檻 9
「ショックよね?、ローガン」

少しだけ目を離した隙にシティで密かに起きていた事態をマックスから聞いたローガンは、もちろん衝撃を受けたがどうしてこんなにも自分が動揺しているのかという点でも、うろたえていた

「・・も・・もちろんだよ・・・・そんな事になってるなんて・・」

アイズ・オンリーとして一方的にジェネスティックを非難する神父と議員に疑問を投げ掛ける放送をしているところで、マックスに緊急だと呼び出され来てみればこんなジョッキングな話だった

麻薬の取引が行われているとは思っていた

その一味が金や物を盗んでいるのも

しかし、あのアレックがそんな娼婦染みた行為をしてまで、自分達に反旗を翻すとは

信じられない

信じたくない

だがマックスが自分に話した時点で、それは噂などではなくある程度の裏が取れている筈

「ねぇ・・・でも、ショックなのはどっち?
 こんなにまで奴らの勢力が大きくなってたって事?
 ・・・それとも、アレックがしてた事?」

そしてマックスは話題の深刻さに不釣合いな表情で、こちらを覗き込んで来る

「・・・・・マックス・・?」

ローガンは何故彼女がそんな顔をするのか分からず、ただ不思議に思い見返すだけだ

「ローガン・・私ずっと何時貴方が話してくれるのかって思ってたけど
 ・・どうやらずっと観察を続けた結果、自覚が無いだけって解ったのよね」

「・・?・・」

マックスが何を言ってるのか、ローガンには見当もつかない

第一今は一刻も早くこの会議室に集まって来ている各種族のリーダーとの話し合いを始めるべきで、何時ものマックスならこんなふうに部屋の隅でこそこそと2人語らっている場合ではない筈

しかしマックスは大切な話だとでも言うように、円卓の方へ向き直ったローガンを強引に自分へと向き直らせ、言った

まるで神託を告げる巫女のように




「ローガン、貴方・・アレックを愛してるわよ
 ・・・正確にはアレックも、だけどね」






































各種リーダーとの会合は、マックスが全て仕切ってすぐに終わった

流石にリーダー格のジェネスティックには造反組は居ないようだが、彼等曰く怪しい者はそれぞれの区画に多数居るということだった

マックスは早急に各部署の食料、電力、武器等の警備を強化を命じ、シティの出入り口の封鎖も実施した

「ローガン・・大丈夫?」

だが、ローガンはずっとそれを横で、ぼんやりと見ていただけだ

たった今マックスから告げられた、自分でも気付かなかった自分の感情に驚愕して動けなくなった

「・・・ぁぁ・・」

確かに、好きだった

以前マックスと付き合っていると思い込んでいたアレックには、ずっと自分は嫉妬していたのだと思っていたが、何時しか気つけば彼を目で追い、放って置けない危なっかしさに愛しい気持ちが募っていた

彼に恋人が出来たと知れば酷く落ち込み、今回の事では反乱がこのシティに起こるかもしれないという危機感さえ飛んでしまう程だった

「じゃ、自覚したなら貴方からアレックに言って
 ・・私達は何を知っても、変わらないって」

「・・マックス?」

「私、今回の首謀者のヘルマンっていう銀髪の男について聞いて回ったの
 そうしたら多分研究所でのアレックの教育係じゃないかって
 ・・・もし事実そうなら・・彼の過去を一番知ってる」

「・・それって・・まさか」

「暗殺を任されていたアレックには、言えない過去が沢山あるわ
 もしかして私達に知られたくない事で、脅されたのかも」

暗殺と、ローガンは声に出さず思わず呟いていた

確かに以前製薬会社の社長の娘を死なせてしまったと、落ち込んでいたことがあった

心から愛した女性だったと

「・・っ・」

途端に、キリっとローガンの胸は痛んだ

それが嫉妬なのだと今なら解る

もう死んでいる女性にまで、自分はジェラシーを感じている

「それにモールの話じゃ、アレックも薬を打たれてる可能性もあるわ
 その上ヘルマンに命令されてたなんて・・まるで研究所に逆戻りよ
 ・・ローガン・・私、アレックがベンみたいにならないか、心配なの」

「・・マックス・・アレックを探そう
 探して、そのヘルマンという男から守らないとっ」

「ええ、そうね・・・今朝からジョシュアに全区画捜索を頼んでもらってる
 きっともうすぐ見つかっ・・・・・・・・・・っ、ローガン、見てっ!」

頷き、何気なく顔を上げたマックスの表情が部屋に据えられていたテレビ画面のニュースを見て、一瞬で強張った

そしてローガンも、その画面の見出しに釘付けになる




『ジェネスティック排斥派議員、惨殺される』

犯人はジェネスティックか、と、キャスターは続けてた

しかもその方法は、研究所で教育される暗殺方そのものに、恐ろしい程酷似していたのだ



































































その日遂に実行に移された、ヘルマンと彼の仲間に堕ちたジェネスティックの計画は実に巧みなものだった

マックスの警戒宣言が発令される前にもう行動を起こしていた迅速さも有り、各種族のリーダーがそれぞれの区画に戻る頃には、そこは戦場と化していた

コンピューター制御室を最初に襲った彼らは防火用の各地区の境の分厚い扉を下ろし、孤立させるという手段を取る

だが比較的反乱者に加担する者が少なかった動物種の地区は、電源を全て落とし真の暗闇の中で夜行性DN Aを持つ兵士の目が活躍したお陰で、半日で制圧が可能になる

一方内乱の本拠地とも言うべき人間種の区画での戦闘は激化し、マックスやローガン、そしてA区制圧後加勢に来たジョシュアやモール、ビックスも、命懸けで同族との戦いを強いられる事となった






「っ・・どうする、マックス」

ローガンも銃を手に、下半身に装着した対ジェネスティック装備を頼りに戦っている

「彼等はそれぞれの能力は高いけど、協力体制はなってないわ
 ・・・出だしは良かったけど、訓練不足ね」

圧される戦禍に、物陰に隠れての一瞬の隙を付いての会話だというのに、マックスは余裕の表情を崩さない

「だが、武器庫の中の銃は全て奪われてるんだぞっ」

「貴方が知ってる『武器庫』が全てじゃないのよ、ローガン
 もうとっくに味方に行き渡ったわ、充分過ぎる銃がね・・大丈夫よ」

マックスはローガンに、ニヤリと笑って見せた

「・・・・・」

ローガンは飛び交う銃弾の間、自分さえ欺いていたマックスの巧みな戦略に関心するともに、多少の疎外感を覚え黙り込む

「別に・・貴方が普通の人間だから教えなかったんじゃないわよ」

「・・解ってる」

「OK・・・早くへルマンを見つけましょう、奴等リーダーが捕まれば総崩れするわ」

2人は顔を見合わせ、敵からの銃声が弱まったのを期に手分けして探そうと頷き合った






そしてローガンとジョシュアは西へ、マックスとモール、ビックスは東へと、広大なシティに張り巡らされた道を走り出した






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