王様大会の夜
「ついて来るな!」
「お前こそついて来るな!!」
二人は肩のあたりをガンガンぶつけ合いながら大股で歩き続けていた。
“肩のあたり”というのは、Zロリの背が少しだけ低いからだ。
Zロリの肩が何度もぶつかってくると、Gオンはさすがに腕が少し痛くなってきた。
何度目かの突撃を軽くいなした次の瞬間、Gオンは初めてそこが崖の上になっていることに気がついた。
バランスをくずしたZロリに思わず手をのばしたが間に合わず、二人の体は宙に舞った。
Gオンは幼い頃から、危険に遭遇した時に身を守る術を身につけてきた。
転げ落ちても大怪我をしない態勢をつくろうとした まさにその時、Zロリがその体を重ねてきた。
「Zロリ…ッ??」
二人はそのまま もつれあうようにして転がり落ちていった。
GオンにはZロリが自分をかばおうとしてくれているのがわかった。
とっさのことで、互いに自分の身を守るだけでせいいっぱいのはずなのに…。
彼は自分よりも相手なのか。考えるより反射的に体が動いてしまうのか。
そんなことなど考える余裕もないほどのスピードで落ちているはずなのに……まるでスローモーションのように落ちていく…。
はげしく体をぶつけるだろうと覚悟していたのに、衝撃は少なかった。
Gオンが顔を上げると、目の前にZロリの顔があった。
気絶している。
すばやく全身に触れ、大きな怪我がないのを確認した。
Zロリは小さく呻いてゆっくりと目をあけた。
心配そうに覗き込むGオンと目があうと、きまり悪そうに頬を染めて目をそらした。
「Zロリ…キミは わたしを…かばおうとしたのか?……わたしの体の方が大きいのに?」
「へっ、そんなに違わないぜ」
いつものことだが、何か言われると逆らいたくなる様子にGオンも少し むっとした。
「キミはいつだって無茶をするんだ!」
猛吹雪の中で倒れていた彼を見つけたのが全ての始まりだった。
もしもあの時、あそこを通りかからなかったら…
Zロリたちが地図も磁石も持たずに迷い込んだあの道は、本来ならば人がめったに通らないような場所だったのだ。
Gオンだって、自分が作った車の試運転でもなければあんな道など通らなかった。
イカ退治対決の時、Zロリの乗った舟は海に引きずりこまれた。
あの時 Gオンは自分もまるで海の中にいるかのような息苦しさを感じていたのだ。
そしてGオンは知らなかったが、良い子スタンプ対決の時。
Gオンに勝つために無理に良いことをしようとして、Zロリは体調をくずした。
「キミみたいに無茶をする奴は、旅人には向いていないと言ったろう?」
Zロリが無茶をするかぎり、別れればまた逢えるのか いつだって不安になるのだ。
Gオンは、今ここに一緒にいることを確かめようとしているかのように、Zロリの体にもう一度触れた。
抱きしめると、その体は折れてしまいそうに華奢で…それなのにやわらかく心を包み込むようだった。
「よけいなお世話だ!おれさまは旅を続ける!」
「キミの体にたくさんの傷跡があるのを わたしは知っているのだよ。どんな危険な目に遭ってきたんだ」
あの双子と話をすれば、知らないZロリを知ることができるだろう。
だが、その前の…一人旅をしていた頃のことを…いつか知ることができるのだろうか…。
「お前な。おれさまのことばっかり聞こうとしてるが、お前こそ王子だってことをナイショにしてたじゃないか!」
それを言われると、Gオンは言い訳できない。
でも、王子であることを知ったあともZロリの態度がまったく変わらなかったのは何よりうれしいことだった。
「そうだな…隠していて悪かった。いつも気になっていたんだ」
素直に言われて拍子抜けしたのか、Zロリはきょとん、とした顔でGオンを見た。その表情にGオンは微笑んだ。
一国の王子でもあり、つくりたいものを探す放浪の科学者でもあるGオン。
相反するように思えるが、どちらもGオンに他ならなかった。王室に生を受けても、彼の魂は放浪者だった。
それを二つとも知り、受け入れてくれるのは今 Zロリだけだった。
王の資質を持つ 漂泊の者Zロリは、確かにGオンと似た者同士だ。
もとは一つだったのかも知れない。だから一つに戻りたくなるのかも知れない。
「でも今 わたしはとてもうれしいのだよ。これで キミの前では 何のわだかまりなく自分さらけ出すことができる。
…Zロリ。…今のキミはとてもいい表情をしているよ」
月明かりを背中に受けたGオンのシルエットが目の前を覆うのを、Zロリは少し不思議な気持ちで見ていた。
なんて…なんて無防備な表情をしているのだろう。
Gオンは胸をときめかせた。
もう、自分を偽る必要はない。
「キミが欲しい」
GオンはZロリの首筋に顔を埋め、その舌や歯で愛撫し始めた。
「なん…だっ…?!Gオ…ンッ…」
敏感なZロリが必死に押さえた叫び声を心地よく聞きながら、Gオンは下へと手をのばし、硬い部分に触れた。
「Gオ…ンッ……や…っ、やめ……ぁ」
「せんせ〜…Zロリせんせ〜…!!」
遠くの方からZロリを呼ぶ小さな双子の声を聞き、Gオンはその手を追い立てられるように動かした。
Zロリは激しいめまいを感じて固く目を閉ざし、歯を食いしばった。
時折呻き声をもらすその顔は、月に照らされて凄絶なまでに美しかった。
Gオンは手の中にZロリの拍動を感じながら、魅入られたようにその汗に濡れた顔を見つめていた。
やがてZロリは目をあけて、一瞬Gオンを見つめたと思うと 体をこわばらせ、ふっと遠くを見るような目つきになった。
Zロリの体温がGオンの手を伝って落ちると同時に、体からがくんと力が抜けた。
息が止まっている。
Gオンは我に返り、激しい後悔の念に襲われた。自分を狂わせたのは月なのか、目の前の彼だったのか…
いや、そんなことはどうでもいいい。
Zロリを呼びながら、何度も体をゆすった。
息を吹き返し、目を開けたZロリは またすぐに 恥ずかしそうに目を伏せた。
「すまない」
Gオンが小さく言うより早く、Zロリは言った。
「気絶したんじゃないぞ…今…ちょっと夢みてただけだ…」
彼はこんな強がりを言いながら、また無茶を重ねて生きていくのだろうか
「キミは…自分が不死身だとでも思っているのか?」
「そうだ。おれさまに不可能はないのさ」
Zロリは月を見上げた。月の中に浮かぶママの面影を見ていた。
こわいものなどない。ママが見守ってくれているから。
崖の上から双子の叫び声が聞こえてきた。
「せんせ〜!!探しただ〜」
Zロリは立ち上がり、とびきりの笑顔を双子に向けて思い切り手を振った。
おそまつさまでした(2006年2月22日)
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