、2人に話したぞ」

すると昼間でも暗い木々の間を抜けながら、ボビーが言って来る

「・・ああ、いいって」

「サムが拗ねてた、極端に隠し事とか嫌うからな」

「ははっ、おせっかい坊やだなぁ・・・全く、他人のことなんか放っとけっての」

「・・・・そうゆう言い方をすると、怒るぞ」

「ガキだからなぁ、サムは」

「いや・・サムが、じゃない」

何の気無しにルゴシは言ったが何故かボビーはその場で足を止め、鋭い目でこちらを見つめていた

「俺が、だよ・・・俺もガキだからな」

「・・・・・・ぁ・・」

参ったと、ルゴシは先に進むボビーをやり過ごしてから頭を掻いた

辛いくせに一人格好つけている自分の方が、これでは子供のようではないか

「・・・・ボビー・・」

あの雨の夜、あんな状態の彼を拾ってから、多分もう他人ではない

見っとも無いところも見せたし、自分も見た


ルゴシは謝ろうと、ボビーを追いかける

その時


「きゃぁぁぁぁ!!」


「っ、アメリアの声だっ!」

「インパラを停めて来た方向からだなっ」
























駆け付ければ、正に今アメリアは悪魔達に取り囲まれ、連れ去られようとしてるところだった

「アメリアっ!!」

「アメリアさんっっ!!」

だがほぼ同時に現場に着いたサムの飛び蹴りとルゴシの回し蹴りが同時にその顔にヒットすれば、あっさり悪魔は気絶する

どう考えても本気で闘う必要の有るようなレベルの相手でもなく、慌てふためく悪魔から引き離したアメリアにディーンが尋ねた

「これ・・あんたの恋人じゃないだろ?」

「・・はい・・背格好は似てるけど・・・
 ねぇっ!、ラリーを知らないっ?!・・その人と同じような銀色の髪をしてるのっ!!」

銀色?、と、それを聞いたルゴシは彼女から話を詳しく聞き出さなかった自分に苦笑した

兄のラリーは、ルゴシと同じ黒髪だった

つまり、アメリアの恋人とは別人

そして知らねえと悪魔達に返されたアメリアも気が抜けたのか、その場に崩れ落ちる

「・・こんな所まで走ってきたからな、無理も無い」

「アメリアの恋人じゃないんなら・・もう帰るか、ボビー」

「うん・・インパラもお腹空いたって言ってるよ、ディーン」

なんだか馬鹿馬鹿しくなって全員で車に乗り込もうとすると、その時無謀にも悪魔の一人がルゴシを呼び止めた

「待てよっ!、勝手に持ち帰るんじゃねぇっ・・それは俺達の獲物だっ!!」

「そんな姿でも解るぜ、お前・・いや、お前達・・・その神父以外全員、悪魔じゃねぇかっ」

「特にお前はよぉ、悪魔と人間の血が混じってる
 ・・禁忌の匂いがプンプンすらぁ、この出来損ない野郎!!」



「・・っ」

ルゴシは乗り込もうと車のドアを開いたまま、その言葉に鋭く振り返った

しかし



「口は災いの元って諺・・・知らないか?」

それよりも早く、既にボビーの持つ鉈はもう一人の喉下に宛がわれ、サムの手は一人の悪魔の顎を今にも砕こうと掴み上げていた

そして、ディーンが口に突っ込んだコルトはそれだけで聖水のように悪魔の肉を焼き、ジュウジュウと音を立てている

「・・ひっ・・ひぃぃ・・」

「お前達みたいな下級悪魔でも知ってるだろ、コレの威力は
 アメリアの手前、今、俺は殺しをする気分じゃないんだ
 だが・・そんなに続きが言いたいなら、地獄に送ってやるが・・・・どうする?」

「・・っ・・わ・・悪かったっ・・許して・・くれっ・」

「・・謝るくらいなら最初から言うな」



皆、酷く怒っていた

ふざけて中指を立てて見せているディーンも

その表情はいつもと変わりないが、ルゴシには解る

自分の事をとやかく言われても知らぬふりを決め込むような彼等が、ルゴシの為に怒ってくれていた

「・・ったく・・お前等・・・・」

そしてその時、ルゴシの心の中にあった罪悪感のようなものが解けて無くなって行くのを感じた

自分なんかの命と引き換えに、母殺しの罪を背負って姿を消した兄

もし会えたなら、謝ろうと思っていた

だが、やめた

伝えたいのは感謝でも謝罪でもなく、ただありのまま


「っ・・出来損ないめっ、うしろを見せやがってっ・・馬鹿はそっちだぁぁっ!!」


ルゴシは一瞬で隙をついて反撃したつもりの悪魔達をバラバラに切り刻み、それら肉塊が地面に転がり落ちるよりも早くインパラに乗り込み、誰にも聞かれないよう心の中で呟いた


伝えたいのは、俺が今こうして生きてるって事

それだけだと











































「・・・・ここは・・?」

アメリアは目を覚まし、周りが住み慣れた自分の部屋であることに驚いた

そして必死に記憶を呼び起こしていると、ドアを開けマーサが入って来る

「おや、起きたのかい」

「おばさんっ!・・皆は、ルゴシさんたちはっ?!」

「・・それがねぇ、ついさっき出て行っちまったんだよ
 せめてアメリアが目を覚ますまではって、止めたんだけどねぇ・・」

「そっ・・そんなっ!・・私まだお礼も言ってないのにっ・・あんなに迷惑をかけて・・っ」

アメリアは急に起き上がろうとして、眩暈を起こした

「ああ、ダメだよっ、起きちゃ!
 それに・・彼等は迷惑だなんて思ってないよ」

「・・え?」

そしてマーサはアメリアにルゴシからの伝言を伝えた

自分達は悪魔達に起こった異変の原因を探る旅をしている

だから、近いうち必ず恋人はあんたの元に帰って来ると

「・・・・そう・・・そう・・よね」

悪魔だとか人間だとか、関係無いと思う程愛していたのなら待っていればいいと抱き締めてくれたあの人

自分も半分は悪魔なのだと告げたあの人がそう言うなら、信じたい


やがて流れ落ちた涙を気丈にもゴシゴシと拭ってアメリアは、笑顔でマーサに言った

「・・・・最初の晩、ルゴシさんに言われたの・・だからもう」

「?・・なんて言われたんだい?」


「イイ女は泣くな、って」


だから、これからは笑顔でラリーを待つ

そしてもし本当に帰ってきても、ほんの少しだけルゴシさんを好きになった事は、内緒











































「じゃ今回・・ルゴシのお兄さんとは、別人だったんだね」

「兄貴は黒髪だからな・・・・・でも、まぁいいってことよ
 お互い生きてりゃそのうち何処かで、擦れ違うこともあるだろ」

再び一行は、インパラの中

後部座席に座ったルゴシは、優しい目でボビーが見つめて来るのをやり過ごし、わざと軽い口調でサムに言っていた

「しっかし、フリーのイイ女ってのはいねぇなぁ」

「・・コイツの盛りのついた雄猫みたいな状態はどうにかならないのか?、ボビー」

「・・・・」

「はぁ??・・俺は健康な男なのっ

 神父で結婚出来ない可哀相なディーンちゃんとは違うんだよっ!
 それともお前、もしかしてホモかっ?・・教会関係者には多いって噂で聞くしな」

「っ・・殺すぞ、ルゴシ」

「おい・・やめろ・・そんなことより・・」

その異変にボビーだけが気付いたが、ルゴシとディーンは前と後の席で既に喧嘩を始める勢いで、それにサムも割って入る

「ホモって何?、ディーン・・僕もなれる?」

「なれるかだって?、ああなれるさっ・・ディーン教皇様に教えてもらえ、サム」

「ルゴシっ、黙れっ・・本当に殺すぞっ!!」

「おい皆、やめろって言ってるだろっ・・インパラの様子が・・・っ」

もはやこうなれば、ボビーが必死になって異変を知らせても無駄だった




「ぉ・・おぃ、その横の畑・・・まさか、人参じゃねぇ?・・・ってっ!!」

「っ・・うわぁぁっ!」

またフラフラと蛇行し始めたインパラに、後部座席のルゴシとサムが操縦不能となったボビーを助けてハンドルを引いたが、つまらぬ言い合いをしていた分だけ間に合わない

インパラは手前の用水路に再びスッポリと嵌り、驚いた拍子にその姿を黒兎に戻してしまった


「・・・・」

「・・・・」

当然キュゥゥと鳴いて項垂れるインパラ同様、また全員ずぶ濡れ

だがこれまた同じように旅の足として一人働いてくれているインパラを責める事は誰一人出来ず、一行はただトボトボと次の街へ歩き出すしかなかったのだ



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