「なぁ、タバコってどんなん?」
「ふへ?」
たおやかに燻る紫煙を見つめながら、ナツメは不思議そうに尋ねてくる。
その顔はまるで純粋な興味に満たされた好奇心の塊の小学生のような表情だ。
普段はクールな瞳が今は意気揚々と輝いている。
最近少しずつだけど、ナツメは色々な表情を見せてくれるようになってきた。
「興味がおありで?ガキんちょクン」
「貴様!飼い主に逆らうとはいい度胸だな!」
……のっけから何やらただならぬ台詞で失礼します。
でも、これは紛れもなく本当で、嘘でもなければ間違いでもない。
ちょっと売り言葉に買い言葉は入ってるけど、真実であることには変わりない。
オレの名前はたま。
ナツメのたま。
記憶喪失&凍死寸前で行き倒れてたところをナツメに拾われた。
ま、行き倒れてたとは言っても、このマンションのエントランスホールでだけど、な。
「オレが高校生の時はとっくにタバコくらい経験済みだったぜ?」
ふふんと鼻に掛けた笑いでもって、オレは自慢げにナツメを見やる。
記憶はないが、身体が覚えてる。
若干?21歳にして既にヘビースモーカーなオレが言うんだから間違いない
……多分な。
んとに…医者の卵が聞いて呆れるぜ……。
これだから“医者の不養生”とかなんとか世間の皆様方に言われんだよ、な?
「んな!俺だってそんくらい……貸せ!」
だから。
その図星を指されてムキになるところがまだまだケツの青いガキんちょだってんのよ。
オレの手からもぎ取った吸いかけのタバコを、ナツメが勢いよく吸い上げる。
そして、案の定ーーー
「かはッ!ゴホッ、ん、げほッ!ゴホッッ!!」
まーったく、可愛らしいったらありゃしない。
緩みそうな頬になんとか力を入れて、思いっ切り煙を吸い込んで噎せ返ったナツメの背中をさすってやる。
「…くくッ……」
「な……ッんに!笑ってんだよ!!」
背後から聞こえた忍び笑いが癪に障ったらしいナツメがギロリと睨んでくるが、オレにはその反抗心さえ可愛く見えてしょうがない。
「いきなり直はキツイだろ?なんせお子ちゃまだからな、ナ・ツ・メは」
「う、うるせ……んッ!」
口答えする可愛い唇をオレは塞いでやった。
「それと『タバコは20歳になってから』だ!だから、もしどうしてもってんなら、こうやってオレがーーー」
そう言って再びくちづける。
ナツメが甘い憎まれ口を叩いて、それでオレの胸の中がほわっと暖まる。
それが日常。
「……タバコ臭」
しつこいオレをナツメの華奢な腕が引き剥がしにかかるが、オレは断固として離してやらない。
「……好い加減に!しやがれ!!」
「……」
「……」
「ナツメちゃんったら…つれない……ぐすん」
こうして今日も、オレ達のベクトルは幸せの方角へ向かってる。
Happy?Be→Happy!
2002/3/29 fin.
戻ル?
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