檻 10
「マックス・・
 あのジェネスティック排斥派議員を殺したのは、本当にアレック?」

ローガン達と別れてシティの奥へと行けば、ビックスは傾く眼鏡を直しながら傍らのマックスに聞いて来た

「・・分からないわ・・でも、残念ながらその可能性はとても高いわね
 さっきA区で捕らえた反乱者が、ヘルマンは反乱後ここを統治するつもりで
 最近ではあの議員や神父暗殺計画を練っていたと、言ってたらしいから・・」

モールも葉巻の煙を燻らせながら、微かに頷く

「それにあの方法は、研究所の暗殺部隊が取る独特のやり方だろ?
 ・・兎に角・・早くアレックを保護して、聞き出すしかねぇな」

ニュースでは犯人は追跡も逮捕もされてないと伝えていたから、もし犯人がアレックだとしてももうシティに戻って来ている筈

マックスはジェネスティックの行く末と、自分とローガン、そしてアレックの不思議な関係全てを案じ、手にしていた銃をしっかりと握り直して言った

「そうね・・それが彼を救う、唯一の方法だわ」

そして3人は再び、シティの細い道を走り出した














































その頃ローガンは、走り続けて上がった息を整える為人気の無い一角で立ち止まっていた

「平気か?・・ローガン」

やはり強化機械を装着しているとは言え、ただの人間

ジョシュアは体力に劣るローガンを、心配そうに見つめて来る

「・・大丈夫だ、ジョシュア
 それに一刻も早くこの事態を沈静化しないと・・
 シティで内乱などと外部に知られたら、またマスコミにネタを提供する事になる」

「・・テレビが、また俺達の嘘を流すのか?」

「ああ・・その上今は、あの議員暗殺の事件も有る
 あれがアレックの仕業だったら・・警察や州兵との和平協定も無くなる
 この期に乗じて、シティの篭城打破の為に兵士を突入させて来るかもしれない」

シティの外でマスコミ対策の為動いてくれているスケッチーや、クレメンテ刑事との話し合いが上手くいっている経過も、全てが無駄になってしまう

だがジョシュアは首を振り、ローガンを見つめた

「俺は・・アレック、信じてる」

「・・・ジョシュア・・?」

「アレックの心には、暗闇が有る
 だけど、それを嫌ってた・・・だから、もう二度とあっちには行かない、絶対だ」

「・・・・・・そう・・だよな・・僕達だけでも、アレックを信じよう・・」

ローガンは力強いジョシュアの瞳で、心の中に諦めかけていた希望が再び灯るのを感じる

まだアレックが殺した証拠が出た訳じゃない

まだアレック自身の口から聞いた訳でもない

「・・信じるよ、アレックを」

ローガンは漸く正常に戻った脈拍と呼吸で、ジョシュアに微笑んだ












その時


遠くからカンカンと鉄の格子を踏む靴音と共に、暗闇から大柄な影が現れた



「っ!・・シッ」

その髪は、見事な銀色





「っ・・ヘルマンっ?!」

「・・あいつっ・・・・・・・・っ!、ジョシュア、よせっっ!!」

ローガンは突然の反乱の首謀者との遭遇に息を飲み物陰に隠れたが、ジュシュアは次の瞬間にはヘルマンに背後から飛び掛っていた

咄嗟に構えるショットガンも怪力で叩き落としギリギリとその逞しい首を締め上げれば、ヘルマンもジョシュアの巨体を背負い、投げ飛ばす

「ふ・・・こんな所で会うとはな、あの地下の出来損ないのワン公かっ!」

「・・っ・・ジョシュアっ!」

ローガンは、ガルルルルッとジョシュアが唸り声を上げてヘルマンに再び飛び掛ってゆくのを、茫然と見守るしか出来なかった

その勢いで床に落とされていたヘルマンの銃は音を立てて階下へと落ち、さながら2人の力比べのような様相を呈してくる

パワーはジョシュアの方が格段に勝るが、ヘルマンはあらゆる格闘技をマスターしているらしく、動きが素早く無駄が無い

「・・ジョシュアっ!・・離れろっ!!」

ローガンは2人から距離を取り銃を構えるも、動きの余りの早さに的が定まらない

それに唯一武器を手にしているローガンでも、あのランクのジェネスティックが本気を出せば、発砲する前の一瞬の隙を付いて銃を奪われる可能性もある

そうしてそれ以上は近寄れず迷っているうち、ヘルマンの鼻からは血が流れ、ジョシュアも目蓋の上から出血する

絡み合いのた打ち回り、2人の死闘は続く




だが、やがて







「っ・・やめろっ!」







「・・ぁ・・アレックっ?!」

目にも留まらぬ速さで2人に割って入ったのは、アレックその人

そしてヘルマンの鳩尾に強烈な蹴りを食らわせ、ボロボロになったジョシュアを壁際へと押し遣ってくれた

「・・・・アレック・・・君は・・っ・・」

だがそのまま迷うように目を落とした様子に、ローガンはどちらの味方なんだと問い質したい衝動に駆られる

一歩、また 一歩と後へ退いて行こうとするアレックを、掴まえて抱き締め、連れ去りたい

しかしローガンが手を伸ばすより早く、ヘルマンの低い笑い声がその場に響いた

「・・戻ったか、494・・・私が頼んだ仕事はちゃっんとこなしたようだな
 お前の留守中に一足先に暴れさせてもらった、ここからお前も合流しろ・・いいな?」

「・・・・・」

「・・よせ、アレックっ・・違うだろっ?、議員を殺したのは君じゃないだろっ!!」

そう叫んだローガンに、床に蹲ったままヘルマンは勝ち誇ったような笑みを浮べる

「これはこれは人間殿・・こんな暗殺兵器の良心を信じいてる、と?
 ・・・言ってやれ、494・・・自分がどんなモノなのかをな」

「っ・・・・ローガン・・・・俺は・・・」

アレックは、壁伝いに立ち上がるヘルマンにも、痛めつけられたジョシュアを支えるローガンにも、歩み寄ることは無かった

肯定も否定も出来ず、ただ青ざめた顔で震えるだけ

そしてその様子に、ヘルマンは顔の血を無造作に拭いながら、言った

「自分で言えないなら・・私がこいつ等に教えてやろうか、494?
 ・・・お前がどれ程血が好きで、男好きで淫乱な薬中かをな・・・」

「・・っ」

「手始めに・・・コレでも見てもらうってのはどうだ?」

茫然とするアレックの前でポケットから出したのは小さなプレイヤーで、ヘルマンはマイクロチップに納められた動画データを再生できるそれのスイッチをONにし、ローガンへと放る


「ゃっ・・やめろ、ヘルマンっ!!」

「・・今更だろう、494?・・・そうだ、その犬男も見るがいい
 お前がお仲間にアンアン言わされてるところだ、興奮するかもな」

「・・っ・・」

ローガンは駄目だと思いながらも、それを受け取って小さな画面を凝視してしまった

そこには、数人のジェネスティックに辱められる、アレックの姿

酷い暴力を受けた痕だらけの体に更に注射器で薬も打たれ、冷たい床に突き飛ばされる

そして、蛇、カメレオン、トカゲなど、様々な動物のDNAとの混合に失敗し、正気を保てないジェネスティックが次々と彼に群がる

「・・出来損ないの連中だが、生殖能力だけは使えた
 こいつのお仕置きには持って来いだ、なにせ何日も交わったままで居られる」

「・・・ゃ・・め・・」

アレックは見ないでくれと訴える事も出来ずただこんなのは嫌だと微かに首を振っていたが、ヘルマンの残酷な言葉は続く

「最長でお前は、何日間ぶっ続けで犯されたかな?
 まあ、最後は何時も私の前に頭を垂れて、詫びていたが・・
 ぁぁ・・あと、知ってるか?、ローガン・・494には職員の慰安も務めさせた
 一日たりとも男無しで居られない体に、更に磨きを掛ける為にな」

モニターの中ではアレックが苦痛ばかりではない嬌声を上げ始めていて、その音声は静かな建物の中に大きく響いた

「・・っ、やめろっ・・ヘルマンっ、やめてくれ・・っ」

「っ!、ローガン・・もう見るなっ」

やがてアレックの悲痛な声と共にジョシュアが耐え切れずモニターを奪い壁へと叩き付け、悲惨な彼の過去は粉々壊れた破片と一緒に消えたが、ローガンは立った今知った壮絶な彼の過去に絶句したままだった

「・・もういい、アレック・・こっちに・・」

それをアレックは軽蔑と受け取ったのか、必死で手を差し伸べるジョシュアにも哀しげに首を振る

「・・やめておけ、ワン公
 そいつがお前達のところに戻ることは無い、無駄だ」

「うるさいっ!・・アレックは絶対、俺達の仲間だっ!」

「はっ・・はは・・仲間かっ!・・笑えるなっ
 ・・じゃあ聞いてみろ、クレスギー財団の元代表のロイスという男について」

ハッっと、ローガンは顔を上げた

まさかと

まさかと、思った

だが

「・・・アレック・・・?・・」

アレックは、ローガンと視線を合わせようとはしなかった

それは、何よりの証拠









「ローガン・・こいつの顔に書いてあるだろう
 お前の親友のロイスを・・それだけじゃない、妹も母親も殺したってな」






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