THANX 4500hit
雨のち晴れ!シリーズ番外編
『育哉と洵平★愛の劇場 やっぱ愛じゃん?』

「~~~っ!!もう!洵平って年中サカッてんじゃん!!」

ちょっと自慢の、男にしては括れたウエストに下心アリアリで絡みついてくる両手からなんとかもがき逃げ出して、おれは精一杯キッとそいつを睨んだ。
おれだって、好きなヤツとはいつも一緒にいたいし、いつも抱き合ってたいけど……時々それが無性に切なくなるから。自分が本当に愛されてるのか……それが不安になるから。
だから、確かめてみたくなる。こんなのズルイって…卑怯だって…自分でも思うけど……。

「なんで?なんで!いつもそればっかりしたがるんだよ?」

それでも、たまには態度だけじゃなく、言葉で示して欲しい。そんなのっておれのワガママなのかな??ただ…ただ好きだって一言言って欲しいだけなのに……。

「なんでって……………ん~、そこに穴があるから?」

そんなおマヌケな切り返しを平然とやってのけたのは、笠原洵平(かさはら・じゅんぺい)。
一応、おれ来栖育哉(くるす・いくや)の数年来の恋人である。

「あ、穴があるからだと~~~っ!!」
「だってさ、男なら穴があったら挿れたくなるのが本能だろ?そこにーーー」

後半は極度のイラツキでよく聞こえなかった。
穴があるから挿れたい?穴があったら入りたいの間違いだろ!?
もしくは『そこに穴があるから♪』とでも言いたいのか!?こやつは!!

「……………もう…ん、は…る」
「はん?」
「……………もう!洵平とは別れるっ!絶交!もう絶交だからねっっ!」

おれは性欲処理のダッチワイフじゃないんだからなっ!!穴が!穴が!欲しいなら!!

「そんなに穴が欲しかったらドーナツとでもシコシコやりやがれっっ!!」

そのままくるりと踵を返して、おれは洵平の部屋のドアをまるで叩き付けるみたいに開けてから、最後に超特大の“あっかんべー”をカマしてやった!へっ!もちろんドアは開けっ放し!この寒空に凍えやがれってんだ!

「ぷ…ぷぷッ……あいつ、全然変わってないでやんの!」

それなのに洵平と来たら、ワザとおれに聞こえるような大声で笑いやがって!
おれは…おれはただ聞きたいだけなのに……。大好きだって…大好きだって言って、ぎゅうっと抱き締めて欲しいだけなのに……。それだけでおれはしあわせなのに……。

「浮気!浮気してやるっっ!!」

そんな風にして振って湧いた修羅場から、おれ達の5年ぶりの大喧嘩は始まったんだ。

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「なあ?育哉?お前、いつまで洵平と口聞かないつもり?」

もうかれこれ……10日くらい?
今まで人目も憚らずにべったり状態だったおれ達が一言も口を聞かないどころか、目も合わせないのを心配して、人一倍お人好しで世話好きなおれ達3バカトリオの1人、奥田杏太(おくだ・きょうた)がおずおずと近寄ってくる。小学校6年から始まったおれ達の腐れ縁は今でも健在で、杏太はおれと洵平が恋仲になった後も今までと変わらず接してくれた貴重な親友でもある。それはもう、掛け替えのない、世界で2番目に好きなヤツ。

「心配してくれるの?やっさしいなあ!杏太は!」
「いやあ、それほどでもぉ……」
「でも、結構余計なお世話だよ。杏太だって甲斐さんと会うので忙しいでしょ?無理に心配してくれなくていいよ?それとも、だぁれかさんに!探り入れて来いッ!とでも言われた?」
「そ、そんなことあるワケないじゃん!」

図星、ね……。目が泳ぎまくってるよ…杏太……。相変わらず嘘がつけないんだねぇ……。
でも、板挟みになってる杏太には悪いけど、おれ、自分から折れるつもりなんて全然ないし?

「そんじゃ、おれお先すんね」

まるで捨てられた子犬のような、背中にべっとりとねっとりと貼り付く視線を感じながらも、おれはそそくさと教室を後にする。
去り際にほんのちょっとだけ、ちらって感じで窓際の後ろから3番目の席を見てみたけど……洵平、ちっとも気にしてないでやんの。それどころか、いつもべったり張り付いてるおれがいないのをいいことに、3年だか何だか知んないけどさ、綺麗なおねえさま方にわんさか取り囲まれちゃってさ。鼻の下までだらしなく伸ばして……もう…ホントバカみたいじゃん、おればっかり……。
思えば……昔からおれのひとり相撲だった気がして、途端に惨めになる。

「……ばかやろう」

当てもなく呟いた一言が階段を弾むように落ちた気がした。
ダメ……ダメじゃん、おれ……このままじゃ……。
気を抜けば今すぐにでもこの場で泣き出してしまいそうで、おれは奥歯に力を込めるだけ込めて、何とか涙を堰き止めようとーーー

「……っ!?」

した瞬間だった。地面を踏みしめてるはずの両足から感覚が消えてーーー嘘!?何っ??おれ!?!?
まるで爪先から闇に吸い込まれていくような、頭のてっぺんから空に溶け込むような、そんな不思議な感覚でおれは身体から意識を手放した……。

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そう言えばーーー前に、ずうっと前も、おれ、こんな風になって。
そう、あれは、あれは確かーーー5年前。

おれと洵平と杏太が初めて一緒のクラスになったのは小学6年生になったばかりの春だった。
それまでお互いに同じ学校に通う、同じ歳のヤツってくらいしか認識してなかったし、顔に見覚えはあっても名前すら知らない、そんな存在でしかなかった。こんなことでもなかったら、おれ達の道は同じ距離感で平行したまま交差することなんて多分なかったに違いない。
こんなことーーーそれは全く予告もなしに起こった大規模なクラス変え。
それまでおれ達の通っていた小学校ってのは1年の時のクラスでそのまま卒業まで持ち上がっていくってのが当たり前で、誰もそれを疑ったり不平を言ったりしなかったし、それどころかそのこと自体に疑問を持つヤツだっていなかった。
一度そのクラスに編成されたら最後、そのクラスメイトと共に遊び、勉強し、共に卒業するものだって、誰もがそう思って疑わなかった。
しかし、おれ達が6年に進級したその春、何の前触れもなく大改革は起こった。後から聞いた話によると、クラス変えについての議論は
『子供のうちから行動範囲や友人関係を限定してしまうのは才能の芽を摘みかねない』
とどこぞの父兄が発言したことから端を発して、その頃から数年の間賛否両論を経て始まっていたらしく、その年度終わりにようやく賛成多数で片が付いたんだそうだけど。
おれ達にとって、そんなことは正直どうでもよくて。まるで世界が壊れたような、折角レベル上げに励んでたゲームを途中でリセットされたような、そんな複雑な気持ちになったのを今でも覚えている。
でも、おれ達が幾ら反発しようとも抵抗しようともその日は確実に巡ってきてーーー

「お前……女みてぇなツラしてんな?」

と、のっけからカマしてくれたのが洵平だった。

「ふたりともやめようよ?これから1年仲良くしてかなきゃなんないんだし」

女みたい、そんな台詞は聞き飽きてたつもりだったけど、面と向かって言われたのは物心ついてから初めてのことだった。物陰から隠れてこそこそ、そのクセワザと聞こえるように言われ続けてた時は平気だったはずなのに、その時は本当に心底ムカついて。
いきなり取っ組み合いの乱闘騒ぎになったのを止めに入ったのが杏太だった。
最初はなんだ?こいつら??って思った。初対面のクセにやたら失礼なヤツとバカがつくほどお人好しなヤツ。でも、慌てて職員室にチクりにいったヤツが先生を連れて戻ってきて、半強制的に職員室に連行されて、頭に手加減ナシのげんこつを仲良く一発ずつ食らった頃にはなぜか奇妙な仲間意識さえ生まれてて。

「お前、意外とやるじゃん?しょうがねぇから認めてやるよ!」
「お前じゃない!育哉!来栖育哉!そっちは?」
「オレ?オレさまは洵平だ、笠原洵平。洵平さまって呼べ?」
「……俺、杏太。奥田杏太。よろしくね」

顔中埃まみれ擦り傷だらけになりながら、それでも不敵に笑って見せた洵平の笑顔が何だかくすぐったくて。
自分はちっとも悪くないのに、それどころか反対に被害者のクセして大人しくげんこつまで食らって、律儀に自己紹介までして。そんな杏太に呆れ返りながら、それでも何だか妙に楽しくて。
それ以来、おれ達は何をするにもいつも一緒になった。
そんな日々がずっと続いてて、これからもずっと続いていくんだろうなって、ガキのクセに運命みたいな強い絆みたいな腐れ縁みたいなのを、その時は直感したんだ。
別に何を約束したワケでも、どんな理由があったワケでもなくて、自然とそう思えた。おれ達はいつも、いつまでも一緒だって。
そして、あの日もいつものように3人で学校帰りお決まりの寄り道をしたんだっけーーー

「なあ?今日も行くだろ?」
「おう!もちろんだぜ!」

でも、その時のおれ達の関係図と言えば、洵平と杏太だけが対等って感じで。同級生の中でも一際小柄でちょっと生意気で、そのクセ下手に女顔だったおれは当然悪目立ちしてて、いつもやっかみの対象だったから。

「あ!育ちゃん?今日一緒に遊ばない?」
「遠慮しとくっ!ゴメンね?ちずちゃん?」

昔から同性受けはすこぶる悪くて、異性受けだけはすこぶる良かったから、今までの仲のいい友達と言えばみんな女の子で。
初めて手に入れた本当の友情ってヤツが嬉しくて、最初の頃はおれだけが一生懸命ふたりにくっついて回って、ひとりで空回ってたみたいだった。
もしかしたら、あいつらだって同情で優しくしてくれてんのかも知んない。そんな風に考えたりして。でも、あいつらといるのは本当に楽しくて、時間さえ忘れるほど楽しくて、だけどいつまで経っても対等にならない自分に少しむしゃくしゃしたりして。
だからついーーーあんなイタズラ仕掛けたんだ。

「ごめ…っく…ぼ、く……せ………ご、んねっ……っ」
「泣いてたってどうにもなんないだろ?来栖は早く!誰でもいいから大人に知らせてきてくれ!」
「で、っも…ぼく、の…いで……ひっく、うっ」

3人の秘密基地にちょっとだけ、ほんの出来心で仕掛けをした。樹齢数十年の大木に立て掛けられたはしごにワザと切れ目を入れて、ふたりを少しだけ驚かしてやろうって。自分を認めさせてやろうって。それなのに…それなのに……。
目の前で脚を抱えたまま蹲る杏太の姿に、自分のしでかした事の重大さを突きつけられたようで一歩も動けなかった。
杏太の顔色はだんだん青ざめていくのに、それが傍目にも分かるのに、膝の辺りから流れ出す鮮明な赤から目が離せなくって……。
怖かった、自分の過ちを認めることが。自分の所為で誰かが傷つくことが。そして、何より大切な人を失うことが。きっと、こんな自分を知られたら、ふたりに嫌われるって、そう思ったら指先まで硬直して。
目の前の出来事が夢だったら、って何度願って目を閉じたかさえ分からない。しかし、何度瞑った目を恐る恐る開いても、目の前に広がる事実は変わらなくて。怖くて怖くて、

「……来栖!来栖育哉ッ!」

泣くことしかできなかったおれを、非力で子供なおれを気付かせてくれたのが洵平だった。

「育哉!お前杏太を死なせたいのか?」
「そ、な…わ…け…ない……っぅ」
「なら!泣くな!泣くくらいなら、最初からすんな!」
「だ…っ、て」
「だってじゃねぇ!言いワケするくらいなら、黙って泣いてろ!」
「…ワ、ケ……わか、…んっな……っ」
「オレだってワケ分かんねぇよ!でも、杏太は生きてる!死んでない!生きてるんだから!」

おれ達はまだ子供で。ひとりでは何も決められないし、ひとりでは生きてけない非力でちっさな存在で。でも、確かにーーー生きてる。
生きてるから。生きてるから、今を精一杯生きるしかないから。

「……うん…うん、ぼく、呼んでくる、誰か呼んでくるからっ!」
「ああ、頼む」

今を精一杯生きるから。今を精一杯生きているからーーー

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「おい!おいッ!育!育哉ッッ!」
「……んっ…ぅっ」
「育ッ?大丈夫かッッ?」

薄ぼんやりと開けた視界に見慣れた天井と見慣れた顔が映った。あの時と同じ……。
精一杯走って、精一杯叫んで、結局ふたりのところに戻るなり倒れ込んだおれを労るように覗き込んでたあの時と同じ……少しだけ精悍になったけど、意外と透き通った、でもちょっとだけ釣り上がった目とかそのまんま。

「……っじゅ、ぺ……?」
「ああ、そうだ。洵平だ。オレが分かるか?」
「うん…うん……」

安心した途端に涙が込み上げてきて。
ホントはおれ、分かってた、分かってたんだ。愛しい人が傍にいてくれるだけで、それだけでおれは幸せなんだって。おれが精一杯生きていれば、精一杯好きでいたら、洵平もちゃんとおれのこと好きでいてくれるって。そういうヤツだから、おれはこんなにも洵平のことーーー

「洵平……好き。大好き」

もう何もいらない。洵平さえそこにいてくれたら、おれ、もう何もいらないから。何も望まないから。
ぎゅうっと力強く洵平がおれを抱き締める。
それだけでおれは幸せだから。
洵平の唇がそっとおれの額に降り注いでくる。
それだけでおれはーーー

「育、この前の話だけどな」
「もういいよ、その話は。おれならーーー」

もう平気だから、そう言い掛けた唇をキスで塞がれる。そして、そのまま甘く吸われると、おれはもう何がなんだか分からなくなって。
やっぱりおれは呆れるくらいこいつに惚れているんだ、と再認識させられる。あの時から、あのおれの目に映る世界を変えてくれた時から洵平が特別になったんだ。

「いいから。ちゃんと最後まで聞いて?」
「……………でも」

でも、それを素直に認めるのはやっぱり照れ臭くて。つい憎まれ口を聞いてしまうけど。

「育!」
「……なにさ…こんな時だけ真面目ぶっちゃってさ…」
「育哉!いいから聞けって!」
「……」

ズルイ…ズルイよ……そんな風に呼ばれたら、おれ…おれ……何も言えなくなるじゃないか。卑怯だよ、こんな時だけ真剣な目してさ…おれがそういうの弱いって知ってるクセに。

「お前、その早とちりする癖直した方がいいんじゃね?オレの言ったことちゃんと聞いてないだろ?オレが言ったのは、男なら穴があったら挿れたくなるのが本能」
「……そんなの!もう聞きたくない!」
「いいから聞けって!オレが言いたかったのはそこにーーー」




愛があるならなおさらだろ?




「……………じゅ、じゅんぺぇ~~~・・・」

恥ずかしげもなく大好きと叫んで、おれは洵平の首根っこにしがみついた。だってさ、最後に勝つのってやっぱり愛じゃん?





☆おまけ★
「でさ、誰よりも早く洵平が駆け付けて『誰も育哉に触んじゃねぇ!』って。あいつさ、普段飄々って感じでクールぶってるけど、熱くなると呼び名が育から育哉に変わんの。でも、それ気付いてんのって、実は育哉と俺だけでさ、それで結局丸く収まったんだけど、俺ってな~んかいっつもふたりに振り回されてる……って!甲斐さん!ちゃんと聞いてる?」
「杏太クンの話なら、僕は一言一句聞き漏らさないよ?……で、それで?その怪我した時の傷って…ここら辺?」
「うぎゃあ!か、甲斐さん!そこ俺ダメ!そこは弱いんだって!!」
「……いいこと聞いちゃった♪」
「うぎゃあああっ!!!」

何はともあれ、全ての人に幸せな粉雪が降り注ぎますように……。
はっぴいはっぴいXmas!!



Happy End & Happy Merry Christmas !!
2002/12/18 fin.


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