その日マスタング少佐は街の視察と称して気ままに散歩を楽しんでいたの
だが、ふと前方に見慣れたひとつ結いの金髪が歩いていることに気づいた。 軍服を着ておらずともわかる、そのまばゆい金色は紛れもなくエドワード エルリック大佐。その隣にはイーストシティで大変有名な美女がいた。手を つないでいるわけでも腕を組んでいるわけでもないけれど、女性が大佐に 触れるその仕草には独特の親しさのようなものが垣間見えた。おそらくは 恋人同士なのだろうとマスタングは察した。しかし女性どころか人間そのもの に興味のなさそうなエルリック大佐に恋人がいるとは直属の部下である マスタングでさえ初めて知ったことだが、あの大佐のことだ。恋人のひとりや ふたり、いない方がおかしい。何しろ若くして得た地位に才能、あの美貌と きている。マスタングは特にふたりの尾行をするつもりではなかったが、なんと はなしに後を追っていきしばらくすると街の中心部、噴水のある広場に出た。 そこで大佐は立ち止まり、突然彼女に向かってこう言った。「終わりにしよう」 つまりは別れを切り出したのだ。女性は当然激昂し、すごい剣幕で理由を 問いただそうとする。「新しい女が出来たのね!」大佐は首を横に振った。 次は嘲りを込めて「じゃあ男?そうなのね!」けれどまた大佐は首を横に振る。 「そう、じゃない」言葉に詰まったのはほんの一瞬のことで、何も不自然には 聞こえなかった。あとは口論というよりは女性の一方的な罵倒が続き、最後の 最後に女性は大佐の横っ面を思いきり引っ叩いて泣きながらヒールを鳴らし 走り去っていった。一つの恋の終わりに人々はじろじろと不躾な視線で大佐を 見ていたが、ドスの効いた声で「見せモンじゃねーよ」と呟き、たちまち赤く なった頬を満更でもない様子で撫でているのを見てみな即座に目を逸らした。 そして大佐は離れた場所に立っていたマスタングに向き直り、「外回りか?」と 唐突に聞いてきた。気配は消していたはずだが、大佐にはすっかりお見通し らしかった。たとえ最後のデートであっても、大佐は職務中にデートをするような 不届き者ではない。彼は今日久しぶりの休暇だったのだと思い出した。「何故 別れたんです?」マスタングが興味本位で尋ねると、大佐は「ただ、殴られて みたかった」とあまりにあっけらかんとそう言った。呆気に取られるマスタングに 大佐は「外回り、終わったら昼休み?」と聞いてきた。頷くと大佐はついてこい と言う。そこは街の外れ、治安が悪く昼間から売春婦たちが街角に立っている ような場所で、着いたのは明らかにそういう目的の安ホテルだった。大佐は ためらいなくキーを受け取り部屋に入るとすぐ上半身裸になって髪をほどき、 斜めに見上げるような目つきでマスタングにこう言った。「お願い、俺を殴って。 思いっきり。痛くして」予想だにしなかったその言葉にただ狼狽し、何とか 拒もうとすると大佐は素早くスプリングの弱そうなそばのベッドに力ずくで 押し倒し、飾緒をむしりとると手際よく両腕を縛りベッド上部の柵にくくりつけ、 強引にマスタングの下衣と下着を半端に下ろした。足の自由までも奪われ、 何をされるのかと思えば大佐は屈んで、あらわになった性器に舌を出し、舐め だした。唾液の水音。舌や粘膜の感触や熱。巧みなそれはあっという間に マスタングを勃起させた。大佐はその傍ら、サイドボードから小瓶を取り出して 己の下衣を下ろして中身を後ろに塗りこめていた。マスタングの視点からは 見えないが、はじめは指一本、それが二本となり三本となりぬめった音と くぐもった吐息だけがマスタングの耳に届いた。普段の様子からは想像すら したこともないあられもない大佐の姿。そうして準備を整えるとマスタングの 上に圧し掛かり、猛った性器をそこに押し当て一気に腰を落とした。充分に 潤んだ粘膜は従順にマスタングを受け入れた。響く悲鳴のような大佐の甘く 高い声。与えられる締め付けとすさまじい快感。しかし積極的に腰を動かし 捕らえた獲物を見下して笑うような大佐の表情は、マスタングには己の方が 犯されているような錯覚をもたらした。わざと低俗な言葉を選び煽るその喘ぐ 声に耳を塞ぎたくなったがそれもできない。頭と体が別のものになったように 気持ちとは裏腹に下半身には熱が集められていった。それからどれだけ 経ったのか、マスタングが吐精したとき大佐の性器もまた自身の手の内側に 体液を零していた。事が終わり、てきぱきと始末を終えて飾緒を解かれた 途端、マスタングは衝動的な何かに突き動かされて拳を握り締め大佐の頬を 殴った。手加減のない打撃に、口の中が切れたらしい。血を床に吐き捨てて 大佐は言った。「そうだ、その目が見たかった」さっきよりもずっとひどく赤く 腫れていく頬をまるで宝物に触れるような動作で優しく手のひらでさすり、 今度こそ満足そうに大佐は笑った。 |