花嫁せんせを奪還するのはこの人だ!
蟻の這い出る隙間もないほどの数の警察官に囲まれて、Zロリはゆっくりと歩を進めていた。
警官に追いつめられ、女装して逃げようとしたのに、その姿に一目ぼれされてしまい、
あれよあれよと話は進み……ウェディングドレスで今ヴァージンロードを歩いているのだ。
最初はなんとか逃げようということで頭がいっぱいだった。
しかしウェディングドレスを身に付け鏡を見た時、まるで魔法にかかったようになってしまった。
夢うつつ…………雲の上を歩いているようだ。幸せってこんな気持ちか?
これが……ボクちゃんの運命だったんだね。ママ…………
「きれいだよ。Zロエさん」
好青年Iヌタクがやさしく迎える笑顔にそのまま流されていきそうだった。
たとえZロリが正気でも、ある意味警察にすっかり包囲され、身動きのできない状況だ。
頼みの綱の双子はまだ現れない。
「それでは指輪の交換を」
式は進む。夢はこのまま覚めないのか?
「誓いのキスを」
ヴェールがそっとあげられ、端整なIヌタクの顔が迫ってくる。
二人の唇が重なろうとした、まさにその時。
鼻先に何かが落ちてきた。小さいものだったので、それに気がついたのは
落下物の近くにいたIヌタク、Zロリ(今はZロエ)そして神父の三人のみ。
「これは……?」
Iヌタクがおもわず足元に落ちたそれ=深紅の薔薇一輪を拾おうと屈んだ時だった。
式場がどよめいた。顔をあげたIヌタクは信じられない光景を見た。
教会の天井にできた空間の裂け目から、手袋をはめた機械の手が現れ、
花嫁をすばやくつかんでまた裂け目に消えていったのだ。
「わああっっ!!Zロエさ〜〜ん!!」
あまりに突然のことで、どうすることもできなかった。
式場は騒然となった。もう式どころではなかった。
機械の手は無造作にZロリを座席に投げ込んだ。
逆さまに置かれて、しばらくもがいた後やっと座席に収まったZロリは折れ曲がった耳を整えながら隣に目をやった。
思った通り、涼しい顔をして操縦しているGオンがそこにいた。タイミングよく現れたのはなぜだか謎だが。
乱暴に扱われたおかげでZロリはすっかり正気に戻っていた。
「お…おかげで助かった…」
「礼はいらない。当然のことをしたまでだ」(キミは私のものだからな)
(心の声)までは読めずキョトンとするZロリをちらと横目で見て、Gオンは鼻先でフッ、と笑った。
「よく似合ってるじゃないか」
その一言にZロリは爆発的瞬間的に赤面した。
「だあっ!!うるさいうるさ〜い!!こんなモン誰が好きで着てるかあっっ!!」
めちゃくちゃに暴れだし、引きちぎるような勢いでウェディングドレスを脱ぎ捨てた。
裸になって着替えがないことに気付き、(あ。しまった)という顔をする。
Gオンは今度はクックッ……と押し殺したように、しかし楽しそうに笑うと、シャツを投げてよこした。
見事に狙い通りに行動したZロリがたまらなくかわいい。
「これでも着ていたまえ」
Gオンのシャツ?なんか少し大きいが…しかたがない。
「それにしても………これ、作っちまったのか?」
「ああ。ついこの前完成した。今日が試運転だ」
時空移動マシン。この前作るぞ宣言をしてからまだ日は浅い。もう完成させるなんて。
Zロリの物作りの血が騒ぐ。眼を丸くキラキラ輝かせながらあちこち触ってみている。
「ここはどうなってんだ?何使ってんだ??」
「おい。今大事な所だからいじるな。今いる亜空間から出られなくなる」
「あ、亜空間??」
「…………よし、抜けたぞ。外を見てみるかい?」
窓に目を向けたZロリはいきなり泣きながら窓に突進してGオンを驚かせた。
「あっ!!ママ?!………ママーッ!!」