Taretare PRESENTS
『それでも君が好きだから ~バレンタイン編~ 』

(ど・・・どうしよう!)

奥田杏太はカレンダーを前に途方にくれていた…。
中間テストがあったからというわけでもないが 毎年自分には関係の無いイベントだったのですっかり忘れていたのだ。
杏太の頭の中は先ほど電話でいわれた言葉がぐるぐると反芻する。

『チョコレート交換したいから意地で休みを取ったんだよ』

そう電話の向こうで嬉しそうにささやいたのは 杏太の恋人の甲斐保である。
医大生である彼は 実習だレポートだと忙しくなかなか逢えない。一日にメールや電話で連絡を取り合う毎日だっただけに逢えるとなると杏太としては嬉しいやら恥ずかしいやらという妙な感覚に陥る。まだまだ初々しいことである。
が それだけに 今回の逢瀬はパニックなのだ。

(交換? チョコを交換?!)

杏太は自分が渡すなんてことはまったく考えてなかったと その時保にいえなかった・・・。
なぜなら・・・

『もちろんくれるよね? くれないときは・・・おしおきだよ?』

・・・・・・・・・・・・・・・。
2月12日の夜。
バレンタインデー 決戦の日までもうすぐそばだった・・・。

***

2月13日 昼休み。
とりあえず 困ったときは友人だ! ということで 杏太は育哉に相談する事にした。

「なあ 洵平にチョコあげるのか?」

育哉は珍しいといいたげな顔で首をかしげた。

「もちろんだよ? 珍しいね? こんなこといつもは聞かないじゃない?」
(それは面倒とのろけに巻き込まれたくないからだよ)

杏太は心の中で疑問に答えてはいたが 口では

「ちょっと質問があってね」

と 質問をかわした

「ん? なに??」
「どうやってこの時期に手に入れたんだ?」

杏太にしてみれば この時期 チョコを手に入れることは恥ずかしいことだ。
普段ならそうでもないものだが チョコレートはこの時期 ラッピングされて特設売り場に華々しく置いてある。しかも そこには買い求める乙女が山ほど鈴なりにいるものだから 中に入る雰囲気ではない。
ある種の殺気が感じられるのは たぶん 錯覚ではない・笑

「一ヶ月も前に お徳用チョコ買って 湯煎で溶かして作ってるけど?」
「・・・・・・・・・・その手があったかぁ」
「なに? 作るの? 今からじゃ無理だよ? だって どこで作るの」
「あ・・・」

台所でこっそりと作るには 物がモノである。
保とのことを隠している身としては 怪しいとしかいいようがない。

「う~~~~~!!」

杏太は思わずうなってしまった。

「なに? 忘れてたの?! 愛がないねえ・・・」

育哉はそういうとあっさり言い放つと (自業自得)とばかりにジュースを口に含んだ。

***

それなら!!と 今度は洵平に尋ねてみることにした。

「チョコオ~?!」

案の定 うざったそうな口調である。面倒がりやの洵平だが 育哉のせいでこういうイベントには付き合わされる。だから同じ苦労をしているはずだと思ったのだ。
が・・・。

「そんなもん ネットで買ったに決まってるだろ? 輸送済みだしな」
「あ~ そっか その手があるな」

さすがに抜かりの無い男である。

「・・・・・・・・・・・。」

しかし 無言でため息をつくのはなぜであろう?

「いっとくけど もうその手は使えないぞ?」
「え・・なんで?」
「こういうのは2・3日前には注文しなきゃいけないんだよ。明日に持って来いといったって持ってこれるわけがないだろ?」

洵平は対処なしとばかりに眉間に指をよせた・・・。

***

かくなるうえは!!
杏太は最後の手段とばかりに 一番開けたくなかったドアを開けた。

「咲良姉~! 頼みがある!」

奥田咲良 20歳。杏太の姉である。実は保と同期であり 家族の中では唯一保との関係を知るだけあってこういう時には一番頼りになる・・・はずである。

「なあにい?」

めんどくさそうに寝たままの格好で足首だけが杏太に向いていた。

「チョコ買って!」

杏太ははっきり きっぱりと 要求を述べた。

「い・や・よ♪」

そしてあっさりと却下された。

「なんで私があんたの為に買いに行かなきゃいけないのよぉ。買いたきゃ女装でもなんでもしてあんたが買いに行きなさいよね!」

・・・・・・・・・。
まったく頼りにならなかった姉であった。
泣きたくなりながらも出て行こうとする弟に

「あ ついでに ムースポッキー買ってきてね♪」

と 追い討ちをかける姉は やっぱり鬼であった・・・。



***



2月14日。
結局 チョコを手に入れることができないまま 朝を迎えてしまった。
それでも おしおきされるだろうが 逢いたいのは逢いたい為に 保の部屋にきてしまう。

(おしおき…なにされるんだろう・泣)

杏太は びくびくしながら チャイムを押した。

「は~い! 杏太?」

嬉しそうな声がドアの向こうから聞こえた。

「う・・・うん。俺・・・」
「待ってて! すぐあけるからね?」

しばらくして ドアが開かれると やさしげな愛しい恋人が現れる。

「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」

二人はしばらく無言でお互いを見つめあったが ほどなくして照れたように笑う。

「久しぶりだね? 寒いでしょ?早くはいって??」
「う・・うん」

杏太は また見惚れてしまったと 苦笑した。

「あ・・・あの・・・ね?」
「ん?」

にこやかな笑顔。かなりご機嫌らしい。
・・・今のうちに謝っておいた方がおしおきも小さくてすむかもしれない!
杏太はそう判断すると 決死の思いで

「ごめん! チョコ買えなかった!」

沈黙が二人の間を流れた。
ほんの一瞬だったのだろうが 杏太には永遠のように長く感じられる。

(は・・早くなんとかいってくれえ!)

心臓がばくばくと鼓動を打つ。

「・・・・そんな悲壮な顔しなくてもいいよ?」

杏太の頭に 白くて長い指がふれた。

「口開けてくれる?」

優しい声に顔をあげてみると 保は笑っていた。

「口 開けて?」

いうとおりに 杏太は口を開けた。
なにかがほおりこまれ 口の中に甘いものが広がる。

「これ・・・チョコ?」
「そう。 僕からのね?」

保はにこやかに笑いながら そっとキスをする。

「杏太からも 確かにもらったよ?」

うっとりともらったくちづけに 杏太は酔いしれる。
やっぱり この人を好きになってよかったと杏太は思った・・・。

***

もう一方では・・・

「ねえ? なんか 気前いいけどなんで?」

育哉はデートでの勘定をすべて払っている恋人の気前のよさに尋ねてみることにした。

「臨時収入が入ったからね?」
「ふ~ん・・・。それってもしかして・・・」
「そ♪ 甲斐さんだよ」
「・・・・あの人 僕にも言ってきたんだよねえ」
「そこまでして お仕置きしたいもんなのかねえ?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「ま・・・杏太も幸せもんだよね? 愛されてるよ うん!」

育哉は、無理やり結論付けると 自分も幸せになるために恋人の手を握った。
確かな温かみがそこにはあった。

***

・・・・・・・・・・・・。
だまされた。
杏太はトイレの中で篭城しながら 体の中の熱を恨めしく思った。
食べさせられたチョコは あの有名な“ガラナチョコ”だったのだ。

「保のばかあ!!」
「もってこなかったらおしおきだといいましたよ?」

くすくすと笑う保に杏太は思う。

(なんで好きになっちゃったんだろ・・・)

まだまだ杏太の 苦難は続くようだ・・・。



2001/10/7 UP.
veryvery★THANX

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