Exorcismus 9
「・・どうにか傷口は塞がった・・・だが・・っ・・」

「こ・・こんな量の出血・・・どう考えてもヤバイだろっ」

降りしきる雨の中、どうにか軒下に運んだボビーとルゴシだったが、なす術も無く上着でディーンの体が冷えないように暖めるしか出来なかった

「こうなったら、俺が医者を探して・」

だが、不意に立ち上がりかけたルゴシの背後から、子供の声がした



「探さなくていいよ」



「は??」

振り返れば4・5歳の可愛い男の子

「・・坊主・・こんな所で何してんだ?、ママは?」

「ママの話はいいからそいつは僕に任せろ、馬鹿が寄って集っても無駄だ」

「・・なっ・・大人に向ってなんつーことを・・・・・・・・・・って??、あれ??、雨が・・」

ルゴシはいつの間にか雨が止み、雲が割れて自分達の居る場所だけに朝日が降り注いでいたのに驚く

「雨だけじゃないぞ、ルゴシ・・この子供の背中も見てみろっ」

「背中?・・・っ、はっ・・羽根っ!!?」

ボビーに指摘されて見れば頭の上に光の輪が有り、白くてフワフワの羽根も子供の背中でパタパタと動いていた

「お前・・まさか」

「そう、僕は天使・・・しかも大天使ミカエル様」

そう告げると見掛けは子供なのに凄い力で2人を押し退け、ミカエルは瀕死のディーンを覗き込む

「そして大天使様に、不可能は無いんだよ」

「・・なんか・・・すげぇムカつく餓鬼だが・・・もしかして治せるのか?」

するとミカエルは突然ルゴシの顎を掴むとグイっと唇を寄せてきて、茫然とする間に深く口付けて来た

そして咄嗟に逆らおうとするもルゴシの全身から力が抜けてゆき、開放された時には地面に倒れ込む羽目になる

「・・なっ・・・なに・・しやがるっ・・」

「暫くは動けないぞ、今お前から大量に血気を吸い取ったからな」

そうゆう事は先に言えと文句の一つも言いたいが、2人はそのままミカエルがディーンに近づくのを息を詰めて見つめた

「・・ディーン、こっ酷くやられたな・・・だけどこんな所で終わられたら、面白くないんだよ」

力無く垂れていたディーンの頭を掴み、ミカエルがルゴシから取った血気を再び唇を合わせ注ぎ込んでゆけば、見る見る青白かった頬に赤みが増し呼吸も安定したものになる

だが全てが済んで唇を離した時、ディーンの手が無意識のまま動きミカエルの体を押し退けた

「っ・・・ふ・・こんな事されて悔しいらしいな・・全く、可愛い奴だよ」

「・・ミカエル・・ディーンは助かった・・のか?」

「ああ、もう大丈夫」

ボビーもディーンを胸に抱き、眩暈で動けずにいるルゴシに頷いてやった

「さてと・・・僕はもう帰るから、この礼はちゃんと働いて返せよ
 ・・・・ああ、それからそいつ・・サムの取り扱いには注意しろ
 昔からそいつの力は桁外れで、天上界でも随分困らせられたからな」

「・・・天上界・・?」

「じゃあ、な」

ミカエルがそう言うと空からの光が一層強まり、そんな中側で眠りこているサムを憎憎しげに一度踏み付けてから、天使は空へと昇っていった

そして2人はその時、ミカエルが小さく呟いた不思議な言葉を聞いた



「・・こいつが又傍に居るなんて・・全く腐れ縁だよ」













































「・・・サム・・少し休んだらどうだ?」

天使に治療を受けたとはいえ死に掛けたディーンはベッドに寝かせてもなかなか意識を取り戻さず、その間サムはずっとその横で壁際を向いて眠る彼の背中を見つめ起きていたのか、ボビーが部屋に様子を見に行くと

「大丈夫だ、ボビー・・ディーンが目覚めるまで・・ここに居る」

「・・そうか」

ボビーは隣に置かれた椅子に腰掛け、急に大人の体格に育った体を持て余すように居心地悪そうに椅子に座りなおすサムを横目で見た

その姿はすっかり元の通りで、これが先ほどあのパウロと名乗った男を甚振って楽しんでいたのと同じ人物だは到底思えない

「サム、お前は・・・封印の首輪が外れた時の記憶が無いんだってな」

「・・うん
 ディーンのお腹から血がドクドク流れ出るのを見たら、目の前が急に真っ白になって
 ・・なんだかこれと同じ事が前にも有ったような気がしたんだけど・・・・でも・・」

「塔に閉じ込められる前の記憶は、無い筈だよな?」

コクンと、仕草だけは子供のまま、サムは頷く

「何かとんでもない事をして・・だけど何かを守りたかったのは覚えてるんだ、でも・・
 何も思い出せなくて、あの塔で牢の格子の隙間から見える空だけを見てたんだ・・ずっと・・」

あそこから助けてくれたのは、ディーン

でも初めて会った筈の彼は、なんだか懐かしくて

そして

最近は、それだけじゃなくなった

「僕はディーンに助けられてばかりだ・・何も出来ない、ディーンの為に・・」

「・・・今度の事、なんでディーンがしたのかと考えてみるとな、サム
 もうあいつは自分の目の前で誰かが死ぬのに、耐えられないんだろうと思う
 慕ってた親代わりの教皇の死を目の当たりにしているしな・・・・・だから」

「・・?」

ボビーはすっかり逞しく育ったサムの肩に、手を回した

「信頼を裏切らないように自分自身を守ることだ、ディーンに自分を恥じたりしないように
 ・・・・誇れる強さを持つんだ、それが奴の為に出来る事だぞ」

せめて奴の前で無様に死んだりしないようにな、とボビーはサムの頭を昔みたいにクシャリと撫でた

「・・・ボビー・・」

自分がまず強くなくては、優しくなんか出来ない

自分がまず強くなくては、愛する人を守れない

何もしてやれない

サムはグッと拳を握り締めると、やがて立ち上がった

「・・うん・・・・じゃあ僕、ご飯食べてくる・・インパラにも餌やってくるよっ」

「・・ああ・・新鮮な人参を暖めてやってくれ」

ボビーはサムを見送り、背を向けて寝ている筈のディーンに向き直った

「ディーンの為に、だとよ・・サムは見かけだけじゃなく、精神も大人になり始めてる
 ・・・兎に角・・せっかく塞いだ傷を又開くようなまねはするなよ
 お揃いの傷なんか俺はごめんだからな・・・・わかったか?」







「・・・・・」

そしてずっと寝たふりを決め込んでいたディーンは、ボビーが出て行ってすぐゆっくりと仰向けになり、両手で顔を覆った

あの瞬間

サムを庇ったのは、彼の命を救いたかったからじゃない

ただ昔の記憶が、ディーンを咄嗟に動かした結果だ

昔、ジョン教皇が自分を悪魔達の手から庇った時の

「・・・・畜生・・っ・・」

ディーンはそう呟き、傷む傷を庇いながら体を起こした






































深夜、一人ディーンはコルトに弾を込める

5発

「・・これで充分だ・・」

だが黒のタータンに滲む、まだ血が完全には止まってない傷口を庇って部屋から出ようとした時、扉の向こうから声を掛けられた

それは、とっくに眠っているか女の所へ時化こんでいるかと思われた、ルゴシ

「あのよぉ・・出て行くならそっちの窓からどうぞ、一応俺ボビーから見張り頼まれてるから
 ・・でも俺は行くも行かないもお前の勝手だと思うしな、好きにしろよ」

「・・お節介な奴らだ・・・」

「なにせお前とは間接チューした仲だしぃ・・・・・・・って、冗談だよ」

扉越しに銃口を向け激鉄を上げれば、その音でルゴシは声音を真面目なものに変える

「そういえば・・あのパウロ様ってのが胸に着けてたロザリオ・・あれ、お前のだろ?」

「・・どうして解った・・?」

「やっばりな・・・光ったんだよ、サムからあの男を庇うみたいに
 きっと呪われた聖書に憑り付かれたあいつの精神を支えてるのは・・あの十字架だ
 そして聖書の力に十字架が耐えられなくなった時・・・奴は・・」

「・・・・・・」

「・・・ま・・俺はどうでもいいんだけど
 お前に何かあると、煩いのが2人も居るからよ・・・いいねぇ、ディーン教皇様はモテモテで」

軽く一発殴りたい気持ちだったが、急ぐディーンは扉に背を向け、呟いた

「・・・・サムが起きる、もう黙れ」








そしてヴィクターとの対決の為、一人宿を発ち深い森へと入っていった





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