雨のち晴れ!シリーズより
『杏太クンのロンリーナイト』

Pululu...Pululu...Pululu...

弾む会話に水を差したのは受話器の向こうに流れる不躾なBGM。

「洵平(じゅんぺい)…電話……」
「気にすんなって。どうせクソ姉貴のクソ彼氏だろ」
「そうか?…ならいいけど……」

とは言ったものの、なかなか鳴り止まない受話器越しのベルが小心者の俺には気になって気になって仕方ない。

「んだよ…誰もいねぇのか……」
「洵平…急用かも知れないし、な?」
「ん…悪りぃな。そのままちっと待ってて」
「いいからいいから、早く早く」

流石のあいつも重い腰を上げる気になったらしく、それを幸いと俺はケータイ越しに洵平を急かした。
それにしても57コールをやってのける電話の主の執念深さと、それを思わずカウントしてしまう自分の間抜けさにはほとほと呆れ果てる。
別に大した用事でもないのでこのまま切ってもいいのだけれど…親のスネかじりの分際では昨今の携帯電話料金も馬鹿にならない上……。

ーーーボスリ。

貧乏性丸出しの思考を巡らせていると、受話器越しに妙な雑音が届く。
どうやら洵平がベッドの上にケータイを放り投げたらしい。
あいつのの大雑把さ加減も含めて、俺達は相変わらず進歩していないようだ。
不意に頭を過ぎった3バカトリオ幼き日の面影に苦笑しながら、俺はこの電話の当初の目的が学校の連絡網だったことを漸く思い出した。

「あっと…確か洵平の次は育哉(いくや)だったよなぁ……」
『あっ、育?』

送話器へ呟いた俺の“育哉”と受話器から聞こえた洵平の“育”が重なる。
あのしつこい電話の主が育哉だと分かると、俺の口元も自然に綻ぶ。
育哉も3バカトリオの一員で、俺達は数年来の腐れ縁だったりする。

『ん?何してたって?杏太(きょうた)とダベってた』
『……』
『嘘なんか吐いてねぇって』
『……』
『あ?確かめてみる!?』

受話器から漏れる洵平の台詞だけでは確信が持てないけれど、どうやら育哉が57コール間の空白の時間を疑っているらしい。




Tururu...Tururu...Tururu...

タイミングよく鳴り出した自宅の電話のベルに、俺は部屋に置いてある子機を慌てて掴んだ。
普段ならケータイから愛用16和音の着メロが流れるはずだけれど、今その回線は洵平のケータイと繋がっている訳で。
それでも簡単に引き下がらないところが育哉らしいと言えば育哉らしい。
洵平のアリバイ証明をするのは親友たる俺の義務で責任かも知れない、などと妙な使命感を覚えながらボタンを押す。

「はい。奥田ですが」
「杏太?」
「育哉か?」
「うん。ねっ杏太、今洵平と電話してた?」
「ああ。連絡網……」
「………………ありがとっ。じゃね」

ーーーポス。

またもや俺への回線は無下に扱われたらしい…。
俺は右手に子機を、左手にケータイを握り締めながら、少しだけ空しい気分になる。
これでも俺と洵平は親友で、俺と育哉も親友で。
しかし、俺達の人物相関図は洵平と育哉の矢印だけ意味が違う。

「はぁ…結局友情より愛情なのな、人間って」

両耳に受話器を押し当てながら、受け取る相手のいない一方的な呟きを漏らす。
洵平のケータイと育哉の子機がベッドに空しく転がっている姿を思い浮かべては、俺の口から特大の溜め息が出る。

「…せめて…切って欲しいよなぁ……」

相手が受話器を置くのを確認してから切らないと落ち着かない自分の性分が途端に恨めしくなる。
そんなこんなでまたも自己嫌悪に深く陥りそうになった時、右耳に育哉の声が、左耳に洵平の声が入ってきた。

まるで三人一緒にいるようなヴァーチャル感が何とも面白い。
目を閉じると、慣れ親しんだ二人の声が映像となって俺の頭の中で再生される。




『ごめんっ洵平』
『オレって信用無いのなァ』
『ごめんって』
『杏太の言葉は無条件で信用するクセに』
『だから!ごめん!!』
『オレはいつでもどこでも育一筋なのになァ』
『……』
『…育?』
『今からそっち行ってもい?』
『ん…今日はも遅いからダメ。キュートな育に夜道は危ねぇし』
『でも…』
『ん?何?…もしかしてオレの声に欲情した?』
『……』
『いっ、くちゃん?』
『……した』
『んじゃ、する?』
『え?』
『テレフォンセックス』
『えぇ??』

「はい!?」

『平気だって。オレに任せて。オレの声聴いて、オレの言う通りにすれば絶対気持ち良くなれるから』
『で、でも…』
『大丈夫だって。恥ずかしかったら電気消して?』
『う、うん…』
『消したら電話左手に持ち替えて…ベッドに仰向け…そう…そしたら…もうパジャマ?』
『まだ…』
『んじゃ、シャツのボタン外して?…それでそのまま指先で唇に触れて…これがキス』

『軽く触れたり…強く押しつけたり…口端を軽く吸い上げると…育が口を開いて……ほら?もっと舌絡めて?』
『…んっ』
『…育…好きだ…愛してる』
『おれも…おれも好き…洵平』
『聴こえる?オレいつも育の左耳に囁くだろ?で、その後は?』
『耳朶…軽く噛んでから…舌先で首筋…鎖骨…胸……』
『そう。んじゃ、その順番に指先滑らせて?…想像膨らませる…育の指先はオレの舌……』

『ん…んっ…んん…んぁ……ぁっ』
『……耳朶…首筋…鎖骨……胸』

『育可愛い…そのまま舌先で二三度くすぐ擽って…ほら?育の、感度良好だから…もう固く…そしたら解すように舌先で転がして?』
『っん…や…じゅ、ん…ぺい……』
『強く吸ったら…どう?昨日のまだ残ってる?育がオレのだってシルシ』
『わ、分かんない…ぁっ』
『んじゃ、も一回』
『んっ、ぁっ…んん』

『次はヘソ…脇腹……育の大事な、トコ』
『……んっ…ぅん……あっ、んん!』

『育の…も元気になってる……ほら?指絡めて?…最初はゆっくり…段々早く…強弱つけて動かして?』
『やっ…ん、っあ…だ、め……は、ぁん!』
『もイキそ?』
『…う、うん…も……』
『んじゃ、オレに頂戴?…オレ育の欲しい』
『ん、ゃっ…あん…洵平……ん、あぁっ!!』

『ん…ご馳走さん。次はオレの番ね…後ろ指でよく慣らして?』
『…い。洵平早く来て……』
『ダーメ。ほら思い描く…育の指先はオレの舌……舌先で入り口…円描いたり擽ったり…軽く突ついて…入れたり出したり』
『ひっ…ん、はっ…ぅん……っあ』
『ん…育…もっと奥まで…そのままぐるぐる掻き回して?』

『んぁ…も、い…早く…早く来て洵平……っ』
『い、くっ…オレ、も限界……』
『早く…っ』
『…ん、じゃ……挿れん、ぜ』
『洵平…ん、はぁっ!……じゅ、洵平熱い…熱い、よ』
『育も…すっげぇ…イイ……ん、はっ』
『もっと…もっと…動い、て…んっ!そこっ……ひっ、んあ!!』
『ココ…イイ、のか?』
『ん…そこ……んっ、んん!…あっ、ん!』
『もっ、と…乱れて?声、聴かせ…て?』
『あっ…ん、はっ…ああっ…あ、っん……っ!…も、だめ』
『育…一緒に……』

『…んっ…あ、はぁっ!!』
『……育………ん、くっ』

「……」






二人が絶頂とやらを迎えると同時に、俺はいつの間にか固く握り締めていた両手の電話を慌てて切った。
腐れ縁故に声だけでも充分想像できてしまう奴等の絡みは下手な無修正モノよりも生々しく、どうやら俺には刺激が強すぎたらしい。
その夜の日本のわびさびといったら、独り身の俺には身に染みて応えた。

結局連絡網を途中でぶった切ってしまった俺は、翌日クラスメイトの非難を一身に受ける訳だが。
勿論どんな野次も悪口も、俺にとっては馬の耳に念仏で。
鼓膜にこびりついた邪な残音が薄れるまでの数日間、俺が奴等の顔をまともに見れなかったのは言うまでもない…。

戻ル?

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