タイトル未定
ある日突然地球に接近してきた巨大隕石のニュース以来、地球上は大混乱に陥った。
もうこの星とともに宇宙の塵となるしかないと知らされ、
自暴自棄になった者たちが繰り返した破壊と略奪によって、街は荒れ果てていた。
何かにすがりつきたいのか、怪しげな宗教団体も次々に現われた。
Gオンはゴーストタウンをいくつも眺めながら、バイクを走らせていた。
胸の中で、想う相手の名を呼びながら。
逢いたい。明日世界が終わるその前に、ひと目逢いたい。
自分の立場でこんな勝手なことは許されないのはわかっている……だが、せめて最期にひと目だけ。
世界が終わればどこへ行くのだろう。身分も、性別も関係のない世界か?
この星が消えても、ずっとずっと、一緒にいたい。
そんなことを考えながら、やっとZロリを見つけたとき、Gオンはわが目を疑った。
彼はたくさんの人々に囲まれて、この地球を救う話をしていたのだ。
二人きりで逢いたいと思っていた自分が恥ずかしくなった。
以前、大入道を“ともだち”と呼んでいたZロリ。その“ともだち”が、他にもこんなにいたなんて。
なんという人望。今、彼はみんなの希望の光なのだ。…かなわない。とても。
だが、話を聞いていると、巨大隕石を押し戻すために、大型メカを造る必要があるらしい。
自分の一番得意な分野で、彼の力になることができると知って、Gオンの胸に、甘い痺れが走った。
「わたしの力を、すべて貸すぞ!」
喜びに少し声が上ずったかも知れないが、そんなことはどうでもいい。
Zロリたちは、明日までにおなら名人を集めなければならないため、慌ただしく出かけていった。
せっかく逢いに来てすぐに別れなければならなかったのだが、Gオンの手元には設計図が残された。
これはただの設計図ではない。Zロリの、そしてわたしの全てをかけた戦いなのだ。
集まった人々は、家電品程度しか触ったことのない一般人ばかりだったが、GオンはB−デル博士とともに、
彼らを導いた。時間が足りない。魔法でスピードを上げるといっても、限界がある。
工事は真夜中も続けられた。疲れてはいたが、誰も不満を言わなかった。
そんなとき、作業場が急にざわざわと騒がしくなった。
「なんだ?…何か起こったのか?」
Zロリたちが帰って来たのならいいが、そうではなかった。………警察だった。
「こんな夜中に、なんでしょうか?」
作業をしている一人が尋ねると、警察官は言った。
「それはこちらのセリフだ。付近の住民から、ここで怪しい集団が何か作っているとの通報があってな」
…妖怪や海賊を含む集団が、科学者の研究所に集まって、得体の知れない機械を造っている………確かに怪しい。
「でも、…でもこれは地球のために…」
説明しようとするB−デル博士は、警察官の冷たい目に遮られた。
「今回だけでなく、以前から苦情は出ていたんだよ。何か怪しげな研究をしているし、へんな臭いもする、と。
だが、それだけでは連行するには不十分だった。…さ、今日こそ署まで来て、説明してもらおう」
「何言ってんだ、博士は地球を救おうとしているんだぞ!」
「そうだ、帰れ!!」
みんなは口々に訴えたが、警察官は鼻で笑った。
「何をバカなことを。あの隕石から逃れられるわけがないだろう!」
もう明日消えようとしている星の上にも、ガンコ者はいた。
このまま博士は連行され、たった一つの希望も消えてしまうのか?
みんなは息をのんで、なりゆきを見守るしかなかった。
その時、人ごみをかきわけて、Gオンが警察官の所へたどり着いた。
「わたしが説明する。…こっちへ。みんなはそのまま作業を続けてくれ!」
Gオンは警察官の腕をつかむと、作業場の出口付近まで引っ張って行った。
「なんだ!痛いぞ!!…お前も公務執行妨害で……」
言いかけた彼を、輝く髪の間から覗いた鋭い眼光が青い稲妻のように射た。
警察官は、その場に立ちすくんだ。
「おっ、王子…」
「それを口に出さないでくれ。忍びだ」
この国では王族関連の報道はあまりなされないため、一般の者たちは王族の顔をよく知らない。
だが、警察官はGオンの顔を知っていた。
Gオンは他の者に聞こえないように、静かに言った。
「これはBーデル博士の研究をもとに、巨大隕石を押し戻すというプロジェクトだ。私が責任を持つ。…信じてくれるな?」
Zロリはおたずね者だ。ここで名前を出すわけにはいかない。
「……わ、わかりました。…王…い、いや、…あなた様が…そう おっしゃるのなら…」
Gオンは生まれて初めて、自分が王族であったことに感謝した。
そうでなければこんなに早く警察官を納得させることはできなかっただろう。
城以外のところで、王子の名乗りを上げることなどいままで考えたこともなかった。
だが、今は目的のためなら手段を選んではいられない。
二人で世界を救うのだ。誰にもその邪魔はさせない。
おそまつさまでした。(2006年2月4日)