ファーストコンタクト
1メートル先も見えないほどの猛吹雪の中、次の町に車を走らせていると、不自然に盛り上がった雪の塊が道をふさいでいた。
(危なかったな。こう吹雪が激しくては、うっかり見逃して乗り上げてしまうところだった)
車を降りて塊に近付き驚いた。端から衣服のようなものがのぞいている。
(…行き倒れか…?!)
すばやく雪を払うと、三人の姿が現れた。まだ子供らしいのが二人。完全に凍っている。
そして男が一人。雪山を越えるとは思えない軽装だ。無茶にもほどがある。
男はわずかだが、まだ息があった。完全に凍った子供たちの方は急激に凍ったのなら蘇生できる望みはある。
冷凍睡眠と同じ状態だからだ。体が小さいのが幸いしたらしい。
男の方は命が危ない。一刻の猶予もならなかった。
Gオンは子供二人をすばやく荷台へ積み込み、その旅人を抱え上げると座席に戻った。
シートを倒して寝かせ、濡れた服にこれ以上体温を奪われないよう、全て脱がせ、毛布でくるんでマッサージした。
(氷みたいに冷えてる。体力もなさそうな細い体だな。なんであんな無茶な旅をしてるんだ?)
気付けが必要なのを感じ、ブランデーを取り出すと旅人に飲ませようとした。
だが、凍えて気を失った旅人は歯を固く食いしばっていて、受け付けようとしない。
Gオンは考えた末、ブランデーを口に含み、唇を重ねた。気管に入らないよう、
相手の喉が鳴るのを確かめながら、少しずつ、少しずつ流し込んだ。
ブランデーで少し血の気が戻ってきた旅人はゾクッとするほどなまめかしかった。
Gオンはまるで誘われるようにその冷たい体を抱きしめた。
次の町までどのくらいあるのかわからない。ここである程度回復させなければ、途中で命を落とすリスクは大きい。
体の表面はまだこんなに冷え切っている。体内の温度も確認する必要がある。最も確実な方法で。
…まるで言い訳だ。そんな考えがふと頭をよぎる。それでも毛布の中に手を入れ、旅人の尻尾の下に指を挿れた。
意識のない旅人の体のその部分だけが別の生き物のようにGオンの指を咥えこみ、キュッと締め付けた。
ひんやりとした感触はその心地よさとは逆に、彼の命が危険なことを示していた。
彼の命が助かるかどうかの鍵を今自分が握っている。そう感じながら、旅人に心を奪われていることにはまだ気がついていなかった。
Gオンはもう一度唇を重ねていた。こんどはブランデーなしで…………。
そして…Gオンの手技と舌技により、旅人の体は徐々に熱を取り戻していく。同時にGオンも自らのものが熱くなるのを感じた。
旅人の手をとり、自分のものに当てがい、上下に擦り続けた。息が荒くなる。旅人の息も乱れている。
十分に硬くなった頃、もう一度指を挿れてみた。先ほどよりぬくもりを取り戻した襞がGオンを求めるように吸い付いてきた。
旅人は小さなうめき声をあげたが、まだ目覚めるには至らなかった。
Gオンは旅人に体を重ねた。温かく濡れた旅人の体はゆっくりとGオンを迎え入れた。
Gオンは旅人のものを手で愛撫しながら、静かに、静かに腰を動かした。
乱暴にすると起こしてしまいそうで。…いや、起きたほうがいいのか?
もし、今起きたら…彼はどんな反応をするんだろう…
旅人の うなされているような、それでいて切なげな甘い声を聞きながら考えていた。
かなりの時間が経過しているが、旅人は目覚める様子を見せない。Gオンの胸を不安がよぎる。
助かるのだろうか…?それともこのまま…いや、彼を…助けたい。
……生きて…生きてくれ……
祈るような気持ちで動かすその手の中に、彼の拍動を感じる。
やがてそこからほとばしる、白く暖かい命の証がGオンの手を濡らす。
同時に、瞬間的に硬直した旅人に締め付けられる心地よさにGオンは一声低くうなると、旅人の中に精を放った。
すべてが終わった。それでもまだ意識を失ったままの旅人をしばらく抱きしめていた。
温かい…もう命をなくしてしまうことはないだろう。あとは回復を待てばいい。
彼が取り戻した体のぬくもりが、一人旅で少し冷えていた自分の心も暖めてくれている気がしてきた。
不思議だった。初めての相手なのに、抱いていてこんなに心が安らぐのはなぜなのか。
Gオンは再び全速力で車を走らせた。先ほどまでの猛吹雪がうそのように晴れ、暖かすぎるほどの天気となった頃、町が見えてきた。
「どうやら町についたよ。眠り姫クン」
医者を探したが、この町の病院はみな満杯だった。
「この異常気象で、熱中症の患者さんが多いんです」
寒さで具合が悪いと説明すると不思議そうな顔をされる始末だ。
途方にくれていると、一人の医師が紹介状を書くことを申し出てくれた。
「大統領の官邸?」
「この小さな国で、病院並みに設備が整っているのはそこだけです」
(なんだかえらいことになったな…)
行きずりの旅人を助けて、小さいとは言え、国の大統領の世話になるとは。
大統領はGオンたちを歓待してくれた。ただ、裸の旅人を毛布でくるんでいるのには驚いた様子だった。
「あの、お連れの人は…その、服は着ていらっしゃらないので?」
「ああ…吹雪で濡れてしまって」
「それでは寝巻きをお貸ししましょう」
メイドが旅人に寝巻きを着せようとしたが、Gオンはその寝巻きを受け取り、自分が着せると申し出た。
この旅人の体には他の誰にも触れさせたくない。
大統領たちも眠り続ける旅人が気になるのか何度も部屋に入って来てはそばで様子を見守っていた。
本当はもっと二人きりでいたいのに…………
そんな気持ちを周囲の者たちには知られたくないのでGオンは一人だけ距離を置いて椅子にかけ、
コーヒーを飲みながら眠り姫の目覚めを待つことにした。
数十分後、旅人は何かを追い求めるようにうなされ始めた。
「ママ――ッ!!」
叫びながら跳ね起きた彼は、自分の置かれた状況の説明を大統領から受けている。
Gオンは背中ごしに聞こえる思ったより元気そうな旅人の声にほっとした。
彼が近付いてくる。
「おかげで命拾いしたぜ。Gオン博士」
感謝の気持ちでいっぱいの声。初対面なのになんのためらいもなく握手を求めてくる。
邪気のない目がまっすぐにこちらを見ているのを痛いほどに感じてなんだか切なくなった。
(・・・眠っている間に、体に何かされたかもしれないなど、微塵も考えないのか。
旅をしていると、いろいろな経験をしただろうに、人を疑うことを知らないのか?)
Gオンは意識のない彼の体を好きにした自分が急に恥ずかしくなった。今この手を握り返すことはできない。
「悪いが握手はしない主義でね。トイレに行って手を洗わないヤツも多いからな」
ああ……どうして私はこうなんだろう。気持ちとは反対の態度をとってしまう。
まともに彼の顔が見れない。この場をはやく離れなければ。
Gオンは散歩と口実をつけ、しばらく一人になることにした。
だが、彼をいとおしいと思う気持ちには逆らえず、後ろ手に小さな薔薇を一輪投げた。
おそまつさまでした。(初出:2004年8月27日)