これは、王子様であることが発覚する前の話になります。


血と薔薇

「また会おう。Zロリ」
いつもの別れ。また真紅の薔薇一輪を残し、GオンはZロリと別の道を行った。

Gオンとの別れの後、双子はいつもよりZロリにぴたりと寄り添って歩いていた。
今まで自分たちがいた場所に、ある日突然入り込んで来たGオン。
Zロリの目は空を見ているようで、自分達には見えないものを見ているのを、双子は感じていた。
もうGオンとは別れたのだ。だから……今は目の前にいる自分たちを見て欲しい。
双子はZロリの周りをクルクルと走ってはしゃぐふりをしながら、目の前で揺れるZロリのふかふかの尻尾や細い腰に
触れては離れ、また触れては離れながら歩いた。
その気持ちを知ってか知らずか、Zロリは触れられるままにしながらいつもの陽気な歌を歌いだした。


楽しい気分で旅を続ける三人の前に、人相の悪い集団がなにやらヒソヒソと話しているのが見える。
一人は覆面をしている。Zロリ以外の覆面の男を見るのは初めてだった。
「まっ昼間から覆面か。いかにも悪者だな」
「でもせんせの方がカッコイイだ!」
「んだな」
「ふっ、当然さあ」
と、そこまで言ってからその集団の目線がじっとこちらを見ているのに気がついた。
(…マズイな。怒ったか?)
空気がチリチリする。男たちの体がこちらに向かって動いた。
「Iシシ!Nシシ!!」
Zロリは叫ぶと同時にかいけつZロリになり全速力で駆けだした。双子も心得たもので、最後まで聞かなくても行動できる。
この状況で「逃げる」以外の何があるのだ。


警察に追われる身なので走ることには慣れている。もうだいぶ引き離したかと振り返ったが
あの集団はすぐそこにピタリとついてどこまでも追って来ていた。
「ちっ!警察よりしつこいぜ」
しかもZロリたちのように息が乱れてきた様子もない。特別に鍛えられた者たちのようだ。
「はっ…!はっ…はぁっ…!せ、せんせ、オラ…もぅ……あ!!」
Nシシの脚は限界だった。いきなりガクンと折れ、小さな体が転がった。
思わず駆け寄ったZロリは、あっという間もなく取り囲まれた。
覆面の男がゆっくりと近付いてくる。
「なにも逃げることはないのですよ。わたくしの質問に答えていただければ」
「質問?」
覆面の男はZロリの帽子から薔薇を引き抜き、Zロリの鼻先に突きつけた。
「この薔薇は王宮の薔薇園にしか咲いていない品種ですよ。…あなたのようなうす汚い旅人が、なぜこれを?」
「Zロリせんせをうす汚いとは何だぁぁっ!!」
暴れようとするNシシを、Zロリは止めた。
「誰かに…もらった、とか?」
覆面の男はZロリの顔色を探ろうと、覗き込んでくる。
「あなたに薔薇を渡した男はどこにいるのですか?」
「知らないな。もう別れた」
覆面はふっ、と鼻で笑った。
「この薔薇は、極めて大切にしたい相手にしか渡さないものですよ。なのに別れたからもう知らない?…そんなはずないでしょう」
「そんなこと言われても本当に知らな…」
いきなり後頭部にずん!!と衝撃を受けて頭がほわぁぁ……とした。自分の名を呼ぶNシシの悲鳴がだんだん小さくなっていった。







Zロリは指だけで天井から吊るされていた。
「強情なヤツだな…」
「ご、強情も何も………ホントに知らないって…何度も……うぁっ!!」
また鞭がうなり、スーツの破片がとんだ。スーツはズタズタに裂け、自慢の毛並みは汗と血で汚れていた。
それでも鞭の勢いが弱まることはなかった。
痛みがひどくて気を失うこともできない。
(こいつら何者なんだ?薔薇一輪で、どうしてここまでやるんだろう…………?)


覆面は腕組みをしてじっと見ていたが、やがて言った。
「なかなか骨のある男ですね。痛みには屈しない、ということですか」
(いや、最初から知らないんだってば…もうやめて…)……と言いたいが声も出ない。

「それでは………別の方法で………ぐふふふ………」
「ですな………うひひひひひひひひひひひ……」
「これこれ、下卑た笑い方をしてはなりません。おろしてあげなさい。丁重に」

男たちはZロリの体をおろすとそのまま押さえつけ、身動きできないようにした。
「黄色い毛皮に赤い色が映えて…なんとも美しいですな」
「脱がせる手間が省けましたな…………ひひひひひ…………」

両側からむりやり広げられたZロリの脚の間に入りながら、覆面は言った。
「あの痛みによく耐えました。立派でしたよ。しかし、……恥には…どうでしょうね………」
「やっ……あ…!!」


「そこまでだ!!」
突然聞こえた大声の主に全員の視線が集中した。
先ほど別れたはずのGオンがそこに立っていた。その後ろにIシシを従えて。

「ほう、これは…よくお越し下さいました」
人数がいるためか、覆面の態度は余裕たっぷりだ。
「お出迎えしなさい」
顎でGオンを示すと、男たちはそれぞれ身構えた。

「Zロリ…!」
正視に耐えないZロリの姿を横目でちらと見ると、Gオンは牙を剥いた。
「許さん…!!骨の2,3本は覚悟しろ!!」
コートが宙に舞い、Zロリの体にふわりと降りた。

Gオンは細い金属の棒を取り出すと、男たちを次々と叩き伏せた。
そして数名残った腕の立つ刺客と、じりじりと間合いをはかる。少し息が上がってきていた。

「ふふ、剣のお稽古が不十分でしたな。ほれ、後ろに隙が」
背後からGオンを刺そうとした覆面は次の瞬間ぎゃっと叫んで転がった。
帽子の手が投げた薔薇が、その目に深々と刺さっていた。
「お、おのれ…………!!この次は…必ず…………!!」
薔薇一輪で戦意を喪失し、覆面と集団はすばやく去って行ってしまった。


GオンはZロリを抱き起こした。
「Zロリ!…………すまない……キミを巻き込んでしまった…」
「ひどいもん…だぜ……おれさまのお気に入りが…ボロボロだ………」
Zロリはそれだけ言うと、Gオンの腕の中で安心したような顔をして…気を失った。






数日後。Zロリの傷もだいぶ癒えてきていた。


「Zロリ。あの時はすまなかったな」
なんだかわからないが、Gオンのヤツが謝ってくるのはいい気分だ。
「えらい所から薔薇取って来てたんだな!あの覆面野郎、すごく怒ってたぞ」
Gオンは返事に困ったように少しうつむいた。すると帽子の手がZロリに何か差し出してきた。

それはかいけつZロリの新しいスーツだった。あのボロボロは今Nシシが必死に修復中だ。


「おおっ、なかなか気がきくじゃないか!!……んじゃ、早速」
いきなり着替え始めたZロリにGオンはどぎまぎあたふたした。
「ま、待て!!…もうここで……?!」(いや、うれしいのだが)

「Gオン…」
こころなしか、Zロリの声にはちょっと不機嫌な響きが含まれていた。
「何だ?Zロリ?何か気に入らないのか?」
Zロリはすっと立ち上がると、Gオンにくるりと背を向けた。
「おれさまのことをもっとやせっぽちだと思っていたのか?!失礼なヤツだな!!キツいぞこれ!!」
くい、と突き出すお尻には、スーツがきゅぅぅぅ〜〜ッ!!っと食い込んでいた。
「くっ…!あぁっ!………Zロリッ………!!」
今度はGオンが気を失う番だった。…………出血多量で。





おそまつさまでした。(2005年1月20日)

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