タイトル未定
Gオンは今日の執務を終えて、やっと一息ついたところだった。
ポケットから、片手に収まる小さな機械を大事そうに出し、しばらくながめた。
インチキコイータ。Zロリが自分とGオンに、一つずつ作ったものだ。
最初はメカ双子のことを思い出して切なくなったものだが、今はもう、きっといつか会える気がしている。
かわいらしい音を出すその機械に、思わず口元がほころんだ。
(Zロリ…)
今日も野宿であろう、彼を想いながら窓辺に歩み寄った。
だんだん暖かくなり、少しは野宿が苦にならなくなっただろうか。
しかし、窓を開けてみると、思った以上に風が強い。
ちゃんと雨風をしのげる場所を見つけることができたのだろうか…
Gオンは思わず、庭に出ていた。出て、どうなるものでもないのだが、
野宿している彼のことを想うと、ヌクヌクと部屋の中にいることはできなかった。
風に吹かれながら、少し歩いていると、庭番に出会った。
「遅くまでご苦労」
「王子、風流ですね。夜桜見物でございますか?…少々風が強いので、お気をつけ下さい」
そう言われて、上を見ると、見事な薄桃色の空が広がっているのに気がついた。
ああ…うつむいていては見えないものがたくさんある…か
旅先で一緒に歩きながら、Zロリにそう言われたことがあるのを思い出した。
あらゆる風景を。草花を、そして虫を愛でるために、自称悪の貴公子は何度も足を止めたものだ。
はらはらと散る花びらが、風に舞うさまは、ヒエール国の、あの雪を思わせた
「春っていっても、まだ寒いよなぁ…」
細い体を抱くようにして、足早に進むが、やはり今夜の野宿は避けられそうにない。
「あ、雪だよ!」
「わあッ!」
無邪気に手を伸ばすNシシの、手のひらに乗ったそれは、溶けない。
「桜の花びらだ」
「え?…でも、この辺に桜の木、ないだよ」
「風でここまで飛んできたのさ。…けっこう長い旅をしてきたんだぜ」
また風が吹き、Nシシの手のひらから花びらを連れていった。
「旅をしてきただか…」
「おらたちといっしょだ!」
その時、ひときわ強い風が吹いた。
桜の花びらを追うように、赤い花びらが風に舞うのが見えた。
「あ、せんせ、バラが…」
再会の約束に、Gオンが残していった、真紅のバラ。笠にさしていたそれが、風にはらりと舞ったのだ。
「そろそろ枯れる頃だったか…」
Zロリは名残り惜しそうに、花びらの舞を見送った。
「あの花びらも旅をするだよ」
「そうだな。桜が、一緒に行こうぜ、って言ったのかもしれないな…」
バラの主を想って、ちょっとしんみりした時、突風が縞の合羽をばさばさと翻し、Zロリは軽くよろけた。
「わ〜!!」
「オラたちも飛ばされちゃうだよ!」
双子はすばやくZロリの後ろにまわり、その脚と尻尾にしがみついた。
「…お、おまえら…!おれさまを風よけにするなって!」
やがてZロリは野宿する場所を決め、ごろりと横になると、地面に頬ずりした。
「あ〜…やっぱり春は違うぜ〜…草がやわらかぁ〜い……おやす…み…」
まだ少し寒いとはいえ、やはり春はいい。
おそまつさまでした。(2006年4月13日)
妄想文ガオゾロ部屋のTOPに戻る