「いらっしゃいませ!こんにちわ!」
「ありがとうございました!またお越し下さいませ!」
爽やかな挨拶が木霊する、ここ“すまいるキッチン”若葉台三丁目店。
『あったか家族のにこにこキッチン』がキャッチコピーで、『手軽におもてなしおふくろの味』がモットーの大手コンビニチェーン店のひとつ。
ここはいつも笑顔と活気に溢れている、イケメン揃いとこの界隈では有名な三ツ星コンビニ。
0円のスマイルと接客を武器に、そして人並み程度のコイバナ(恋話)を糧に男達は今日もあくせく労働に勤しんでいる。
「なあ?あの子また来てんじゃん!」
「あ!ひょっとして深町さんも狙ってます?」
「“も”ってなんだよ!“も”って!それはちょっと聞き捨てなんねぇぜ?」
にわかに散るのは恋の火花。
「ダメですって!僕のが先に目付けたんですから!これは幾ら先輩でも譲れません!」
「そんなのいつよ?何月?何日??何時何分何秒???」
「あの…すんません……レジお願いしていいっすか?」
「あ!はーい!只今!」
「ちょっ!ズリぃ!なぁ、アンタ淀高の生徒っしょ?名前なんてぇの?オレ、深町!深町菫!すみれちゃんって呼んで?」
「あ!深町さんズルイよ!やらせ・お手つき・おこぼれ禁止が店の三原則ですよ?」
「そんなのいちいち守ってたら、他の誰にって、店長に喰われちゃうじゃん?」
にわかに吹き荒れるのは恋の嵐。
「あの…すんません……お気持ちは嬉しいんすが、俺彼女いるんで」
「……」
「……」
「ふーん、そう。そんじゃ、ま、お会計567円でございます」
「ありがとうございました!またお越し下さいませ!」
咲くも咲かぬも恋の道。
しかし、ここに咲くのは道々ならぬ恋の花。
「深町さん、良かったんですか?あのまま返しちゃって」
「あ、いいのいいの。オレ、去る者追わずな人だから。人のモンに手ぇ出す趣味ないし。室の方こそ良かったの?」
「僕もいいです、ノンケには手を出さない主義なんで。それに僕、これでも攻専門だから」
「へ?お前攻なん?オレはてっきり……」
「人を見掛けだけで判断しないで下さい!」
そんな常識外れた会話が日常のように飛び交う、ここ“すまいるキッチン”若葉台三丁目店。
『俺、すまキチの店員さんに口説かれちゃったよ』が一種のステータスになるとか、ならないとかーーー
ウエルカム。うちにおいでよ、ここは“すまいるキッチン”若葉台三丁目店。
今日も色鮮やかに恋の花が咲き乱れるよ。
すみれちゃんと室クンの巻・完
2001/11/11 fin
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