雨のち晴れ!シリーズより
『杏太クンのキャラメルハニー』

最初はちょっとした好奇心だった。
自分の人違いだったと分かって、見知らぬヤツにのこのこついて来て、しかも車まで乗った世間知らずクンがどんなヤツか気になっただけの話で。
それとちょっとした悪戯心。
どう見ても人の良さそうなだけの、今時珍しく世間ズレしてない、穢れのケの字も知らなさそうな純情クンを困らせてみようとして。
それからちょっとした八つ当たり。
色々あって正直むしゃくしゃしてたし、せめて過失の半分分くらいは腹いせにからかってやっても許されるんじゃないかとか。

初めは本当にちょっとした冗談とか遊びで済ますつもりだったのに、今じゃ僕の方がこんなに君にハマッてる。
運命なんてジャンクな言葉、あの時の僕は全然信じていなかったはずなのに……。




「ヘーイ!彼氏!今帰り?」

校門の前にデカデカと路駐されたド派手でド真っ赤な高級車。
騒音ッポイクラクションの後しばらくして顔を出す、これまたド派手なサングラス男。
今までだったら『コイツヤバクナイ?』って完璧絶対避けて通ってたハズの人種だけど、嬉しい哉哀しい哉、今の俺にはそんな不埒を働く人物に心当たりがないワケでもなく……。
なので、当然無視するワケにもいかず、

「…もしかして……甲斐さんだったりして?」

浴びせ掛けられる好奇の視線にもなんとか耐えて、怖ず怖ずと向き合った視線の先。
案の定と言うか、お約束と言うか、そこにいたのはアンラッキーなことにーーー

「当たりー♪さっすが愛しのマイハニー♪」

ハート乱舞中の我が恋人だったワケで……。
独特のハイテンションでサングラスを外し、するりと華麗に車から降りた瞬間、あろうことか公衆の面前で抱きついてこようとするもんだから、俺は条件反射的に目一杯広げた両手でストップを掛ける。

「甲斐さん…好い加減こういう登場はヤメてってあれほど……」

何度お願いしたことか。
しかし、その度にお願い返しされて、危うくバックバージンまで喪失しそうになって、それでも何とか納得してもらって、でもその度に翌日にはまるで当て付けのように派手さに磨きが掛かって……。

(……甲斐さんって絶対Sだよな)

これさえなければ、黙って立ってさえいれば、どこからどう見ても自慢の恋人なのに。
上質でふわふわの笑顔も、キャラメル色の瞳や髪の毛も、長い睫毛や手足も、全てが人の目を惹きつけて止まないのに…天は二物を与えずってこういうことかもって最近よく考えたりして……。
当然現役高校生と現役大学生とじゃ夏休みは大学の方が長いワケで、だから当然俺の方がバイトも早く切り上げることになるワケで、でも意外とあっさりサッパリした別れの後、自分から連絡するのも気が引けて。
だって別れ際の一言が『お疲れ様』だけだぜ?だけ!
普通ならもっとこう…あるじゃん!『離れたくないよ』とか……。
仮にも恋人同士だってんならさ。
……って!別にそういうのを期待してたワケじゃないけど、さ。
そんな感じだからさ、自分から連絡しようって気には全然なれなくて、ズルイかも知れないけど……だって、別に『僕達付き合おう』って始まった関係じゃないじゃん?
正直、今でさえ恋人同士なのかそうじゃないのか分からないくらいだし……。
だから、突然甲斐さんがうちの学園に真っ赤な高級車で現れた時は、ビックリしたやら、嬉しいやらで。
車に疎い俺ですら、くるマニアたる育哉のキラキラ視線でそれが高級車だって一目瞭然だったし、当の甲斐さんはみんなの視線を一身に集めるほどの美貌の持ち主だしで、俺はもう鼻高々で気分も最高だったよ、確かに。
でも、でもな、こう何度も続くと逆に恥ずかしくなってくるって言うか……。
ま、それはこのド派手な車だけの所為じゃないけどな。

「これからどう?中華でも?」

俺がやや不機嫌なのを悟って、甲斐さんが俺の喜びそうな提案をしてくる。
どうせ俺って色気より食い気だけどさ、甲斐さんってこう見えて意外と世話焼きって言うか気配り上手って言うか、下手するとお節介って言うか…こと、俺に関してはそうなんだけど、甘やかしすぎなトコが多々あったりする。
それは嬉しい反面、時々息苦しくなったりもするし、その分後からそれを盾に要求されること必至なので、俺は迷わず、

「いいよ、まっすぐ帰る。明日生物のテストあるから」

と申し出をスッパリキッパリ切り捨ててやった。
それでも甲斐さんは、じゃ僕が手取り足取り、って食い下がってきたけど、それはマジで冗談で済まされなくなりそうだったので遠慮させてもらった。
…って、なんで俺こんなにイラついてんだろ?
理由なんて浮かばないのにイライラして、完璧八つ当たりなの分かってて突っぱねて……過去の自分をこれほど後悔したことなんてない。

だって、この時の俺はこれが人生最大の後悔になるなんて知る由もなかったんだから。

***


「それって嫉妬じゃないの?」

あれから数日間、俺はなんとなく気不味くって甲斐さんを避けてたりした。
自分の気持ちを整理したいっていうのもあったし、何より静かに自分の心と向き合いたかったから。
最初はメールとか電話とかで心配してた甲斐さんも、それが全くの逆効果だと分かると、連絡も接触もパッタリと止めてくれた。
でも、それが甲斐さんの気遣いだと嬉しく感じる反面、自分が彼にとって大した存在じゃないようにも思えて寂しくなるのと同時に甲斐さんを責め咎めるような気持ちが生まれたのも事実で。
一体俺は何がしたいんだろう、って益々頭ごちゃごちゃになってきて、結局こうして例のバカップル兼親友どもに相談してるワケで。

「嫉妬?一体誰にだよ??」
「それだからおバカだって言うんだよ!甲斐さんに決まってるでしょ?」

なんで俺が甲斐さんに嫉妬する必要があるんだよ?と全く予想外のことを言われてハテナ?な俺を一喝したのはこんなナリしてキツイのなんのって、親友の育哉。

「頭足んないんじゃない!?そんなだから今回の生物のテストも追試になるんだよ!」

そ、そんなむちゃくちゃな…大体それとこれとは全く別問題じゃ……。
いや……確かに甲斐さんとのことで勉強に身が入らなかったのは確かだけどさ、それって立派に言い訳じゃん?

「いい?耳の孔かっぽじってよく聞きなよ?杏太はね、甲斐さんに嫉妬してんの!同じ男として!かたや容姿端麗・眉目秀麗、医者の卵で車だって*#йф・ж※ё・@Йなんて乗っててさ、かたや成績もルックスも十人並みで、なんの後ろ盾もない平凡な高校生。そんなふたりが暇さえあれば顔付き合わせて一緒にいるんだよ?どうしたって比べちゃうじゃん!そうでしょ?そうだよね??」

あまりのマシンガントークでよく聞き取れなかったけど、俺…結構あんまりなこと言われたような……。
まだまだ暴言が飛び出しそうな育哉の口をこらこら…と慌ててあの洵平が止めたんだから多分そうなんだと思う。
それにしても車の名前なんて俺には宇宙語に聞こえたけど、あれってそんなにスゴイ車なワケ?
ひょっとしてパーツとか外国製で特注で、維持費とかも結構莫大な費用掛かったりすんのかな…って、こんな時まで所帯じみてんじゃん、俺……。

その後、まるで親の敵みたいに育哉から説教されたり、すっかり熱くなった育哉の暴走を止めるのに洵平が教室で!公衆の面前で!キスしそうになったり、色々大変だったけど、結局問題は何一つ進展してないことに後々気が付いた。
育哉の言う通り、やっぱり俺は甲斐さんに嫉妬してるんだろうか?
何だかそれとはちょっと違う気もして、でもだからと言って全くそうじゃないとキッパリ否定もできず……俺はその運命の日を迎えるのだった。

***

「おい!そこのお前。ちょっと顔貸してくんない?」

あの校門でのコントすっかりご無沙汰だねぇ、と顔さえ見れば背中を押し続けていた育哉もさすがにスプーンを投げたのかごちゃごちゃ言わなくなった頃だった。
俺にとっての運命の日と運命の男が訪れのは。
校門を出た瞬間、もうすっかり目に焼き付いていた色鮮やかな赤が視界に飛び込んできて、俺は一瞬焦り、驚愕し、そして喜んだ。
言葉にだけしなかったものの、多分、これを、この日を一番待ち望んでいたのは自分だったんだろう。
しかし、そこから現れたのはどんなにか恋い焦がれ、待ち望んだその人ではなく、全く知らない男だったもんだから、一歩踏み出しそうになった足と思わず零れそうになった声をなんとか抑えて平静を装ったけど、こういうのってかなり恥ずかしい。
周りの目も気になるし、何もなかったフリをしてる自分がなんだか惨めに思えてきて。
俯き加減に、しかも心なしか足早で、その車の傍を通り過ぎようとした矢先に、俺はその男の呼び声と行き先を阻む手に遮られてしまった。

「俺……ですか?」
「そう。お前。あんたが保の杏太クン、奥田杏太クンだろ?」
「そうですけど…どこかでお会いしたことありましたっけ?」

初対面なのにお前とかあんたとか、こういう不躾なヤツは苦手だ。
苦手だけど、俺はあえて努めて冷静に丁寧に受け答えてやった。
それが牽制なのか保身なのかは分からないけど…この男が甲斐さんを“保”と呼び捨てたから……。
周りで保という名前の人間を、俺は甲斐さん以外に知らない。

「噂に聞き勝る世間知らず振りだな?奥田杏太クン」
「俺、あなたの顔に見覚えないんですけど?」
「おっと、これは失礼。僕は宇佐見陽介(うさみようすけ)です。保とは同期で親友です。初めまして。これでオッケ?」

何から何まで癪に触る。
人をバカにしたような言葉遣いも、無遠慮さも、不貞不貞しさも、クスクスと絶えず漏らす卑下た含み笑いも。
身体中から滲み出る自信も、全てがそれを暗示しているようで。
育哉は俺のイライラの原因を甲斐さんへの嫉妬と言ったけど、それならこの胸の中で燻るドロドロの感情は一体なんだろう?
これこそ、俺は嫉妬という名に相応しい気がする。




「そんでもってオレ、保の元カレってヤツ?以後お見知り置きを。奥田杏太クン」




俺に最低最悪の置き土産を残して、その男はひらりと身を翻した。



元カレ…元カレ……って、なんだ??
俺……なんかよく理解できないんだけど???
それって…それって……甲斐さんって受もヤれるってこと!?!?
だって、あの人どう見ても攻タイプだし。
……って!問題はそこじゃないだろ!!俺っ!!!
こんな時でさえ天然な自分を恨めしく思いつつ、俺は懸命にこんがらがった頭の中を整理するのだった。

***

「よっ!保♪」
「これはこれは、随分と優雅な登場ですこと。さすがは時遊会病院院長の孫は待遇が良くていらっしゃる」
「ほう…どの口がそんなことほざく?俺が誰の代わりに愛しの杏太クンの様子見てきてやったと思ってんだ?あ?」
「は?何?君、杏太クンに会ってきたの?それで?どうだった?元気だった?病気とか怪我とかしてなかった?」

杏太と口に出しただけでコロリと態度が豹変した保に陽介は我が目を疑った。
もう数年来の付き合いになる自分でさえ、そんな姿には一度もお目に掛かったことがなかったから。
甲斐保という人間は、幼少のみぎりから社交術を身に付けられた自分よりも遥かに順応性が高く理知的で、他人に取り入るのが上手くて世渡り上手で、そのクセ自分と他人の間には決まって一線を引くような、自分以外の人間に弱みを見せることなど絶対にありえない、そんなヤツだった。
少なくとも陽介の知っている保はそんな人間だった。
なのに、この変わり様ーーー

「……なんかムカツクよなぁ」

名前だけでこんなになるなんてある意味詐欺だ、と陽介は思う。
自分は疾うに捨ててしまった子供のような瞳をして、誰かを心底愛おしく想って、そんな風に他人を愛したことが陽介にはないから。
自分を見失うほどの激しい熱情。
いや、あるいはこれが本当の保の姿なのかも知れないが。
そんな風になれる保を、させる杏太を、羨ましくも疎ましくも思う。

「それで、どうだった?好い加減勿体振ってないで教えろよ!」
「……宣戦布告してやった」

吐き捨てるように言った台詞が、陽介の心境を赤裸々に語っていた。

***

ふざけんな…ふざけんなっ!……ふざけんなっっ!!
今の関係まで漕ぎ着けるのに一体僕がどれだけ苦労したと思ってんだ!!
あんなに誰か大切だって、あんなに誰かを大事にしたいって思ったのは、彼が初めてだった。
今まで他人とそういう風に付き合ったことがなかった僕には、毎日が手探りで、毎日が発見の日々で、でも何よりも楽しくて、何よりも掛け替えない日々で。
今さら彼を手放すことなんてっ!できるはずがないっっ!!




「いつまで待ってるつもり?」
「いつまでって…洵平が委員会終わるまで一緒に待てって言ったの、育哉の方じゃん?」

普段の素行の悪さが災いして半ば強制的に風紀委員に入れられた洵平の出待ちをしていた夕暮れの教室。
いつもだったら飽きずに見てるはずの夕日が今日は何故だか眩しすぎて直視できないでいた矢先、育哉が突然そんなことを言ったもんだから、俺はちょっとイライラしながら、それでも我ながら優等生な受け答えをしてみせる。

「そういうの、杏太の悪いトコだよ?ホントは分かってるクセに気付かないフリして、いつも波風立てないように気遣って、そういうのって優しいのとは違うんじゃないの?ただ逃げてるだけじゃない?」

育哉の顔が直視できない。
その横顔に射す夕日が自分の罪を咎めているようで……。

「幾ら待ってたって幸せは向こうからやってこないよ?もう分かってるんでしょ?自分の運命は自分で切り開かなきゃ!ほら!」

そうだ…俺って都合のいい時だけ子供のフリして、自分から動く勇気がないからいつも、なんでも甲斐さん任せで。
そのクセ、甲斐さんが思い通りに動いてくれないからってイライラして、挙げ句の果てには突っぱねて傷付けて……最低じゃん。
自分の想いを伝える努力もしないで、それを読み取ってくれることばかり願って……それでも対等になりたいなんて、対等でありたいなんて。

「俺……先帰るな!」

身支度もそこそこに、俺は夕暮れの教室を飛び出した。
後ろを振り返ればそこにあるはずの杏色と育哉の笑顔が絶えずエールを送ってくれてる気がした。

***

「遅いお帰りで、奥田杏太クン」

校門を抜けるとまたも飛び込んできた鮮やかな赤。
そこから現れたのはやっぱりド派手なこの前のムカツク男。

「あんたに杏太クン呼ばわりされる筋合いはないけど?」
「おーおー、たった2、3日で一端の口聞けるようになったじゃん。オレ様と張り合おうってワケ?」

相変わらずの横柄さ、相変わらずの無遠慮さに俺はカチンと来たけど、たった2日と3時間弱で(正確には!)人間の何かが変わるワケがないと自分を落ち着かせる。
こういうヤツと張り合う時は冷静さを失ったら負けだ。
狡猾なヤツとの根比べなら、洵平とで少しは慣れてる。

「張り合うも何も、あんた甲斐さんの過去の男じゃん。あんたじゃ役不足だよ、俺の方がずっと甲斐さんを、今の甲斐さんを愛してる。好きな気持ちじゃ、絶対負けない!」

それは一世一代の大啖呵。
本当は今だって俺は甲斐さんの恋人として相応しいのか、ずっと横にいて、肩を並べて、一緒に笑ったり泣いたり怒ったり、そんな風に過ごせる資格があるのか分からない。
でも、そうありたい気持ちは本物だから。
俺はいつでも受け身で小心者だった自分をそうするように、目の前の男をギリッと見据える。

「……だとさ、お姫様」
「誰がお姫様だ!」

しかし、そんな俺の前に現れたのは以前より少しやつれた感じの甲斐さんで。
それは普段食の細い甲斐さんを無理矢理食い倒れツアーに誘う誰かがいない所為だ、と俺は不謹慎にも安心してしまう。
そんな甲斐さんは陽介とやらの頬を憎々しげに抓りながら、それでも緩む自分の頬はもう抑えきれないって感じに満面の笑顔を浮かべてて。
そんな久々に見た甲斐さんの笑顔に、それが誰に向かってとか誰の所為でとか関係なく嬉しくなって、同時に身体から力が抜けて、俺は地面にへたり込んでしまったんだ。

「ああ!大丈夫?杏太クン!!」
「大丈夫……でも、なんで甲斐さんがここにいんの?」
「バカヤロー、お前の目は節穴か!ここをよく見ろ!ここを!」

お前らに関わった所為でとんだ災難だ、と言って陽介が指差したのは左の口端。
そこには見るも痛々しい青痣があって、怒鳴った拍子に傷が開いたのか痛ッ!と顔を歪める仕草がなんだか愉快で、ちょっとだけ同情を誘う。

「杏太クン、ごめんねぇ。この馬鹿!が下らない冗談言ったばっかりに」
「冗談って?」
「この馬鹿!僕の元カレとか何とか馬鹿!なこと言ったんでしょ?そんなの全然!全く!何の根拠もない!ジョークだからジョーク」
「ジョーク……」

俺は甲斐さんの言葉を反芻しながら、それでも馬鹿!の度に睨まれビクッとする陽介さんがちょっとだけ不憫になってくる。

「元カレは元カレでもね、この馬鹿!は僕の姉の元カレでね、あ!もちろんそんな風になったのはこの馬鹿!の浮気の所為なんだけどーーー」

育哉ごめん…折角背中押してもらったけど……俺やっぱりダメみたい。
甲斐さんの話を聞いてたら、なんだか何もかもどうでもよくなってきて、やっぱりこの人は最強だ……なんて意味もなくそう思ってしまった。

***

「へ?じゃ、あの車って陽介さんのなの?」

甲斐さんの部屋で一緒に過ごす、久々の日曜日。
俺が再放送のドラマなんかをなんとはなしに見てたら、急に改まった甲斐さんにそう告白された。
そう言えばこのマンションには何回も遊びに来てるはずなのに、一度もそれをこの目で拝んだことはなくて。
でも、それほど深刻な問題にも思えなくて。
ふ~んなるほど、なんて呑気に頷いた瞬間、突然イヤ~な考えが頭を過ぎって、途端に俺はあからさまに不機嫌になった。

「なんで…なんでそんな格好付けようとすんの?」

半分以上はヤキモチでそう言う。
だってさ、それって俺に会いに来る度に陽介さんとも会ってたってことで。
それってなんか…なんか……すげぇムカツクじゃん?
俺のために、俺を想ってしてくれてたことが結果的に甲斐さんと別の男を引き合わせる口実になってたなんてさ。
それにこんなのみみっちいって分かってるけど、俺より陽介さんに会う方が早いなんて更にムカツクって言うか……。

「だって、最初の時杏太クン凄く喜んでくれたから、僕嬉しくなっちゃって、つい……」

つい……で毎回あのド派手な登場をしてくれちゃうワケね。

「それにやっぱり好きな人にはよく見られたいって思うのは当然の心理だし」
「……そのままでいいじゃん」
「ん?」
「そのままで充分俺は甲斐さんのこと……。だから、そんなに自分を殺すようなことしないで欲しい。お願いだから、俺以外のヤツによそ見しないで欲しい」

こんなの子供染みた独占欲だって分かってる。
分かってるけど、甲斐さんに話し掛けたり話し掛けられたり、触れたり優しく触れられたり、そんな風に彼と付き合うのは俺だけがいいんだ。
誰よりも甲斐さんの近くにいるのは俺でありたいから。
俺が甲斐さんの一番の友達で理解者でライバルで、そして一番の恋人でありたいから。

「それ本当?」
「へ?」
「今の“オ・ネ・ガ・イ”のところ。今、杏太クン間違いなく“オ・ネ・ガ・イ”したよねぇ?」

いや…確かにお願いはしたけど……ハートマークは付けてない!断じてっ!
それよりか、今背中に悪寒を感じたのは気の所為だろうか……いや、気の所為じゃない……気の所為のはずがないっ!

「ちょ!甲斐さん!どさくさに紛れてどこ触ってんの!?」
「どこって杏太クンの大事な大事なご子息サマ♪」
「うっぎゃああ!!い、今、10時23分!まだ真っ昼間!!そ、そういうのは夜って相場が決まってんの!」
「夜になったら杏太クン逃げちゃうでしょ?」

だから今のうちに、って感じでさわさわと撫で絡みついてくる掌をなんとかギリギリで避けながら、俺は自分の気持ちを伝えようとしたことをちょっとだけ後悔したのだった。




これからもこんな風に日々は穏やかに、時々喧嘩したり悩んだり落ち込んだりして続いていくのかも知れない。
それでも、この人は、甲斐さんは甘くて愛しい俺の大事な人ーーー。



Happy End
2002/10/3 fin.

戻ル?

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