王子様は忙しい
いつものように、陽気に歌いながら、とある小さな村にさしかかった。
そろそろお昼どきだと、腹の虫が催促している。
「さ〜て…どっかで食事を…」と、見回すと、異常に長い行列が目にとまった。
「なんだ?あれは!」
「きっと法律事務所だよ!」
「ん〜なるほど…って、んなワケあるか!…時間帯から見て、うまくて安い店だ!そうに決まった!!」
ダッシュで近付くと、なんだか様子が違う。
並んだ人々は、みんな家電品などを大事そうにかかえているのだ。どうも食事をする所ではないらしい。
「でも…おっかしいな…どう見たって電器屋じゃないぞ…」
うまくて安い店でなければもう用はないので立ち去ろうとすると、聞き覚えのある声がした。
「時々中を掃除して。…また動かなくなったらここに連絡を…」
「ありがとうございます!」
少し重そうな箱を大切にかかえて少年が出てくると、入れ替わりにこれまた箱をかかえた老人が入って行く。
手ぶらのZロリは行列とは無関係に建物に入った。
「ああ…お待ちしていましたよ…王子様…ありがたい…ありがたいことです…」
(王子だってぇぇ!?)
やはり聞いたことのある声だと思った。いや、あの声を聞き間違うはずがない。目の前には彼がいた。
「Gオン!こんな所でなにやってんだ?…旅費稼ぎか?」
Zロリが少しからかうような調子で言うと、意外なことにGオンではなく老人が怒った。
「この無礼者が!!王子様は無償で修理して下されるのだ!!」
「へぇ?!」
思わずマヌケな声を出すと、すぐ後ろで順番を待っていたおばさんが言った
「どこの馬の骨だか知らないがなれなれしいね!王子様と呼びな!
王子様はね、もう何年もこうして時々来て下さってるんだよ。」
「へ〜そいつはご立派…」
「この村には電器屋がないんでな」
照れ隠しなのか、修理の手を休めないままぶっきらぼうにGオンは言った。
見ただけでわかる。持ち込まれている機械は メカに精通したGオンにとって、たいくつなしろものにすぎない。
目を閉じていても、手探りであっという間に直せてしまうようなものばかりだ。
だが、それを一つ一つ、丁寧に直し、笑顔で持ち主に返している。
日は西に傾いてきているが、行列はなおも続く。
「王子様いらしてるんだって?!」
「洗濯機が動かなかったのよ!これで助かるわ〜!」
Gオンが来ていることを聞きつけた人々が、続々と集まってくるからだ。
Gオンはちょっと目頭を揉んだりしている。きっと朝からずっと続けているのだろう。
このままでは徹夜になってしまう。Zロリは行列の後ろまで聞こえるように大声を出した。
「なさけないぜ、Gオン!…おれさまなら、こんな機械、おまえより早く直してみせる!」
Gオンは きっ!と顔を上げ、Zロリを見据えた。
この瞬間、行列をなす人々は二人の意識から消え、この空間には二人だけとなった。
「おもしろい!…そうまで言うなら、どっちが早く多くのものを直せるか勝負だ!」
「受けてたつぜ!」
本気の二人は ものすごい。常人には見えないほどの速さで動く器用な手で、みるみるうちに機械を直していく。
村人たちは最初、Gオンに直してもらおうと持ってきたものを、どっかの馬の骨が触るのを苦々しく見ていたが、
そのすばらしい仕事の前に、すぐに行列は二つに分かれて縮まっていった。
「やるな、Zロリ」
「お前もな、Gオン」
二つの行列はほぼ同時に消え、二人の勝負は ドローとなった。
Zロリがはっと気がつくと、足元に双子が転がっていた。
「せんせ…おなかが…おなかがすいただ〜…」
「あ〜!!…昼メシすっかり忘れてたぁ〜!!」
ふらつくZロリに、すっと手をさしのべて、Gオンは言った。
「これから泊まる場所を探すのは大変だろう?ここで食事もするといい」
そんなことを言われても、宿に泊まる金などない。
そうZロリが口にする前に、わかっている、という顔でGオンは言った。
「今日は助かった。…みんな喜んでいただろう?…私におごらせてくれ」
「そ、そうまで言うなら…おごらせてやるぜ!」
えらそうに言ってはみたが、なんだか照れる。いつもと違うGオンを見たせいだろうか
夜も更け、双子たちは寝静まったがGオンはまだ起きて何か書いている。
「何してんだ?寝ないのか?」
「明日会議があるんだ。そのためにここに来ているんだ」
「会議…?何の?」
「私の国とこの村をつなぐ橋を架けるんだ」
Gオンの王国と、ここは海で隔てられている。
「橋ができれば生活がしやすくなるぞ。…今回で話を詰める予定だ」
「ってことは…昼のボランティアは…ついでに…」
Zロリが言いかけたとき、突然Gオンの目が鋭くなり、同時に窓に向かってペンを投げた。
かすかに「ぎゃっ」という声が聞こえたので、窓に駆け寄ると、何者かが逃げて行くところだ。
Gオンは小さな虫の形をした機械を出すと、その人影を追って飛ばした。
「私を狙っているのだよ…あれで居場所を突き止めてやるさ」
Zロリはそれが以前、Gオンを監禁していたことがある奴らだとわかった。
「王位継承権がどうとか…言ってたよな」
「ああ…身内の恥だ」
「まァ、どこにでも必ず一人はいる、親戚の困ったおじさんってことだな!」
シリアスな問題を 軽〜い調子で言われて、Gオンは苦笑した。…確かに当たっていたから。
「明日の会議が優先だからな。今はかまってはいられな…」
そう言いかけて、Gオンはまた、ハっとした顔になり、いきなり全く関係のない数式を書き出した。
「おい〜…何だそれ?」
「話しかけるな!…今、ひらめきが…!!よし、解けそうだ!!」
イキイキした科学者の顔で、Gオンは計算に没頭している。
「明日の会議の準備が途中じゃないか」
「ああ」
何を最優先するんだ?…どんなに忙しくて…も…ふぁ〜…体は…一つだろ…」
もう眠さに勝てず、大きなあくびをくりかえしているZロリに、Gオンは頬を寄せていたずらっぽくささやいた。
「最優先か…そうだなZロリ。…まずキミをイカせてあげよう」
おそまつさまでした。(2006年6月6日)
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