「ところでさ、君達ってどうやってくっついたの?」
クリスマスムードで華やぐ店内に、ちょっとだけ異色のカップルが2組。おれと洵平と杏太、それと杏太の恋人の甲斐さんでWデートをしてる最中、突然甲斐さんがニコニコ顔で質問してくる。
赤・白、それと緑。そんなクリスマスカラーよりも強烈なその笑顔に、おれはちょっとだけ気圧される。
こ、このおれがここまで怯むなんて…我が親友の恋人とは言え……なかなか侮れない相手。
「ちょ、ちょっとっ! 甲斐さんっっ!」
それを聞いた杏太があからさまにそりゃマズイだろ!って顔をして止めに入ったけど、そこはおれ達よりは年の功な甲斐さん。
だってこの中で知らないのは僕だけでしょ?仲間外れなんてズルイよ?
とか何とか言って、さらりと杏太のディフェンスなんて崩してしまう。
杏太の助け船に期待なんて最初からしてないにしろ、甲斐さん…だって…って……こんな風にして杏太がいつも振り回されてるのかと思うと、なんだか複雑な気分になってくる。
昔から杏太の天然にツッコミを入れるのはおれの役目で、おれの暴走を止めるのは杏太の役目だったから、自分の位置を横取りされたみたいで。
そう思ったら途端にムシャクシャしてくる。
「最初は強姦されたんだよね? ねぇ? 洵平?」
脅かし半分八つ当たり半分な感じで、こちらは我が恋人に向かって極上のスマイルを向ける。とは言え、嘘を言ったつもりは毛頭ないけど。
「い、育!」
「強姦。へぇ……意外と情熱的なんだね? 洵平くんって」
情熱的って……そういう問題じゃないと思うけど?
甲斐さんを驚かせるつもりが思惑外れて我が恋人を驚かせてしまった矢先ーーー
「……それ、どういうコトだよ? 俺聞いてないぞ……」
まるでゴウゴウと燃え盛るような憤怒を感じて振り向いた隣、そこにいたのは紛れもなく杏太で。
「あちゃあ……杏太には内緒だったんだっけ」
「育…それ、墓穴……」
「…貴様らあ、俺らの間で隠し事とはあ……吐け!今すぐ吐け!」
杏太……キャラ変わってるって。
この世のものとは思えない形相でジリジリと詰め寄ってくる杏太を見ながら、普段温厚な人間ほどキレると怖い。そんな人生の教訓を、おれはひしひしとその身に感じていた。
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「んぎっ! くっ!!」
ぼく…一体何されてる、んだろ……?
今日は……今日は杏太、親戚に不幸があったとかで早退して、それでーーー
「……仕方ねぇなあ」
洵平が明らかに不満タラタラって感じでぼくを見た。いつものお決まりのパターンって言えば、洵平と杏太が放課後の作戦会議をして、それにぼくが強引に参加するって感じで。
あの事件があって以来、ぼくらの絆は益々強くなったけど、それでもまだぼくはちょっとだけお荷物って図式から抜け出すことができないでいた。
あの事件の後、杏太は自分の不注意だってぼくを一度も責めなかったけど、その代わりに洵平からはこっぴどく叱られた。ねちねちぐちぐち、こってりと嫌味の1つや2つ、3つ4つも言われた。でも、それさえもぼくは嬉しかったから、我ながら不謹慎だけどさ?
とにかくあの頃のおれは、初めて手に入れた男同士の友情を繋ぎ止めるのに必死だった。
「ほら? 帰んぞ?」
心底渋々って感じで、洵平が右手をぼくの前に差し出す。どうやら手を引いてやるからって意味合いらしいけど、ぼくはそれが益々自分の立場を物語ってるようで気に入らない。
「いいよ! 子供じゃあるまいし、今さらオテテツナイデなんてヤダってば!」
「いいから! 繋ぐ!!」
「……そうやって…すぐ怒鳴る」
明後日の方をギリッと見据えたまま、後ろ向きに右手だけ押しつけがましく突き出してくる。いつもはおちゃらけてて調子のいいだけのヤツのクセに、時々見せるこういう感情的な部分にぼくはどうしても逆らえなくて。
だからグチグチねちねちとぶ~たれながらも、こっちも負けずにしょうがなくだぞ!って感じで右手をぎゅっと掴んだ。
繋いだ掌が温かい……。
どうして洵平はぼくにこういう態度を取るんだろ……?杏太といる時の洵平はもっとこう…対等に…自分の思うまま感じるままに動いてる気がするのに。それはそれで結構傍迷惑な話なんだけどさ?
それなのにぼくとふたりでいる時の洵平はどこかぎこちなくて、いつも苦虫を噛み潰したような気不味そうな顔をしてて……。そんなだから、ぼくとじゃいっつもケンカばっかり。
こんなんじゃダメだって、もっと杏太とみたく仲良くなりたいって思うのに、天の邪鬼と天の邪鬼が向き合っても結果は結局ケンカにしかならなくて。
だから、正直言ってぼくは洵平とふたりきりでいるのが苦手だった。
なんでか心臓も落ち着かないし……。
「杏太……今頃どうしてるかなあ?」
ぼく達にある共通の話題なんて杏太くらいだから、ホントはもっともっと色んな話したいのに結局口を突いて出るのは杏太の話ばかり。
「……さあな」
「明日は学校来れるのかなあ?」
「……さあな」
「んもう! 洵平、さっきからそればっか! ちゃんと人の話聞いてんの?」
スタスタと脇目も振らずに歩きながら、ぼくと視線を合わせるワケでもなく、それなのに握る手だけ痛いくらいに力強くて。
「もっとゆっくり歩いてってば! ちょ、ちょっと洵平聞いてんの!」
「……」
「洵平とぼくとじゃ、悔しいけど明らかにコンパスが違うんだから、もうちょっと気を遣って歩いてくんなくちゃ! ホントいつまでたっても友達甲斐のないヤツなんだから! 杏太とは大違いっ!」
つい口を突いて出た本音。
ぼくとふたりの時は比較的無口になる洵平だけど、今日はそのいつもの洵平とも違う気がして……何だか余計に気不味くなる。その気不味さを誤魔化すようにぼくはいつもよりもおしゃべりになる。
だって、そうしてないと目も頭も神経も繋いだ手だけに集中してしまいそうで、そうなったらきっとぼく、耳まで赤くなっちゃいそうだから。それを誤魔化したくていつもよりもぶっきらぼうな口調になる。
「……ムカツク」
「え? 何??」
「お前ムカツクんだよ! 友達友達って! オレは初めて会った時からお前のコト ダチだなんて思ったコトねぇよ!」
握り込まれた手が痛い。
引き擦るほどの勢いで身体をぐいぐいと引っ張られて、腕がみしみしと軋んだ。
「いっ! 痛いってば!」
いきなり怒りを露わにした洵平に何が何だか分からないうちに連れ込まれたのはーーーいつもの秘密基地。
その樹齢数十年の大木の裏には鬱蒼と茂る草むら。その草むらのちょうど中ほどあたりにあるその草を選り分けて作ったトンネル。いつもは身を隠すためにあるその子供3人入るのがやっとのトンネルに、ぼくは無理矢理押し込まれた。
「させろよ」
「え?」
「お前の、触らせろ」
ぎらぎらと怒りにギラつく瞳で睨まれ、完全に退路を絶たれる。
ぼくは何が何だか分からなくて、それでも洵平が心底怒ってるのだけは分かりすぎるくらいに分かって。それはきっと自分の所為なんだ、と理由は思い当たらなくてもそれだけは確信していたから。だから、大人しく無言で唇だけを引き結んだ。
だって、今口を開いたらきっと、洵平を益々怒らせるようなことばかり言ってしまうから。
すると返事がないのを肯定の意だと、洵平はおもむろにぼくの脚の間に手を伸ばした。そのままグッと服の上から股間を握り込まれる。
「……あぅ!」
「お前…ひょっとして知らねぇの……コレ」
「バ、バカにすんな! それくらい知ってる!」
小6ともなればそれくらいの知識はある。と言っても、自分でしたことはないけど……。
「へぇ?知ってんの?」
不躾な瞳がぼくの身体を隅々まで舐め回すように観察する。いつもの洵平とはまるで別人の…例えるならもっと、こう……ムズムズする感じ?
幼稚な頭で弾かれるのはこんな例えくらいしかないけど、とにかく怖い。怖いはずなのに、洵平から視線が逸らせない。洵平の触れるところが熱を帯びる。鼓動が落ち着かない。
「でも……したことないだろ?オレが教えてやる」
ペロリと舌舐めずりする仕草にドキリとする。
「ズボン。汚れるから脱げ」
「ぬっ!? 脱げって!?!?」
「いちいち騒ぐなって! いいからお前はオレの言う通りにしてりゃいいの!」
あまりにも傲慢な物言いに思わず自分の立場を忘れて抗議しそうになったけど、考えてみたら、ぼくワビを入れてる最中だったんだ。そう思い直して、おずおずとズボンを下ろし始める。
「は! 恥ずかしいんだけど……」
「それからパンツも。そんで、そこに座ってみ?」
着替えなんて学校で散々やってるし見てるし見られてるはずなのに、それが改めてとなると途端に恥ずかしさが込み上げてくる。それでも今のぼくは言う通りにするしかできずに、思い切って下半身を覆うもの全てを剥ぎ取ってから、指差される場所にストンと座り込んだ。
でもやっぱり、纏う視線を考えると恥ずかしくて、上着をギリギリまで引っ張り下げる。
「すっげヤラシイの、ソレ。男ってチラリズムに弱いの、お前知ってた?」
「チッ! チラリズム??」
「そ、こういうの」
頭隠して尻隠さず……とはちょっと違うけど、引っ張りすぎて胸元からちらりと見え出した胸の粒をキュッと指で挟まれる。
「……んっ!」
な、何これ?なんでこんなところで変な声出ちゃうワケ??
「お?感度良好♪そんじゃ、こっちは?」
「ちょ! ちょっとお! ……ぁうぅ」
洵平の指が一度は離れたはずのぼくの股間へ伸ばされる。そのままぎゅっと握られるとさっきとは違う感覚にたまらず声を上げた。
「気持ち、イイんだろ?」
「そ、んなの…分か…んない、よ……」
「だったら、オレが決めてやる。お前気持ちイイんだよ。オレにこんな風に乳首舐められて、こんな風にココ、擦られてーーー」
胸の尖りをくすぐるぬるりとした感触にぞくりと粟立つ。
ゆっくりと上下し始めた掌の動きに段々ワケが分からなくなってくる。
ーーーちゅく。
「お前のココは嬉しい嬉しいって、涙流してカンジてんぞ?」
「感じ…て、る……??」
「そ、聞こえる? くちゅくちゅって? お前が出してるヤラシイ音?」
「うそっ! やっ!」
水音が途端にリアルを運んでくる。ヤラシイ音ーーー洵平がそう言った途端に何だか妙に意識してしまったぼくは思わず身を捩った。でも、いつの間にか移動した唇に根本まで銜え込まれてたぼくには到底逃げることさえ叶わず……。
「…やっ! やあ! 何、これ……変! 変だよお!」
じゅるじゅると音を立てて吸い込まれる感触に目眩がする。その中で洵平の舌が絡みつくように蠢くその動きさえ敏感に感じられるようで、でも、今のぼくにはまるで魚みたいに身体をぴくぴくっと痙攣させることしかできない。
何が何だか分からない。分からないけど……ぬるぬるとかコスコスとかが気持ちよくて、何かが身体の中心に集まってくるような、それでいてそれがバラバラに飛び散るような不思議な感じがした。
「ん、んっ! も……っ」
「んぐっ! んぐっっ!」
「あっ、んぁ、あ! ああ! んああっっ!!」
ついには放尿感を感じて、ぼくは慌ててダルイ身体を無理矢理起き上がらせた。
も、もしかしてぼく、おし、っこ…しちゃ、った……??
そんなはずがない、と自分を宥めながら、それでもぼくは恐る恐る視線を注いだ。
「ヘンな味」
「も、しかしてっ! の、飲んだのっっ!?」
「ん? ああ……お初ごちな♪」
なんで!なんでこの男はこうも人の神経を逆撫でるのが上手いんだろ!?
無神経に意味ありげににやりと笑って口元を拭った洵平だったけど、ぼくの方はもうそれどころじゃない。そりゃあ…飲尿健康法があるとかないとか……そんな話を聞いたことがあるようなないような気もするけど、そ、そんな飲んじゃうなんてぇ!?!?
しかし今は、とか何とか勝手に勘違いしてる場合でもなく、いきなり口に指を入れられた。
「んがっ、なひ?」
「舐めろ」
「??」
「いいから、舐めろって。オレがしたみたく、優しく、な」
優しくをやたら強調してみせた洵平にどこがだ!って怒鳴りつけたくなったけど、そこでまた自分の立場を思い出して大人しく言いなりになる。
一体どこまで付き合えばいいんだろ……?とかもはや諦めに近い思考を巡らせながら、ぼくはゆっくりと洵平の3本の指に舌を這わせた。洵平がやったみたく。
「そうそう、初めてなのに上手いじゃん。その調子で、もっと濡らすように舐めて。じゃないと後でお前が困る」
困る?ぼくがどう困るって言うんだろ??
意味不明の言葉が頭の隅に引っ掛かったけど、その時のぼくときたら、そんなことよりもその行為の方に夢中になっていて。まるで何かに取り憑かれたように洵平の指にむしゃぶりついていた。
こういうのって虜になるっていうんだろうか……?頭の中にじわっと何かが広がるような、それでいてぼぅっとしてくるような。とにかくその他のことが上手く考えられなくて。
「んぐ! んぐっ!」
「こんなもんでいいだろ」
洵平が何かをぼそりと呟いて、それで口から指が引き抜かれと、途端にぼくは心許なくなって洵平を見上げてしまった。
「んな顔で誘うなって」
誘ってなんかない!誘ってなんかいないけど……これじゃ物足りないよ。
身体の奥に着実に点った炎に突き動かされるまま、ぼくは洵平を見上げた。
「まずはよく慣らしてから、だ」
ひとりで確認するみたいに呟いて、洵平は湿った指をいきなりぼくに突き立ててくる。
「ひゃあっ! な、何すんのさ!」
「お前にためなんだから我慢しろ」
「ぼ、ぼくのためって!?」
ためにとか言われて、いきなりお尻に指入れられても困るんですけど?な、なんか……
「気持ち、悪いよ」
「いいから、ちょっとだけ我慢しろって」
「我慢って…そ、それにそんなとこ……汚いし」
「いいから、黙って力抜けって。キツくて入んないだろ」
そ、そんなこと急に言われても無理!無理に決まってるっ!
いつまで立っても一向に身体を強張らせたままのぼくに、洵平の苛立ちが大きくなってくるのが分かる。しょうがないと溜め息を吐きながら無理に指を押し進めようとするけど、それが余計に内で蠢く指を意識させて、ぼくはどうにもいたたまれなくなる。
「チッ!」
そんなぼくについに業を煮やした洵平は、ひとつ舌打ちをして、一旦指を引き抜くと、それまでとは打って変わって優しくぼくに覆い被さってきた。
「……洵平?」
「いいから、目閉じろ」
「何す、る……んっ!」
ふわりとした感触がぼくの唇に舞い降りる。これは一体何なんだろ?と不思議に思って薄目を開けると、そこにあったのはーーー洵平のどアップで。
そこまで来て、ぼくはようやく自分達がしてる行為の意味に気づく。
キ、スしてる…おれ、キスしてるよ……洵平と。
そう思ったら、途端に胸が早鐘のように鳴り出して。最初はただ唇同士を触れ合わせるだけのようなキスが、徐々にそれは深さを増していって。強く唇を押しつけられたかと思えば、舌先で輪郭をなぞられて、苦しくて息をつこうとした瞬間に洵平のそれはぼくの口内に侵入してきた。
し、舌あ~~~っ!!
思わず引けてしまった腰を、そうはさせまいとすかさず洵平の腕が引き寄せる。そして、片手でぼくを拘束したままより深くくちづけると、ぬるりと舌で歯列をなぞった。
「んふっ! ん、んん、んくっ」
こんな…こんなことが気持ちいいなんて……全然知らなかった。
舌先で擽るように上顎の窪みを舐られると、ぼくはもうどうにもできなくなって。力なく差し出した舌をねっとりと自分の舌と絡ませながら、洵平はまたゆっくりと指先を蕾に潜り込ませた。
「んむぅ! んっ! んんっっ!!」
唇を塞がれたまま一気に根本まで埋め込まれて、でも行き場のない悲鳴は洵平の唇に吸い込まれ、残りは鼻から抜けていった。それでも、キスの所為で程良く脱力した身体は難なく洵平の指を受け入れて、なお有り余る余裕にさらにその本数を増やされた。
「んふ! あっ、ぁあん」
「ほら? よくなってきたじゃん」
指が3本に増やされ、唇がようやくキスから解放されると、そこから漏れ出たのは甘くて、とても自分のそれとは思えない声で。襞を押し分けながら内を擦る指がとある一点を掠めた瞬間、それはいきなり質量を増した。
「ああっ!」
「イイトコロ、めっけ♪」
いいところってなんなんだよ?一体、ぼくどうしちゃったんだよ!?
まるで感電したみたいにそこを擦られるとビリッとする。続けざまにそこを擦られて、ぼくはもう何が何だか分からないほど夢中で、ただ声だけを上げ続けるしかない。
「んはぅ、あっ…ぅんん……あ、っあ、ああっ」
「そろそろ大丈夫か、挿れても」
また独り言みたいに呟く。
これ以上何を入れるって言うんだろ?そんなことを考えていると、ずるりと引き抜かれた指に変わって、同じところにそれとは比べようもないくらい熱くて大きな塊を宛われる。
な、なに…これ……!?
そう思った瞬間、熱い楔はぼくの中に一気に打ち込まれた。
「んぎぅ、んぐっ!」
あまりの衝撃に目がチカチカして、あまりの痛みに奥歯を思い切り噛み締める。その熱い塊が洵平のアレだと程なく気づいたけど、ぼくにはやっぱりどうすることもできなくて、ただ勝手に流れてくる涙を止めることもできないまま洵平を深く受け入れる。
「お、おい! そんなに歯食いしばるなって!」
お尻の痛みに比べたら奥歯の軋む痛みなんてどうってことなかったけど、涙で滲んだ視界の向こうに心配げな洵平の顔が見えて。代わりにここを、と差し出された肩口にぼくは思い切り噛みついてしまった。
「んぐ! んん……っく!」
「痛ッ!」
洵平の肩からぼくのものとも洵平のものとも分からない血が滲んできたけど、洵平は一度始めた律動を決して止めようとはしなかった。
あんなに心地良かった感覚が今はもうここにはない。
もう気持ちいいのか悪いのかさえ分からない。
それほどそれは強い衝撃だった。
「い、く…育 育哉……っく!」
耳元で初めて名前を呼ばれる。それが何だかとても印象に残って、痛みと疲れで急速に落ちていく意識の中、ぼくは自分の内に広がる熱流を確かに感じていた。
「……」
「……」
「………………ぼく達って何したの?」
「何ってセックス」
「そんなこと聞いてんじゃない!ぼくはどういうつもりで ああっ!…ああいうことしたのかって言ってんの! ぼくは! ぼくは! 親友になりたいって思ってた! 杏太とみたく、洵平とちゃんと友達になりたいって…それなのに……」
どうして?
その先は悔し涙に流されて声にならなかった。
どうして?どうして??どうして!?
聞きたいことは、問い詰めたいことは幾らでもあったはずなのに、自分の意思とは反して脱力する身体が言うことを一切聞きつけない。
「杏太とお前は違うよ」
「どう違うのさ! ぼくは身体もちっさくて、顔なんて女みたいで、だから友達にはなれないって言うの! そんなんだったら最初からーーー」
最初から近づかなければよかった。
「違うっ!」
「……??」
「いいか? よく聞け! オレはお前と友達ごっこなんてしたくねぇの!」
「……友達…ごっこ」
「だっから! 聞けって! オレは! お前のこと! 育哉のこと! 友達なんてこれっぽっちも思えねぇ! 友達なんかよりもずっと大事でずっとーーー」
好きなんだからな。
耳元で囁かれる。それはーーーぼくが意識を手放す瞬間に聞いたあの声。
「……え?」
「何度も言わせんな…こんちくしょう……」
「え? えええっっっ!!??」
そ、それってどういう?どういう意味なのさっ!?!?
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「……育、杏太意識飛んでる」
洵平の言葉でようやくおれは過去から現在へと帰ってこれて、そこで魂の抜けた杏太を見た。
「あちゃあ! 杏太には刺激強すぎたかな?」
かな?じゃねぇよ!お前の場合、赤裸々に話しすぎなの!と案の定洵平に諌められたけど、おれ嘘を言ったつもりは毛頭ない。確かにリアルに語りすぎたかも知んないけど。それはもう一言一句違わずに。
「お惚気、どうもありがとう」
甲斐さんが放心した杏太を片手に、レシート片手に帰宅の準備を始める。
「甲斐さん、ご馳走様あ」
「いえいえ、どういたしまして」
「あんま杏太に無理させないで下さいよ?」
「それはお互い様だと思うけど?」
そうして、おれ達は笑って別れた。
あんなプロローグでおれと洵平の恋物語は幕を開けた。
その後、素面になったら身体中痣と傷だらけで、それが余計に生々しくて。おれが洵平のこと避けたり、シカトにキレた洵平にまた襲われそうになったり。でも、おれが洵平の言った意味を理解するまで、受け入れるまで、根気強く待っててくれたのも洵平だったから。
それから、杏太におれ達の関係をどう説明したらいいか?とか色々波瀾万丈な物語だったけどさ、あの時のおれ達がいたから今のおれ達がいるワケで。
だからこそ、今がこんなに楽しい。
そう考えるとあんな風に始まる恋も面白いかも知れない、そう思える。
おれはイルミネーションの中、幸せを噛み締めるように洵平の腕にそっと自分の腕を絡めた。
……とは言え、もうあんな無理矢理ヤラれるのはコリゴリだけど、ね?
やっぱりそこに愛がなくちゃ!だし?
Happy End
2002/12/24 fin.
戻ル?
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